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西商バスケ部監督物語  作者: のぶし
まとめ
4/99

9-14話まとめ

9

「片づけが終わったら体育館の二階でしっかりダウンして、三十分後に部室に集まりなさい。」

 紅白戦の後、すぐに女バスの練習が始まるので手早く片づけをさせて、黒沢は教官室に戻った。すると、女バス顧問の佐藤先生が話しかけてきた。

「白熱した試合でしたねー。」

「ええ、子供たちも思ったより本気でプレイしてくれてるみたいで、私も熱くなってしまいました。」

「最後の速攻、すごく速かったですね!さすが大芸高校バスケ部出身です。」

「でもあの時間は自分で判断して行っちゃいましたけど、子供たちに任せた方が良かったですね。ああいう場面で正しい判断をさせるためには、試合経験を多く積ませることも大事ですし。」

「それはありますよね。では、私は女バスの練習を見に行ってきます。」

「どうぞ。」

 佐藤先生が教官室から出て行った。さあ、今日の試合を振り返って、次の土曜日の練習試合のスターティングメンバーを決めなければ。

 しかし一年の能勢の終盤のプレイは凄まじかった。県選抜選手と言われても信じてしまいそうだ。ただ、前半全く点を取りにこなかったし、アンセルフィッシュな性格の選手なのだろう。

 二年生も去年地区大会二回戦負けとは言え、十分に優秀な選手が揃っている。去年は部員が五人しかいなかった計算なので、メンバーを替えられない弱みを突かれたのではないか。

 トーナメントの組み合わせ次第では、ベスト8も十分狙えるチームだ。指導のしがいがありそうだ、と黒沢は思った。




「よし、全員集まったな。まず大事な話がある。今週の土曜日に、あの大芸高校と練習試合をすることになった。」

 練習後のミーティングとかダリいな、とか言っていた部員達が、急に静かになった。

「とは言っても来るのは大芸の一年生だけだ。しかし、当然中学で有名だった選手ばかりだろう。舐めてかかってはいけない。」

「一年か…、良かったよ、正直あいつらとまともに試合するとか、考えたくねー。能勢、向こうの一年生に選抜の知り合いとかいるか?」

 少し緊張感のある空気だったが、柳はまるで気にしていないという様子で能勢に話しかけた。

「あ、えと、確かU-15に選ばれた人がいたはずだと思います…。」

「はっマジ!?市選とか県選とかのレベルじゃねーじゃん!」

 それには黒沢も驚いた。大鷲先生、そんなこと一言も言わなかったじゃないか…。

「あれだろ、山神だろ。泉中学の。ミニレブロンって言われてた奴。」

 大賀は知っているようだった。泉中学と言えば、去年初めて全国大会に出場し、ベスト4まで上り詰めた中学だった。

「そう、それです。ミニ、といっても190超えてますけど。」

「おおそうか…。あいつが二年の頃にマッチアップしたことがあるが、その頃はまだ180ぐらいだったな。そんな成長したのか。」

「はいすごい選手になってますよ。」

 さて、選手をあまり遅く帰すわけにもいかないので、本題に入ろう。

「そこで、スタメンをさっきまで考えていたんだ。それを発表したいと思う。」


PG柳良太

SG小町啓介

SF小倉心

PF大賀大河

C能勢球児


「これで行きたいと思う。もちろんスタメンじゃない選手にも、プレイタイムは与えるから心配するな。」

 しかし、ここで「…は?」と五島が言った。

「なんで、俺入ってないの?なんで小町?」

 不満げというより、信じられないといった表情だ。

「俺、一年のなかで一番点取ってるし、小町なんか能勢のパスからシュート決めただけだろ。得点力考えたら、俺入れるべきじゃねえの?」

「お前はな、ディフェンスができなさすぎる。小町を入れたのはスリーがうてるシューターが欲しかったからだ。お前は確かに得点力はあるみたいだが、うちには小倉や大賀とか、点の取れる選手がいるんだ。お前にはシックスマンとして、その代わりを務めてもらいたい。」

