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第二十六話 目標

「惜しかったな…。」

「絶対、夏で借りを返してやろうぜ。」

「はい。」

 下では、四回戦が行われている。俺達はユニフォームを着替えながら、それを眺めていた。

「よし、皆着替えたか?俺達は入口のところで待っておくから、お前、先生を呼んで来てくれ。」

「分かりました。」




・・・。



 ラスト20秒、小倉が放ったスリーは外れた。ただしそれは、チェックに来た池原が勢い余って小倉に派手に接触したためであった。これに審判は笛を吹いて、フリースローが三本与えられる。

 小倉は呼吸を落ち着かせて、フリースローを放つ。一投目、二投目をきっちり決めた。そして、三投目。決めれば同点だ。

(絶対、決めてやる!)

 ボールを貰って、ツードリブル。そして、シュートを放った。

 ボールは、リングの奥に当たって、大きく跳ねた。

(入るか?)

 そして、もう一度リングに当たって、外に跳ねた。しかし、能勢が長い腕を伸ばしてリバウンドを取る。

 西商ベンチは総立ち状態だ。

「能勢、シュートだ!」部員達が口ぐちに叫ぶ。

 しかし能勢は、再び外の田部にパスを出した。


 これを、宇野がインターセプトする。田部は腕を伸ばしファールで止めようとしたが、宇野は腕を避けて突破し、そのままゴールまでドリブルしレイアップを決めた。

 西商は次のオフェンス、時間ぎりぎりでスリーを狙うも、またも外れ、三点差でタイムアップとなった。


 試合終了のブザーが鳴ると同時に、南北の選手たちは歓喜の声を上げて、ハイタッチをしたり、肩をぶつけあったりして喜んだ。逆に西商の選手たちはその場に座り込んだり、体育館の天井を見上げたりしている。

「早く、整列だよ。」

 審判に促されて、両チームは中央に集まる。

「49対52。南北高校の勝利です。」

「「「ありがとうございました!」」」

「あっした。」

 選手たちは適当に一礼すると、力なくベンチへ引き上げてきた。

「すぐにベンチを空けなきゃいけない。後で話をするから、とりあえず上で着替えてから、能勢が私を呼びに来なさい。私は役員席で試合を見ておくから。」

「わ、わかりました。」


 私は、役員席に座って試合を見ていたが、正直試合の内容は頭に入ってこなかった。まだ負けたことを信じたくない気持ちが強かった。最後まで勝てる勝負だと思っていた。大きな溜息をついていると、南北の監督、熊代が声を掛けてきた。

「やあどうも、良い試合でしたね。」そう言って、握手を求めてくる。

「ああ、熊代先生…。良い試合でしたね。とても悔しいですが。」

「そうですか。まあこちらとしても、たまたま勝たせてもらったようなものです。負けていても全くおかしくはなかった。むしろ、勝ったことが不思議なくらいですよ。」

 熊代はそう言って笑ったが、その表情からは余裕しか見られない。

「能勢君は今日あまりシュートにいってなかったみたいですが、何か指示を出していたんですか?」

「えっ?」

「能勢君ですよ。私は中学生の試合もよく見ていて、能勢君を見たこともあるんですが、彼はもっと点の取れる選手だったと覚えています。今日は、不調だったんですかな?」

「いえ、むしろ点を取りに行けと指示したんですが…どうも点を取りたがらない性格みたいで。」

 熊代はゴホンと一度咳をした。

「いいですか、黒沢先生?選手のプレースタイルを性格と結び付けて考えても仕方ないですよ。性格を変えなくても、プレースタイルは変えられますよ。例え少々無理やりでも、その選手の能力に見合ったプレースタイルを身につけさせなければ。」

「はあ。…無理やりとは、どういったことをするんでしょうか?」

「それはまあ、いくらでもやり方があるでしょう。…失礼、トイレに行ってきます。」

 そうして熊代は消えていった。性格を変えろと言っても簡単に変わるものではないが、プレースタイルなら変えられる。確かにそうかもしれない。しかし、プレースタイルを変えろ、点を取れと言っても能勢はあまりやりたがらない。どうすればいいんだろうか?


「先生。」

「おっ。」

 隣にいつのまにか能勢が立っていた。帰る準備が整ったということか。

「分かった。すぐ行く。入口のところで待っていてくれ。」

「分かりました。」

 そう言って、能勢は帰ろうとする。

「あ、ちょっと待て。」能勢を引きとめる。

「はい?」

「さっきの試合の終盤、ゴール付近で二回はシュートするチャンスがあったのに外にパスを出したよな。何でシュートを打たなかったんだ?」

「あ、すみません…。パスミスを怒っているんですか?」

「パスミスなんてどうでもいい。何でシュートを打たなかったのかと聞いているんだ。」

「え、えーと…。決める自信が無かった…ですかね?正直、あんまり覚えてないんですが。」

「…そうか。分かった。行っていいぞ。」

 能勢がいなくなってから、私は一つ溜息をついた。シンプルに、一番悪い答えではないか?これを直さなければ、能勢は選手として大成しないだろう。さて、どうすればいいのか…。




「お前ら、今日の敗因は何があると思う?」

 入口の前の空いたスペースで話をする。まず、選手たちが今日の敗北をどんな形で受け止めているのかを知りたかった。

「シュートが入らなかった、とか?」

 最初に答えたのは柳だ。

「それはそうだが、もっと具体的に言ってくれ。」


 そうして、スリーが入らなかったとか、ファールが多くなってしまったとか、ボール運びができなかったことが挙げられた。

「今まで挙げられたものは、全て大切なことだ。ボール運びとかのセットプレイも練習しなければならないだろう。しかし、私は今日の一番の敗因は、フリースローにあると思う。」

「先生、それは、俺を責めてるんですか?」

 決めれば同点のフリースローを外してしまった小倉が、嫌な顔をした。

「そうじゃない。全体として、フリースローの確率が悪かった。南北のように100%で決めろとは言わないが、80、90%で決めてほしい。フリースローっていうのは、特殊なシュートなんだ。誰にも邪魔されないんだから。邪魔されないんだったら、絶対に決めるぐらいでなければならない。実際、今日フリースローがもっと入っていたら、点数的にも勝てていたんだ。」

「今日みたいな接戦になると、大事ってことですか。」

「そうだ。ディフェンス重視のチームと当たるとどうしてもロースコアになる。そうした試合程、フリースロー一本一本が重要になってくるんだ。」

「分かったよ先生。俺、もう絶対外さないから。」

 そう小倉は言う。実際フリースローを八割九割決めるのはNBA選手でも難しいことだ。しかし、得点力の低い日本人こそ、フリースローを決めきらなければならないと私は思っていた。

「次の夏大会予選は六月だからもうあまり時間はないが、フリースローの練習や、走る練習を増やしていこう。実際、今回の試合で私たちの実力は県大会出場チームに負けていないことは分かったんだ。次は絶対、リベンジを果たそう。」

 選手たちは力強く頷いた。その目はやる気で満ち溢れている。この敗北で気持ちが折れてしまった選手は一人もいないように見えた。

 赴任当日に校長先生は夏大会ベスト8を目指せと言った。春大会二回戦負けということはかなり組み合わせが悪くなることが予想できるが、私は、このチームをベスト8まで連れて行きたいと思った。いや、ベスト8で止まってなるものか。


 目指すのは、インターハイだ!


※インターセプト パスをカット(奪う)すること。




打ち切り漫画のような展開?まだ終わりませんよ!

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