第二十八話
前話、「来週の土曜」と書いていましたが、日曜に改めました。すみません。
5月4日、日曜日。春大会の最終日だ。今日は、女子準決勝、男子準決勝、女子三位決定戦&女子決勝、男子三位決定戦&男子決勝という順番で試合が行われる。
「よし、今日はもう練習は終わりにしよう。私はこれから山岡県総合体育館に試合を見に行くが、誰か一緒に見に行きたい奴はいるか?」
「はい!!!行きたいです!」と柳が一番乗りで手を挙げる。
それに続くように、全員手を上げた。
「ちょっと待ってくれ。私の車は四人乗りだから、三人に絞ってくれ。」
「分かりました!おい皆、じゃんけん大会だ!」
そのじゃんけん大会を勝ち抜いたのは、柳、小町、能勢だった。
「すまんな。残りは、自転車とか電車を使って行ってくれ。さ、早く着替えて準備をしろ。」
部員達を部室に行かせて、私は教官室へ行った。中には私一人だ。
ふとカレンダーを見ると、5月4日の所に、「必勝」と書かれているのを見つけた。私の書いたものではない。
…ああそうだ、今日の試合には、西商の女バスも出るのだった。忘れていた。おそらくこの文字を書いたのは佐藤先生だろう。西商の女バスとしては初の優勝が懸かっているので頑張ってもらいたいものだ。
山岡県総合体育館はこの県で最も大きい体育施設だ。サブコートが一つに、メインコートはバスケットボールコートが四面分以上ある。売店や更衣室なども多数設置されている。観客収容数もなかなかのものだ。
会場に着くと、外からでも分かるほどの歓声が聞こえている。かすかにバッシュの擦れる音と、ドリブルの音が聞こえる。この雰囲気は何とも私の気持ちを高めてくれる。
「私は役員席で見るから、お前たちは二階席で見ておきなさい。」
「はーい。」
柳らと分かれ、役員席に向かう。役員席と言ってもバスケットボールコートと離れた位置に椅子と机を置いただけの簡単なものだ。知り合いも特にいないので若干の気まずさを覚えながら、適当に空いている席へ座る。
試合を見ると、女子の三位決定戦と決勝が行われている。そして、何と西商の女バスが決勝戦を戦っているではないか。佐藤先生が、ベンチの前で手をぶんぶん回すなど、大げさなジャスチャーをしながら何か指示を出していた。…しかし、スコアは4Q残り五分で、108-78と、三十点差がついていた。
対戦相手は、私立和城高校というところだ。そして、190cmほどある黒人選手がいた。
黒人の彼女は、どうもボール捌きはイマイチで、バスケは素人のように見えた。しかしインサイドでは大きな力を発揮しており、機敏かつパワフルな動きでジャンプもせずにリバウンドを取っていた。西商の選手は最長身が170cmほどで、為す術もない。西商の選手は高確率でスリーを決めるも、和城は彼女がリバウンドを取ってくれるので、セカンドチャンスをものにして得点を重ねた。
結局そのまま西商は彼女を攻略できず、120-95で和城高校が勝利した。
最後まで、佐藤先生が毅然とした顔を崩さなかった。そして、涙目になりながらベンチに戻ってきた西商の選手を、一人ひとり抱きしめていた。
「いやあ、良い試合でしたね。」
不意に、横から声を掛けられた。
「あ、そうですね。…ええと…。」
「私は正心高校の、庄、と申します。西商の監督さんですよね。」
正心と言えば、県内で有数の進学校だ。ただ、バスケ部があるのかどうかさえ知らない。
「はい、西商の黒沢と申します。正心ですか…。失礼ですが、あまり聞かない名前ですね。」
「ええ、今年、というか先日やっとバスケ部ができたところなんですよ。それでですね、色々なところに挨拶をしておきたいと思いまして。」
「そうなんですか。じゃあ、またうちと当たることもあるかもしれませんね。」
「そうですね。その時はよろしくお願いします。あと、また練習試合を申し込むかもしれないので、出来たらよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。…ところで、お若いようですが、おいくつですか?」
「今年大学院を卒業したばかりの、25歳です。黒沢先生は?」
「私も25ですよ!同い年だったんですか。」
珍しいことだ。新任でバスケ部の監督を任される人が私以外にもいたのか。
「それは偶然ですね!じゃあ、どちらが先に優勝できるか、勝負ですね。」
そう言って庄先生は笑う。
「望むところです。」
私も笑った。…こんな監督同士の交流も、楽しいものだ。
次試合の組み合わせを見ると、何と優勝候補の二番手だったアチーブ高校が三位決定戦に出ている。その代わりに、山岡大付属高校が決勝に進出しているようだ。準決勝は見ていなかったが、早くも波乱が起きていたようだった。
決勝戦は、大芸対山岡大付属。三位決定戦は、至誠報徳対アチーブだ。
「アッチは負けたんですか!庄先生、準決勝は見ておられましたか?」
「はい。付属の四番の伊藤が40得点14アシストの大活躍をしていましたよ。アッチの中国人選手の張も30得点を上げていましたが。」
「へえ…。」
コート上の付属の四番を見てみると、何とも整った顔立ちをしていた。身長は180程か。モデルをしていてもおかしくない容姿だった。
「イケメンでしょう。羨ましい限りですよ…。しかも彼、勉強でも校内トップクラスとか。」
「山岡大付属でトップクラスなんですか!めちゃくちゃ頭良いんですね…。」
「はい。ただ…、これは噂ですが、彼が付き合っている彼女はあんまり評判良くないんです。主に顔のことですが。」
「はあ。」
「でも、彼はその彼女の性格の良さを見抜いて、ずっと付き合っているらしいですよ。いる所にはこんな人もいるんですねえ…。」
何で教員が他校の一生徒の下世話な噂話を知っているんだ?しかし、話を聞く限りでは…、
「何か、完璧超人って感じですね。…ところでその話、どこで聞いたんですか?」
「ああ、私は付属の出身なもので、教育実習で付属に行っていた時に聞いたんですよ。」
「なるほど。…えっもしかして付属のバスケ部だったんですか?」
付属とは私が現役の頃も大会でよく当たっていた。しかし、庄先生の顔は見覚えがなかった。
「いや、バスケ部ではないです。というか私、恥ずかしながらバスケに関してはズブの素人なもので。」
そう言って庄先生は頭を掻いた。素人なのに監督をやらされるというのは、正心高校はあまり部活動に力を入れてないのかもしれない。…色々と聞きたい事があったが、コートでは、遂に決勝戦が始まろうとしている。それは後にして、試合を見ることにした。
サブタイトルを二十七話から消しているんですが、なくてもいいですかね?
いつもすごく適当に考えているし、なくてもいいと私は思ったのですが。
この作品ではこれからも、様々な監督を出していきたいと思っています。それがこの作品の特徴かもしれませんね。