「いや、ディフェンスって…、小町だって小倉先輩に取られまくってるし、柳先輩のハンドリングやべえんだから、簡単に止めれるわけないっしょ!」

「じゃあお前は柳に抜かれた後どうした?お前は、笑って足を止めたんだ。ディフェンスのやる気のない選手を、スタメンにおくわけにはいかない。」

 小さく舌打ちが聞こえた。

「あーそう…、もー分かった。帰る。」

 五島はかばんを抱えて、そのまま部室から出て行った。




 ちなみに小町はこの言い争いの最中、ずっと寝ていたようだ。


10

 五島は私の担当しているクラスの生徒だったが、何かと職員室でも話題になる生徒だった。まだ授業が始まって数日だが、授業態度は悪い、提出物は出さない、言葉づかいも良くない。しかし新入生テストでは学年トップだった。数学の先生はカンニングを疑って、彼に授業中かなり難しい問題を答えさせたが、スラスラと解いてしまったそうだ。

 紅白戦の次の日の練習、彼は来なかった。スタメンに選ばれなかっただけでそんなにやる気を失ってしまうものだろうか。むしろ、スタメンを目指してやる気を出すべきではないのか。…口では簡単に言えるが、実際のところどうやる気を出させればいいのか分からなかった。


「おっす、五島」

「…ああ、田部か。どうした。」

「昼飯一緒にどうかな、って思って。」

 そう言って田部は五島の隣の机から椅子を引っ張ってきた。

「同じクラスの奴と食えばいいだろ。」

「ちょっと話したいんだけど。」

 五島は溜息をつきながら鞄から弁当を取りだした。


「今日も部活来ないの?明日練習試合なんだけど」

 五島は、やっぱりそれか、という表情をした。

「もうずっと行かねえかも。もうあの先生も俺を使う気ないだろうし、空気悪くしちゃうしな。」

「それはないでしょ。五島のオフェンスの上手さは先生も認めてるよ。『シックスマンとして、小倉や大賀の代わりを務めろ』って言ってたじゃん。かなり期待されてると思うけど。」

「…でも、俺のディフェンスはお気に召さないみたいだぜ。」

「五島だって足があれだけ速いんだし、ディフェンスもやればできるんじゃないの?」

「やだよ。したくない。ディフェンス頑張って相手にシュート外させたところで、数字には残らないじゃん。」

 五島は続けて言った。

「俺は、結果が欲しいんだよ。何点取ったとか、何アシストとかっていう。ベンチからちょこっと出て、ちょこっと点取るだけの役割なんてごめんだね」

 少し間を開けて、田部は反論した。

「それは、自分勝手じゃん。」

 五島は箸を止めた。

「自分が何点取ったとか、何アシストしたとか、チームの勝利には何の関係もないじゃん。それに、ディフェンスで頑張って相手を止めれば、数字には残らないかもしれないけどチームは勝利に近づけるよね。一つの得点がチームの流れを変えることもあるし。」

「チームの為にバスケしろって?」

 五島は弁当をしまい始めた。まだ半分も食べていない。

「監督みたいなこと言ってんじゃねえよ。」

 五島は席を立とうとした。その腕を田部は掴む。

「またそうやって逃げようとする。」

 五島は舌打ちをする。

「あの先生だって、正直まだ僕らのことは何にも知らないと思うよ。五島の代わりに小町がスタメンになったのも、あの紅白戦一試合見ただけの結果でしょ?」


「見返してやったらいいじゃん。俺はこれだけ活躍できる選手だってことを。スタメンは自分でもぎ取るものでしょ。逃げてたら、何にもならないよ。」

「…それで、使ってくれる監督だったらいいんだけどな。」

 五島は、掴まれた腕を乱暴に振り払うと、また椅子に座った。

「うちの中学のバスケ部、三年から監督が変わったんだけど、チームオフェンスをホントに重視する先生だった。個人練より、セットプレイとかを練習する時間の方が長かったな。俺は、そのことにも反発した。そしたら、二年の時はスタメンだった俺はベンチに回されたんだ。『お前はこのチームに合わない』って言われた。結局その監督の指揮でうちの中学は初めて県大会まで行けたんだけどな。ただ…、」

