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第十七話 やめる

 部活を辞めたい、とノートに書いていた藤原を放課後に呼んで話し合うことにした。ただ職員室だと気が引けるだろうと思ったので、普段使われない特別教室に来なさいと告げた。

 もしかすると来ないかもと思ったが、陰鬱な表情をしながら藤原は教室に入ってきた。用意していた椅子に座るように促す。


「さて…。昨日、ノートを読んだんだが…辞めたいというのは本当なのか?」

 藤原はしばらく黙っていた。そして、三十秒程経ってから言った。

「はい。」

「どうして?」

 部活の時のような言い方ではなく、あくまで柔らかい話し方を意識する。

「えっと…、俺、正直そんなに高校ではガチなバスケとかするつもりじゃなかったし。こんなきつい練習ばっかりなら、俺、やりたくないです。」

「練習がきついなんて、バスケなら当たり前のことだろう。藤原、お前はバスケが好きじゃないのか?」

「別にバスケが嫌いなわけじゃないんですけど、そもそも中学の頃、でかかったから誘われてやってただけで…、でも高校だったら俺そんなにでかいほうじゃないし、先生の言うポジションに縛られないバスケって言われても、俺センスないからドリブルとかシュートとか全然上手くならないし…。向いてないんですよ、バスケ。」

「向いてるとか向いてないとかは、結局頑張らない奴の言い訳だ。お前は、そんなことで辞めていいのか?バスケが好きなら、続けるべきじゃないのか。」

「だって、俺足遅いから練習が終わるのも遅くなって、体重重くてどんくさいから皆の足踏んで痛い思いさせたこともあるし、やっぱり皆に迷惑かけるし…。皆のこと考えたら、俺なんて邪魔者ですよ。」

 駄目だ、優しく説得したかったが、どうも抑えられない。

「お前、皆の迷惑になるから辞めるなんてよく言えたものだな。お前が辞めることが、皆にとって一番の迷惑だとは思わないのか!うちの部員の誰かが、お前に辞めてほしいなんて言ったのか!」

 藤原は涙目になりながら言った。

「い、言ってませんけど…皆そう思ってるような気がして…辛いんです…。俺、もう…。」

 ここで、藤原が泣き始めた。必死に声を抑えようとしているが、涙が止まらない。


「分かった。それがお前の決断なら、俺は止めはしない。明日、気持ちが変わらなかったなら、退部届を書いて私に渡してくれ。」

 藤原は少し落ち着いたが、顔は涙の痕と鼻水で汚くなっている。私は退部届とティッシュを彼に渡した。

「…はい。」

「でも、言っておくが、お前に辞めてほしいなんて思っている部員は一人だっていやしない。それは確かだ。それを忘れるなよ。戻ってきたかったらいつでも戻ってきなさい。」

 藤原は返事をしなかった。




 藤原は考えていた。部活を辞めて、何をしようか。勉強なんかまだ一年だからやりたくないし、他の運動部といっても、西商はどこも練習がきついそうだ。じゃあ、文化部?うーん、俺には向いてない気がする。

 …でも、辞めるんだったらまず先輩に挨拶ぐらいしとかなきゃいけないかな。ちょっと気が引けるけど…。

 藤原はとぼとぼと歩きながら、部室の前まで来た。しかし、部室に入る勇気がない。何て言おうか、怒られたら嫌だな。いや、喜んでくれるかも…。

 すると、部室の扉が開いて、柳と小倉が出てきた。

「おっ、藤原ちゃんじゃん!今日は体大丈夫か?無理そうだったら休んどけよ~。」

 柳先輩は明るく接してくれたが、小倉先輩は怒ったような表情で言う。

「いや、休むなよ、来いよ。」

「…えと、その…。」

 返事に悩んでいると、小倉先輩が続けた。

「お前がいねえと、練習が捗らねえんだ。」


 えっ?


「お、俺がいたら、むしろ練習の迷惑になるでしょ?」

「は?迷惑?なるかそんなもん。俺はもっとフィジカルを強くしたいんだけど、大賀と練習すんのは嫌だし、能勢は軽いし、お前と練習するのがちょうどいいんだよ。」

「あ、えと…ありがとうございます。」

「お礼なんからいいから、練習でろって。今は練習がキツイかもしれないけど、どうせ夏が終わるまでの辛抱だと思えば、楽なもんだぜ。夏さえ乗りきりゃ、だいたい楽になってくるだろ。逆に今頑張ってないと、夏本番を乗り越えられないかもな。」

「そ、そうだぞ、頑張れよ。」

 柳先輩も気まずそうに言った。柳先輩も練習をちょくちょく休んでいるのだ。


 そして、先輩達は体育館に行った。部室には誰もいなくなった。

 

鞄から、退部届を取りだす。


「もうちょっと、頑張ってみるか。」


 退部届を手で握りつぶしながら、藤原はそう言った。


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