第三十五話
「よーし五分休憩だ!フリースロー二本決めた者から休んでいけ!」
「お、おい早く打て!俺はトイレに行きたいんだ!」
「急かさないでくださいよ!あ、外れた!」
コーチクリニックが終わり、今はもう五月の終わり頃だ。夏の県大会の地区予選は六月の中旬から始まる。もうほとんど時間はない。
体育館の気温は、前と比べてどんどん上がってきている。夏がすぐそこまで来ているのが分かった。
今までの練習は、春大会で課題だったフリースローの確率を上げることと、暑い時期に走り続ける体力を養うことを重点的に練習した。また、クリニックで西谷先生が言っていた、「自尊心、思考の柔軟性、想像力」の話を聞かせたりした。
また、県内の高校と練習試合を二回ほど組んだ。どちらも弱小と呼ばれるチームだった為、西商が圧勝した。本当は南北ともう一度対戦したかったが、南北の監督が変わるごたごたのせいでその希望は叶わなかった。
休憩時間、ダンクコンテストなどと言って能勢と大賀がダンクの練習をしている。元気な奴らだ。
大賀は一本も成功していなかったが、能勢は長い腕を活かしてツーハンドダンクを叩きこんでいた。助走さえあれば能勢はダンクができるようだ。
…どう考えても地区予選二回戦で終わらせていいチームじゃない。次の夏大会では絶対に結果を残さなければ。
不意に教官室のドアが開き、佐藤先生が顔を覗かせた。
「黒沢先生、お電話です。」
「あっはい。今行きます。」
電話の主は、正心高校の庄先生だった。
「どうもお久しぶりです。えっとですね、夏大会も近いということで、最終調整ってことで練習試合をしたいんですよ。もしよろしかったら受けて頂けないかなと…。」
「練習試合ですか。いいですよ!いつぐらいなら都合がいいです?」
「えっとですね…。」
練習試合を最後に一度行っておきたいというのは、こちらとしても考えていたことだった。ただ、正心高校は確かこの前バスケ部ができたばかりと聞いたが、初心者集団だとするとあまり良くないかもしれない。初心者とやって怪我をされても困るし、またこちらが怪我をするのも怖い。
しかし、対戦高を選り好みできるような身分ではないし、正心の子が初心者と決まっているわけでもない。気をつければ大丈夫だろう。私はこの練習試合を来週の土曜日に受けることにした。
「集合!」
部員を集める。
「おい、柳と五島はどこに行った?」
「先生が休憩時間が終わっても教官室から出てこなかったので、どっか行っちゃいましたよ。」
「どうせ部室だ!連れ戻して来い!」
…しまった、まずこの辺を指導するのが先だっただろうか。
「来週の土曜、正心高校と練習試合をすることになった。さほど強い相手ではないが、怪我だけは絶対にないようにプレーするように。」
「正心高校ってバスケ部ありましたっけ?」
「今年からできたらしい。」
「へー。」
ちょっと空気が緩むのを感じた。どうせ弱小だと考えているのだろう。
しかし私はこれをただの練習試合で終わらせたいとは思っていない。
「では、練習再開!ツーメンからの二対二だ!…あと能勢、ちょっと来い。」
「はい?」
能勢はおどおどとしながら歩いてくる。他の部員達は、練習に戻っていく。
「な、何ですか?」
「お前に課題を与える。一つは、次の試合でダンクを最低一回はすること。」
「えっ?」
「二つ目は、六十点以上得点すること。いいな。」
「ええっ!?」
「ただしこの話は他の部員にはしないこと。」
西谷先生の話を思い出す。能勢に足りないのは、自尊心だ。能勢は自分のプレーにもっと自信を持っていいのだ。スコアラーとしての能力は十分にあるのに、自信の無さがそれを打ち消している。また、周りの選手に遠慮しすぎている。
弱気であったり、遠慮する気持ちが少しでもあれば、60点を取るなんてことはできない。ある意味、これで吹っ切れてほしいと思っていた。
「ちなみに達成できなかったら、今後一週間筋トレだけさせるから。」
「ええー!」
ちなみにダンクを条件として言ったのは、ただ単に私が見たかったからだ。
ちょっとスローペースでの投稿になっていきそうです。




