第十六話 練習
16
オールコート1on1の練習が終わったら、休憩の意味も兼ねてフリースローの練習だ。ただし、二本決めるまでうって、落とした本数分ダッシュさせる。ここでも藤原は二本決めるまでに四本のフリースローを落とし、ダッシュなのかよく分からないスピードで走っていた。
「三分休憩しよう。」
さすがに藤原の状態を見かねて休憩の時間を取る。藤原だけでなく、ほぼ全員がかなり疲れていた。元気そうなのは小倉ぐらいだった。
(まだまだだな、もっと体力をつけないと。)
体力をつけることにより、試合では長くプレーできるし、練習の質も上がる。本当は最初は基礎体力作りのみの練習をしたかったが、大会が近いのでそうもいかない。
「よし、次はシュートの練習だ。小倉、スリーのやや内側に立て。五島はゴール下だ。」
そう言って部員たちを動かす。私は、トップの位置でボールを持った。
「ここから私が小倉へパスを出す。五島は、パスが出ると同時にチェックに行くんだ。」
実際にやってみせる。小倉は五島にチェックされながらシュートをうち、外した。
「二人組で別れてやってみよう。三谷、反対側のゴールでパス出しをしてくれ。」
「分かりました。」
やはり思った通りだ。このチームには流れの中でシュートをうてる選手が小町や五島ぐらいしかいない。小倉や田部もシュートはうまいが、キャッチ&シュートとなると確率が悪くなるようだ。
キャッチ&シュートは、まずシュートはボールを貰うところから始まっている。人によって、縫い目が横になるようにボールを持ってシュートをうつ人や、縫い目が縦になるようにボールを持ってシュートする人がいる。そんなの意識しないという人もいるが、多くの人はシュート練習をする時にもボールの持ち方を決めているのではないだろうか。
持ち方を決めている人は、キャッチのままうつと、普段と指のかかり方が変わってうち辛いと感じるはずだ。小倉などはドリブルからシュートをうつことが多いが、シュートモーションの際にボールの縫い目が横になるように直してからうっている。キャッチ&シュート(しかも、足の速い五島がチェックにくる。)だと、それを直すことができないのでうち辛そうにしているようだ。自分のうちやすいボールの持ち方をよく分かっていないのかもしれない。田部もドリブルからのシュートよりはずっとうち辛そうだった。
しかし小町は、キャッチと同時にボールを持ち直しており、リリースが早いのでチェックの影響をあまり受けていない。優れたスポットシューター(セットオフェンスなどでパスを貰ってからのシュートが得意な選手)であることが分かる。
「監督、ちょっといいですか。」
ここで声を掛けてきたのは大賀だ。相変わらず低い声で威圧感を醸し出している。
「何だ?」
「能勢はともかく、俺と藤原はアウトサイドシュートは仕事じゃないんで、別の練習をした方がいいんじゃないですか。」
「うん、そうか。そのことにはついては、皆に話しておきたいな。よし皆、一旦集合!」
「私は、小さいからガードとか、大きいからセンターとかいった考え方はしていない。そして、これはガードの仕事、あれはセンターの仕事というくくりも考えていないんだ。」
「今は大賀や能勢をインサイドプレーヤーとして使っているが、はっきり言って全国には能勢より10センチも20センチも高い選手がいるんだ。また、お前らが将来大学やプロでプレイしたいと思ったとき、インサイドでしかプレイできない180代の選手なんて活躍できないだろう。それを考えたら、背の小さいお前らは様々なスキルを身に着ける必要がある。」
「俺が、スリーをうったりしなきゃならないってことですか?」
そう大賀が聞き返した。
「それもやるだろう。というか、私は全員スリーがうてるチームにしたい。例えばスペインの選手は、ビッグマンでもシューターが多いし、ほとんど皆シュートは決める能力があるだろう。」
「でも、NBAのレイジョン・ロンドとかは下手くそですよね。」
「あれは…例外だ。」
賛否両論のある選手だが、そのロンドという選手はガードというポジションながらジャンプシュートが非常に下手だった。さらに、改善の兆しすら見えない。それでも抜群の身体能力、ハンドリング、そして視野の広さで得点やリバウンド、特にアシストを量産する特殊な選手だった。少なくても私は、部員たちに彼を目指してほしいとは言えない。
「要するに、ポジションの枠組みにとらわれるなということだ。スリーがうてれば、シュートフェイクからのドライブなど、オフェンスの選択肢が広がる。実際、ディフェンス側としてはビッグマンをゴール付近に置きたいところだが、マークマンがスリーのうてる選手ならそいつを外に引っ張り出すことができる。そうすれば中が空いて攻めやすくなる。なんだかんだ言って、シュートは全てのオフェンスの基本なんだ。分かったか?」
「…はい。」
「よし、練習に戻れ。」
この日から、同様にフットワークやオールコートを走る練習、そしてキャッチ&シュートの練習を続けた。キャッチ&シュートが入るようになってきたら、今度はそこから1on1の練習へと発展させた。また、ウェイトルームを男バスは月曜と金曜に使っていいことになったので、そこでフィジカルを強化させた。しかし、柳、藤原は練習を休みがちだった。柳は「家庭の事情」、藤原は「体調不良」ということを理由としていたが、無理に追及することもできなかった。
そして一週間ほど過ぎた月曜日、部員たちに渡したノートを回収しようと思い、練習前に集めさせた。
ざっと要点をまとめて、読んでみた。
柳『足がパンパンで痛いです。筋肉は休めないと成長しないそうですよ。ジャンプシュートは大事ですね。』
うちの部は毎日休みなしで練習している。ここの学校は、文科系を除くほとんどの部活がそんな感じだ。柳はサボりたいのかもしれないが、この意見は一理ある。ところでこいつはジャンプシュートの確率を上げることを他人事だと思っているのか?
小倉『キャッチとミートを一緒にすることで、シュートリリースが速くなる。これをもっと極めたい。また、練習試合でフィジカルの弱さを痛感したので、もっと鍛えたい。』
こちらはちゃんと自分の課題を考えて、克服しようとしているようだ。
大賀『シュートは未だ下手くそだが、まずミドルシュートの確率を上げてからスリーの練習をしたい。また、監督の言葉の意味を考え、ハンドリングを身に着けていくことが重要だろうと思った。』
正しいことを考えている。
中野『僕は初心者なので監督が何を言っているのかよくわかっていないかもしれませんが、とりあえずシュートの確率を上げたいです。あと厳しい練習にもついていきたいです。』
彼は初心者だが、運動神経はかなり良さそうなので、地道に行けば高校のうちにでもかなり良い選手になるだろう。
田部『自分のシュートがまだ未熟だと思いました。また、練習試合では何度もスティールを決められたので、ボールキープ力やハンドリング、正確なパスを出す力を身に着けていきたいです。』
インサイドプレーヤーでもシュートを鍛えると言ったことで、彼は新たな課題を見つけたようだ。スモールプレーヤーだが、安定感のある試合運びができるようになれば柳の代わりを任せられる。
小町『シュートがうまくなりたいです。』
なんだ、これだけか。さてはこいつ今まで書いていなかったな?あとでダッシュ十本だ。
五島『シュートが上手くなりたいです。』
おい!!『うまく』が『上手く』になっただけか!!一年の不真面目さがうかがえる。ダッシュ二十本だ!
さて、最後は藤原のノートだ。どれどれ…。
藤原『もう辞めたいです。』
…なんだと。
試合回は、もう少し先になりそうです。