 五島は目を合わさずに喋り続けた。

「ただ?」

「その時のスタメンだった奴らは、今は皆バスケ辞めてるよ。笑っちゃうよな、スタメンだったのに俺なんかよりずっと下手くそなんだ。そりゃセットプレイばっか練習したって上手くならねーわな。」

「そう…そうだね。その指導は僕もおかしいと思うな。でも、その監督と今の監督は違うよ。」

「あの先生が俺に言ったことと、俺が中学の時に言われた『お前はこのチームに合わない』って言葉、どれだけ違うんだ?」

 田部は反論できなかった。なんとか言葉を探すが、何も出てこなかった。あの監督がどんな指導をするのか、自分だって知らない。

周りで楽しそうに昼飯を食べている同級生が騒いでいた。

「でも…。」

五島が話を続けた。

「お前に免じてもうちょっとはやってやるよ。ただ、あの先生がやっぱり俺を使う気がないんなら、辞めるけどな。」

 五島はそう言って恥ずかしそうに笑った。

「あ、あ、ありがとう。」

 田部は少し涙目になりながら言った。五島をそれ見て噴き出す。

「なんでお前ちょっと泣いてんだよ!おかしいだろ!」

「ごめん、ちょっと、嬉しくて。…じゃあ速くご飯食べよう!もう時間あんまりないよ!」

「おう。」




 今日の練習も終わった。基礎練習がメインで、最後はまたチームを替えて紅白戦をしたりした。

 五島が帰ってきてくれたのは嬉しかった。何故帰ってきたのかは分からないが、おそらく部員の誰かが声を掛けたのだろう。しかし、その為に自分が何かするべきだったのではないかと、黒沢は少し悔しい気持ちも覚えた。




 そして、練習試合当日。

「お久しぶりです、大鷲先生。」

「おお黒沢か、相変わらずちっこいな。どうだ、そっちのチームは?」

 大鷲先生が、昔より体が小さくなっているような気もしたが、口には出さない。

「ええ、才能のある選手がいますよ。」

「ふーん。まあ、悪いがこれから三年間は間違いなくうちの時代だ。とてつもないルーキーを手に入れたからな。」

 大鷲はニヤリと笑った。

「…あのU-15の選手ですか?」

「おう、将来が楽しみだあ。」

「うちにだって、期待のルーキーはいますよ。…いい試合をしましょう。」

「試合後、泣くなよ?」

 そういって握手をする。手が痛くなるほど強く握ってきた。



 …果たして、どんな試合になることやら…。


11

西商

PG柳 167cm

SG小町172cm

SF小倉177cm

PF大賀184cm

C能勢 186cm


大芸一年

PG上原 170cm

SG早見 175cm

SF安部 183cm

PF山神 191cm

C 国富 190cm


「全部ちょっとずつミスマッチだな。」

 圧倒的に高いという選手はいないものの、どのポジションでもこちらの方が身長は低い。さらにU-15で大鷲先生も期待しているという山神は191cmで、マッチアップする大賀より7cmも高い。ここを何とか止める戦術が必要だった。

