第三十二話
「お前ら何帰ろうとしてるんだ!片づけを手伝いなさい!」
「げっ!マジッすか…。」
のんびりと出口の方に歩き出していた西商の部員達を引きとめる。
試合会場の片づけは、別に私たちがやらなければならないということはないが、これ礼儀のようなものだ。良い試合をしていた選手たちにあまり負担を掛けさせたくない。
会場では片づけの為選手や役員の人間が目まぐるしく動いている。私も突っ立っている訳にはいかないので、役員席の片づけを始めた。
今日の試合を見ていて私は思った。今の西商と彼らは、レベルが違いすぎる。
それは単に能力の差だけではなく、勝利への執念であるとか、チームとしての完成度、戦術のレベルだ。限界を超えて走り続ける姿勢や、セカンドメンバーでも戦力が落ちない層の厚さ。
また、ベンチワークにおいても、私の力の無さを痛感させられた。敵チームの選手への対策や、自チームの選手の使い方、交代のタイミングなど、深いレベルで理解しているのだろう。
特に付属の大河原監督は敵チームの選手への対策がしっかりと出来ており、大鷲監督は自チームの選手の使い方を心得ていると感じた。思えば南北高校との対戦の時も、熊代監督はこちらのチームのことを研究していたことを匂わせる発言をしていた気がする。
しかし私は、相手チームの研究なんてしてはいなかったし、自チームの選手についても能力をしっかり把握できていなかったのではないか?その辺が、南北との試合に敗北した原因ではないのか。
校長先生に言われた「指導力」の話。私は「正直、才能があるかないかが大事だろう。」と考えていたが、何とも滑稽ではないか。私は西商の選手たちの才能を全く活かせてないのだから。
そもそも私に監督としての才能がないのでは?
「黒沢先生?」
「えっ?」
後ろから急に声を掛けられた。振り向くと、佐藤先生が立っている。
「急に立ち止まって、どうしたんです?」
「すみません、少し考え事をしてまして。」
どうやら私はスチール椅子を手に持ったまま固まっていたようだ。なるほど変な人間に見えても不思議ではない。
「悩み事ですか。」
「はい。…私、監督としての才能がないんじゃないか、って思ってて…。」
「才能?」
佐藤先生はプッと吹き出す。
「じゃあ黒沢先生は、才能がないから辞めるって言うんですか?」
「いや、そういう訳では…。」
「監督なんて、経験がモノを言うものですよ。才能なんて気にしない気にしない!名将って言われるような監督も大体は年寄りですし。」
…確かに。
「何か心配事があるなら、確かもうすぐ『山岡県コーチクリニック』があるので、そこに行ってみたらどうですか?というか私も行くので、一緒に行きましょうよ。」
「それは行きたいです!」
そう言って佐藤先生の顔を見てみると、笑顔の中に、うっすらと、涙の痕があるのを見つけた。
試合後の毅然とした彼女の表情を思い出す。もう少しサバサバとした人間だと思っていただけに、そのギャップに、少し心が動かされるのを感じた。




