第二十三話 ジャッジ
今回からバスケに詳しくない人や、ちょっとルールを忘れたという人のために、若干の説明を載せていきます。
※1
ボールを手にしてから八秒以内にフロントコート(攻撃する方向のコート)に運ばなければ、相手ボールになってしまいます。
ハーフタイムが残り二分となった。次試合のチームがアップに使える時間は残り二分までなので、アップをしていた選手たちは急ぎ足で出ていく。それと同時に、柳と小町を除いた西商の選手がシュート練習を始めた。二人は前半でかなり疲労しているようだった。この試合に勝てば今日もう一試合あるのだが、大丈夫だろうか…。
ふと能勢の方を見る。能勢はここまで得点にはほとんど絡もうとしていない。今も、自分でシュートの練習はせずに、シュートのリバウンドの練習をしている。しかし、私は南北のディフェンスを破る為に彼を使うことをチームに指示していた。
すぐに3Qが始まる。メンバーは柳、小町、小倉、大賀、能勢。まず、西商のスローインからだ。ここでも執拗にマンツーマンで付いてくる。小倉がマークマンの池原を振り切ろうとするが、池原は粘り強い動きでマークを空けないので、柳はパスが出せない。
「しゃーないな、一発、度肝抜いたるか。」
柳、スローインの位置からゴールへ浮いたロングパス!能勢と、植木が反応する。先に落下位置に入ったのは植木だが、すぐ能勢は体を押し当てて植木をゴールの真下に追い込む。能勢が跳んだ。
「叩きこめ!」大賀が叫ぶ。
「いや無理です!遠いっす!」
能勢はボールはキャッチできたが、ゴールから離れた位置。一旦着地して、そのまま普通にシュートをうって決めた。
「何だよ、ダンクしろよー。」柳は不満そうな顔をする。
「すみません、でもあれは遠いっす!」
「パスが悪かったって?」
「いやあの…すみません。」
シュートを決めているのに謝り続ける能勢。何故そんなに低姿勢なのか…。
南北のオフェンスでは、は冬元がカットインしてパスを貰い、シュートを打つも能勢にブロックされる。
西商のオフェンスは、柳と能勢のスクリーンプレーだ。柳がドライブを仕掛ける。ここで能勢が外に開く。ピック&ポップ。スクリナーが外でボールを受けてアウトサイドシュートを狙うプレーだ。柳はディフェンス二人を引き付けて、能勢にパスを出す。すぐに関がヘルプが来るも、身長差は約20cm。能勢はディフェンスの上からスリーを放つ。これは美しい放物線を描きながらゴールに吸い込まれた。これで33-25。先ほど私が選手たちに指示したプレーは、能勢のアウトサイドを使っていくことだった。
「オールじゅういちぃ!!!」
南北の監督が吠えた。何かのサインだろうか。南北の選手たちも「じゅういち!」とお互いに声を掛け合って確認している。セットプレーか?と思ったが、シンプルに宇野がドライブを仕掛ける。ダブルクラッチでブロックを避けながらシュートを放つも、これは入らない。大賀がリバウンドを取り、柳へパスを出した。
その瞬間、柳の後ろから関が飛び出してきて、パスをカットする。そして、そのままレイアップを許してしまった。
今までならシュートが落ちた時はゾーンをする為にすぐ帰っていたはずだ。意表を突かれた形になった。
次の南北のオフェンスでも、シュートが落ちて能勢がリバウンドを取ったが、ここから南北ディフェンスはプレッシャーをかけてくる。能勢に対して植木がスティールを狙ってきたが、これは手を叩いた為植木のファールとなる。
オールじゅういち…。11…。先ほどのサインは、“これから全てオールコートマンツーマン”の合図だった可能性が高い。
能勢がスリーを打てるなら、1-1-3のゾーンディフェンスはかなり不利となる。何故なら、もともとスリーが打たれやすいゾーンで、何よりゾーンの上部分にいるのは160cmの宇野と167cmの関。186cmある能勢なら、彼らにチェックされてもほとんどプレッシャーを感じることはないだろう。それらを考え、能勢のアウトサイドを指示したのだ。
しかし、マンツーマンディフェンスなら少なくとも160vs186の状態は防げる。よって、ゾーンを辞めてマンツーマンオンリーにしたのだろう。
「これからマンツーマンで来られるぞ!油断するな!」と声を掛けた。
ただ、一本のスリーだけで「能勢はスリーが打てる」ということを判断するのは早過ぎるのではないか。まぐれで入っただけの可能性もある。それとも、何かそう判断させる材料が他にもあったのだろうか。
このディフェンスは、西商にとって非常に大きな脅威となった。既に足に疲労が見える西商に対し、南北は全く衰えていない。最大の問題は、柳のドリブルに宇野が対応してきたことだった。
「ちっ…!」
柳は左右にドリブルで揺さぶりながら、突破を試みるが、宇野のディフェンスは全くそれを許さなかった。完璧なタイミングで前に入り、接触があってもむしろ押し返す程のパワーを見せた。他のディフェンスもパスを出させないようによく動いていた。
(パスの出しどころもない…八秒経っちまう!)※1
すると、小倉がマークを何とか振り切り、「ヘイ!」と呼んだ。柳は迷わずパスを出すが、宇野は一気に横に跳んでパスをカットする。
(声の聞こえた方向でパスの方向を読んだのか…!?ありかよそんなの!)