「ヘルプ、ローテーションをしっかり声出して繋げていこう。リバウンドは全員で取る意識だ。運動量で勝っていこう。」

 ゾーンディフェンスを練習する時間もなかった。とりあえず、選手たちに期待するほかない。



 選手たちが中央に集まる。ジャンプボールに跳ぶのは能勢と山神だ。

「おっ能勢じゃん!久しぶり!」

 気軽な声で話しかけてきたのは山神だ。端正な顔立ちをしている。

「あ、久しぶり。」

「お前、でっかくなった?まだ身長伸びてるんだ。てか、西商行ってたなんて知らなかったなー。お前ならうちでもやれたと思うぜ、正直。じゃ、お手柔らかにな!」

 随分と早口でまくしたてて、握手を求めてきた。かなりの余裕が見てとれる。


 審判役の三谷がボールを上げた。能勢も長い手足を存分に伸ばしてジャンプする。しかし、山神はその上をいった。大芸ボールで試合が始まった。

 上原、安部、早見へとボールが渡る。速いパス回しだ。早見はボールを持って一回パスフェイクを入れた後、ドライブを仕掛けてきた。一歩目は小町が止めたものの、即ロールしてかわし、大賀のブロックを交わしながらダブルクラッチを決めた。初っ端から飛び出たスーパープレーに大芸ベンチは大きく盛り上がる。

「慌てんな。じゃ、こころちゃん。頼むよ。」

 こちらのオフェンスのファーストオプションは小倉のアイソレーションだ。柳から右四十五度の小倉へとボールが渡る。

 左ドライブ、止められる。ここでビハインドドリブルで顔を上げる。そしてクロスオーバーで再び左を抜こうとする。これも止められるが、小倉はステップバックしてシュートを放った。しかし外れる。

 リバウンドを拾った上原から、前を走っている山神へロングパスが出る。完全フリーの速攻だ。

「見とけよ、これが山神だ!」

 大鷲先生が叫んでいる。

 山神はそのままトマホークダンクを叩きこもうとした。…しかし、ボールはリングに弾かれて、コートの外へ飛んで行った。

「やべえっ!!ミスった!」

 山神は頭を抱えながら大芸ベンチを見る。大鷲先生が手招いていた。開始一分で交代だ。


 その後西商は小町がスリーを決めて一点リードするも、すぐ早見がドライブで切り裂き得点する。次は大賀がローポストから強引にシュートに行くも、外れる。さらに今度は早見がスリーを決めて、7-3となる。

「早見って選手、速いし、素晴らしいスキルを持ってるな。小町じゃ荷が重そうだ。」

 しかし、あのスピードについていける選手は五島くらいだろうが、おそらく五島はディフェンスをやる気はないだろう。交代は難しそうだ。

「小町のところカバーしましょう!」

 田部がベンチから声を出している。田部、中野がかろうじて声を出しているうちのベンチと、大声で応援を続けている大芸ベンチが対照的だった。


 続くオフェンスは能勢がファウルを貰い、ツースローを決める。小町は早見にべったりつくが、一瞬で振り切られて早見はゴールに走りこむ。上原がアリウープパスでそれに合わせるが、これに大賀も反応し止めに行く。しかし早見は接触を受けながらもそれを片手でタップしてシュートを決める。大賀のファウルが吹かれた。そして、ワンスローも決める。


 開始三分で十点取る早見のオフェンスに、為す術はないのか?もう一度、ベンチメンバーを見てみる。

「五島、お前、早見を止められるか?」

 退屈そうにしていた五島は、驚いた表情でこちらを見てきた。


12

「ディフェンスに期待して俺を出すって言うの?監督、そりゃおかしいんじゃねーか。」

「分かってる。だが、あいつのスピードについていけるのはお前しかいないだろう。五島、お前しかあいつを止められないんだ。」

「足が速けりゃ止められるってもんじゃないだろ。」

「じゃあお前は、俺は早見を止められない、って言うのか?」

 五島はむっとした表情になった。


「なら、もし俺があいつを止めたら、俺をスタメンにしてくれよ。」

「止められたらな。」


 交代のブザーが鳴った。小町を換えて、五島を入れる。小町の呼吸はかなり荒くなっていた。 

「監督、多分五島でも早見は止められないと思うっすよ。」

小町はそう言った。私もそう思ったが、五島にディフェンスの意識を持ってもらいたかった。

 コートを見ると、大芸も山神を戻していた。先ほどのダンクはミスしてしまっていたが、日本人とは思えない程の跳躍を見せていた。彼が相当なプレイヤーであることは疑いようがない。