柳は下手にプレッシャーを与えようとしてファールするのを避けるため、緩く追いかける。宇野は軽くレイアップを決めた。
「もうファウルはしてこないのか?四つしてるわけでもないのに弱気だな。」
宇野はそう言って柳を挑発した。柳は「まあね。」と受け流す。
次に小倉がボールを運ぼうとするも、強引な突っ込みに対し、マークマンの池原は転倒。チャージングファウルを取られる。
(あまり良い審判じゃないな。転んだからといってすぐにファウルを吹くべきじゃない。さっきの小倉と池原の接触も、あまり強くないのがここからでも分かるのに…。)
「五島、小町と交代だ。ボール運びにお前も参加しろ。ディフェンスを振り切って、パスの中継地点になるんだ。」
「やっとかよ。待ちくたびれたぜ。」
五島と小町を交代。柳と小倉だけでは負担が大き過ぎる。またチャージングを取られるのも嫌なので、休んでいた五島の足でパスを繋いでくれることに期待を掛ける。
南北のオフェンスでは関がスリーを放つも、外れる。リバウンドを能勢が取り、すぐ柳に渡した。そして、柳が五島にパス。五島は、一気に突っ込む。突っ込む!五島はそこからスピードを全く緩めずゴールに向かった。五島、能勢、植木で二対一の状況を作る。植木は、五島に寄ってディフェンスをしている。
(点取りたいけど、ここはパスかな。)
五島はそう考えて能勢にパス。しかし、ここも植木が素早い反応でパスを奪った。最初からパスをカットすることだけを考えていなければ出来ない反応の速さだった。
「やべ、ミスった!」
「速攻だ!」
植木は先頭の宇野にロングパス。柳は帰っていなかったので、ゴール下で立っている。宇野はそのままドリブルして、レイアップを放つ。
パチン!
手で何かを叩く音が聞こえた。宇野は「痛っ!」と叫ぶ。彼の放ったボールがゴールに入ると同時に、審判が笛を鳴らした。
「ディフェンスファール。黒五番(柳)!」
「はあ!?」
柳はこれに喰い付く。
「俺何にもしてないって!何でファール!?」
「ボールマンを手で叩いたでしょ。」女性の審判はそう答える。
「ちゃんと見たの?」
女性の審判は柳に構わずオフィシャル席に、柳のファールを伝えに行く。
「ちょっと待てって!誤審だろ!おい!」
異常な様子を察して大賀が止めに入る。…しかし、無情な審判が下される。
「…黒五番、テクニカルファウル!…ファイブファウルで、退場です。」※2
「えっ…。」
私は思わず立ち上がった。何が起きたのか。何故柳があれほどまでに喰い下がったのか、分からなかった。
…ふと南北ベンチを見ると、熊代監督が愉快そうに笑っていた。
※2 テクニカルファウル…スポーツマンシップとフェアプレーの精神を守らない行動を取ると、このファウルが吹かれます。たとえば、審判や対戦相手を罵倒したり、対戦相手を殴ったりすることです。
33-31。
審判を文句を言う選手は嫌いですが、変なジャッジをする審判はもっと嫌いです。