「なあ、あんた、どこ中?」

 試合中だが、五島が早見に話しかけた。

「雲出中。」

 早見は無愛想に応える。目を合わせもしなかった。

(雲出?山岡県じゃないのか。)

 確か全中にも出ている強豪校だ。大芸にスカウトされたのだろうか。などと考えている内に、ボールが回ってきた。

五島はボールミートの瞬間、左へフェイクを入れ、右ドライブを仕掛けた。

 驚いたのは早見だ。反応が遅れ、五島に横からぶつかる形になった。ファウルの笛が鳴る。

(一歩目のスピードなら俺並みか?こんな弱小高にもいるもんだな。)

 スローインで、また五島にパスが出る。ここでは五島はボールミートと同時にフェイクも入れずにドライブを仕掛けた。

 早見も反応しようとするが、膝がついていかない。振り切られる。五島はフィンガロールレイアップを大芸センターの国富の上から決めた。


「くれ!」

 続く大芸オフェンスで、早見がボールを要求する。そして、先ほどの五島と同じくフェイクも何もいれないドライブを仕掛けた。

 これに五島は反応した。早見はこれをスピンでかわそうとしたが、それを呼んだ柳がスティールする。走り出した小倉にパスが出る。

 完全な一人速攻。小倉は落ち着いてレイアップをする。しかしボールはリングを超えた後、ボードに叩きつけられた。山神のブロックだ。

 しかし、これはゴールテンディングを取られる。

「うそお!?カウントかよー。」

 山神はそう言ったが、楽しそうに笑っていた。大芸ベンチから監督の笑い声が聞こえる。そうだ、大鷲先生は例え意味がなくても、こんなハッスルプレイが好きだった。しかし、恐ろしい走力だ。

 再びオフェンスで五島にボールが入った。五島は早見がぴったり付いてこないのを見ると、迷わずにスリーを放つ。これはリングに嫌われ、リバウンドを国富が取った。

 ここから山神が動き出した。その後のオフェンスでオフェンスリバウンドからそのままゴールを決め、さらに次のオフェンスでスリーを決めた。こちらは柳のアシストから大賀が得点するものの、その後すぐに山神のアシストパスから上原のスリーが決まった。

 そこから西商の得点は止まるも、大芸は高さを活かしてリバウンドを支配する。セカンドチャンスでじわりじわりと得点し、1Qを23-11で終えた。

 どうする、相手チームにシュート力がある選手が複数いて、リバウンドでも負けているとしたら、どうすればいいんだ。大鷲監督はこんな時何をやっていただろうか。

 監督としての力量不足を感じた。この点差をただ選手達の能力の差を言うのは簡単だが、そんな無責任な監督になりたいとは思わなかった。

 何より相手チームは一年だけだ。こちらはベストメンバーで挑んで、この点差なのだ。悔しくないはずがなかった。


 結局具体的な策は見出せないまま、2.3Qが終了した。大芸はベンチからでもレベルの高い選手が出てきたが、こちらはベンチメンバーを出すと一気にチームのレベルが下がり、点差は離れるばかりであった。4Q開始時点で、70-45だった。

 五島も早見を止めるには結局至らず、ここまで20得点を許した。山神も15得点、10リバウンド、5アシストとオールラウンドな成績を残していた。


「4Qはフルでスタメンで行くぞ。」

 大鷲監督はそう告げてきた。もう試合は決まっているが、手を抜く気はないようだった。

「…望むところです。」


13

「もう点差は気にするな!このクォーター,0-0で始まったつもりで行くぞ!」

 選手たちに発破をかける。ベンチメンバーもしっかり使っていたので、スタメンの疲労は思ったほどでもなかった。

「柳も能勢も、もっと自分で仕掛けていいぞ。行けると思ったら迷わず行くんだ。」

 ここまで柳はゲームメイクに徹しており、能勢もほとんど自らシュートを狙ってはいなかった。紅白戦で見せた能勢の得点力は鳴りを潜めていた。


「…くそっ。」

 五島は悔しかった。大口を叩いて早見を止めると言ったが、結局何も出来ていない自分に腹が立っていた。早見は2Qで20得点した後、3Qを全てベンチに座っていた。

「監督、もし早見が出てきたら俺にマッチアップさせてくれ。」

 このままでは終われない。五島はそう思っていた。

「そのつもりだ。向こうはこのクォーター、全てスタメンで来るらしい。こちらはスタメンから小町と五島を替えたメンバーで行く。…いいな五島。ここから0-0で始まったつもりだ行くんだ。」

 絶対止める。そして勝つ。五島はそう自分に誓った。


 4Qが始まった。まず西商ボールだ。上原が柳にプレッシャーをかけてくる。

(…じゃあちょっと、仕掛けてみるか。)

 柳は上原が体を寄せてきた瞬間、股抜きを決めた。大芸ベンチから声が漏れる。柳は何度も目でフェイクを入れながらドライブする。パスフェイク、シュートフェイク。ここでヘルプにきた国富がジャンプするが、柳は国富の体のすぐ横を通すパスで能勢のシュートをアシストする。

「ナイスパスです、柳先輩!」

「おうよ。」

 こちらが浮かれていたのも束の間、大芸は上原と山神のピックアンドロールで山神が得点する。

「向こうの上原ってガードは味方を使うのが上手いな。」

 上原ここまで5アシストだが、0TOでミスが無く、パスの中継役としても非常に活躍していた。上原が出ているだけで連携の取れてない一年チームが、急に滑らかなプレーをしだす。まさに理想的なポイントガードだった。

 しかしこちらのガード、柳も負けていなかった。今度はストリートでするような大げさなパスモーションをしながらボールをふわっと浮かすパスフェイクでディフェンスの視線をボールから逸らしたあと、一気にドライブを仕掛けて、ユーロステップで潜り込みながらレイアップを決めた。

 大芸はまたピックアンドロールを上原と国富で仕掛ける。柳はスクリーンをすり抜け、能勢と上原にダブルチームを仕掛ける。国富はゴールに切り込まず、スリーのラインで待っていた。ここに上原が冷静に、ビハインドバウンズパスを通す。

 国富は、シュートリリースは非常にゆっくりなものの、高い弾道、そして美しい回転のシュートを放った。これが決まる。

(最近はセンターでも、外のシュートが得意な人は多いよなあ。)

 こう思ったのは田部だ。160cmしかない彼は、アウトサイドシュートがチビの生きる道だと考えていたが、能勢や国富のシュートを見ているとそれが正しいのか疑ってしまう。

 そう考えた矢先、ハイポストでボールを貰った能勢が、ゴールに正対してワンフェイクを入れ、すぐにフェイダウェイを決めた。こちらも美しいフォームだった。


 早見にボールが渡った。五島の目の色が変わる。早見はレッグスルーをしながら左右に揺さぶる。そして、肩を大きく開きながら距離をつめる。

(クロスオーバーだ!)

 五島はそう読んで、ボールの逆側に体重をずらす。しかし、早見がしたのはインサイドアウトで、五島のすぐ横を抜いていく。そして、ストップジャンパーを狙うも、これは外れて大賀がリバウンドを取る。

(くそ…!また簡単に抜かれた!)

 五島は悔しく感じた。こんなにディフェンスに熱くなったのは初めてかもしれなかった。


 今度は小倉が1on1を狙うも、抜ききれない。今日小倉はほとんどこの安部という名前のSFに抑えられていた。

(ちょっとコンタクトしただけで弾き飛ばされになる。)

 小倉は柳にパスを返した。そのパスを柳はタッチパスでペイント内で面を張った能勢に渡す。能勢は肩で右左とフェイクし、右にターンしてフェイダウェイを決める。ここまでで、4Qは8-5で西商がリードしていた。


 大芸はまた早見にボールを渡す。今度は早見は即ドライブを仕掛けてきた。

「おっ。」

 五島が、今度は早見の正面に入ってきた。接触して五島は倒れるが、五島のブロッキングファウルとなった。

(危ない、チャージングでもおかしくなかったな。…しかし、フェイク無しでも、俺のドライブはこんなに反応されたことは無かったのに。)

 早見は、どこか楽しそうにしていた。


 ここから両チームは点の取り合いになった。上原のアシストから山神がミドルシュートを決めると、こちらは大賀が山神からバスカンを取る。フリースローは外れて国富がリバウンドを取るが、これを能勢がスティールしてそのままゴール下のシュートを決める。すると、速攻に走った山神に、早見から絶妙なパスが通る。そして、山神のワンハンドダンクが決まった。12-9。今度は柳がトリッキーなドリブルからファウルを貰い、フリースローを二本とも決める。しかし、また山神がボールを持つと、ステップバックしてのスリーを決めた。


 この流れは残り二分まで続き、4Qのスコアは20-18だった。

 山神はこのQだけで11点取っていた。大賀のディフェンスは決して悪くないが、山神は大賀より高く、速かった。


 西商のオフェンス。ゴール下に飛び込んできた小倉に柳が合わせる。ゴールは目の前にあるが、190が二人いるペイント内でシュートを打つのは、それだけでプレッシャーがかかる。しかし小倉は強引に国富と接触する。国富を押しながらシュートすることで、ブロックをかわしてシュートを決めた。

(でかいが、こいつは軽いな。)

 小倉も重い方ではないが、国富も見かけほどの体重は無かった。


 大芸は再び山神だ。単純なドライブを仕掛けるが、そのパワーで、ディフェンスを押しのけながらレイアップに行く。能勢がヘルプに跳んだ。

「相変わらず長い腕だねえ!」

 山神はノールックで早見にパスを出した。五島は遅れて反応するも、早見のスリーが決まる。


 こちらはセットプレイから、五島がスリーを狙ったが外れる。しかし向こうも、早見が再びスリーを狙うが外れる。

 時間は40秒を切った。ボールは小倉に渡る。

「負けっぱなしじゃ、終われねえな。」

 小倉はロッカーモーションから、クロスオーバーで抜こうとするが、これも安部に止められる。

「ちっ!」

 柳がパスを要求するが、小倉はパスを出さず、再びドライブを仕掛ける。これも抜ききれないが、小倉は手で安部を押しのけてしまう。これがファウルとなり、大芸ボールになった。

「くそっ!」

 残り二十秒で、一点差(4Qのスコア)。


 大芸は、やはり、山神にボールを預ける。

「ダブルチームだ!」

 私は叫んだ。一人で止められるようなプレーヤーではない。大賀と、柳でダブルチームを仕掛けた。しかし山神はすぐに上原に戻す。

 ここで山神はゴール下へ一気にカットした。パスは出なかったが、そのまま逆サイドのコーナーまで行き、そこでパスを貰った。柳はついていったが、シュートフェイクに反応して、軽く抜かれてしまう。山神はレイアップを放った。


「させるかッッ!!」

 大賀が吠えた。そして、そのレイアップを叩き落とす。いや、山神が手を放していなかったので、山神ごと、文字通り叩き落とした。山神は背中から倒れて、ここでブザーが鳴る。


 92-60.最終的なスコアはこうだったが、4Qは22-21で、西商が勝っていた。とはいえ、まさか一年チームにここまでやられるとは…。大鷲監督は、それだけこの山神世代で優勝を狙って、スカウトに力を入れたということなのか。


 その大鷲監督が、こちらのベンチにやって来た。

「いい試合になった。最後のクォーターのことは、後できっちり叱っとくわ。やられるなんて思いもしてなかったな。はっはっはっ!…まあ、積もる話もある。今日、飲みに行くぞお!」


14

 大芸との練習試合が終わったその夜、大鷲先生と「黒霧亭」という居酒屋で飲むことになった。大鷲先生は大の酒好きで、この店で出される芋焼酎が大の好物なんだそうだ。


「はあああっ、美味い!」

 大鷲先生は焼酎をまるで水であるかのように飲み干す。とても真似できない…。

「今日の試合だがな、まさか4Qだけでもやられるなんて思ってなかったぞ。もちろんU-15の山神がいるってのはでかいが、上原と国富は中学時代は山岡県選抜の選手だし、早見と阿部は根島県選抜、しかも早見は根島県の県大会最優秀選手だ。こいつらだけで県ベスト4ぐらいまでは行ける自信すらある。そいつらが、去年の地区大会二回戦負けのチームに負けるとはなあ…。」

「私も驚きましたよ。子供たちの可能性ってのは、無限大だって感じましたね。決して中学時代の成績なんかで全てを決められないですよね。」

 大鷲監督はもうおかわりを頼んでいる。

「おう、そりゃそうだ。うちは私立だからスカウトには力を入れているが、最後はちゃんと俺自身が見て呼ぶかどうかを決めてる。例え県選だろうが何かの大会のMVPだろうが、使えない奴だっていくらでもいる。」

「逆に、中学時代無名でも使える選手はいくらでもいるってことですよね。」

「まあな。それは確かだ。例えば、お前のチームにいた、あの足が速い選手とかは、鍛えればかなりの選手になるはずだ。…ただ、あの能勢はな、中学時代に一度試合している姿を見て、うちの練習に誘ってみたんだが、とにかく弱気で、自分を出したがらないんだな。こういう選手は良い物を持ってても、伸びないんだ。」

「そこを伸びるようにするのが、監督の力量じゃないですか?」

 能勢の育成については考えていて、アンセルフィッシュな性格を直し、ポストプレーばかりではなくスリーや、1on1も教えていく予定だった。能勢が伸びない選手だとは、とても思えなかった。

「人の性格なんて、簡単に変えられるもんじゃない。弱気な選手ってもんは、自分に限界を作りがちなんだ。『俺にこんなプレーはできない。こんな重要な場面でシュートは決められない。』ってな。練習で良いプレーができても、本当の勝負をする時、縮こまっちまう奴も多いな。だから、使い物にならないことがよくあるもんだ。」

「…そんなものですか。」

 大鷲監督は既に顔が真っ赤で、またおかわりを頼んでいた。私は頼んだビール一杯すらまだ飲んでいない。

「ふん。何しょぼくれた顔してやがる。『俺には、能勢を伸ばすことができない。』って考えたか?それが弱気だって言ってるんだ。」

「えっ?」

「俺に言われたからって、気にすることはないんだ。わしができないことでも、お前ならできるかもしれない。それはお前次第だ。自分に限界を作るなと、言ったばかりじゃないか。」

 そんなことは言われただろうか。ただ、大鷲監督の言っていることは概ね正しいと思う。最初からできないとか決めつけるべきではない。私ならできる、と考える方が良いはずだ。


 あいつらと、県大会ベスト8を目指す。いや、インターハイを目指すんだ。私なら、あいつらをそこまで連れていくことが出来る、と考えなければ。


「ところで黒沢、お前もう春季大会の組み合わせは見たか?」

「ああ、ファックスされてきてました。一回戦は、確か光雲高校だったと思います。」

「一回戦の相手は、まあ勝てるだろ。問題は二回戦だ。南北高校と当たるんだろ?」

「ああ、確かそうだったような…。どんなチームなんですか?」

「県大会ベスト16クラスのチームだ。といっても、最長身の選手が175しかないがな。」

 175?なら、かなりの小型のチームだ。何が問題なんだ?


 …いや、175が最長身のチーム…。私の想像が正しければ、今の西商とかなり相性が悪いチームなのではないか?

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