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第十五話 練習

 大鷲先生と飲んだ後、私は一人で歩いて家に帰っていた。夜風は涼しく、火照った体を癒してくれる。ちなみに、大鷲先生はタクシーで帰って行った。

 歩きながら、これからの練習方針について考えていた。次の大会で当たる南北高校というチームは、かなり小柄のチームだがおそらく機動力を重視したバスケットをするのだろう。しかし、今の西商は体力のない選手が多い。先発PGの柳もハンドリングは素晴らしいが、スピードはそこまで速くなく、体力がない。オールコートでプレスをかけられた時、落ち着いてボール運びができるだろうか?

「危ない!!」

 考え事をしていたこと、さらに酔っていたことが重なり、私は気付かぬうちに車道を歩いていた。そして、前方から車が走ってくる。誰かの声のおかげで、すんでのところでかわす。

 しかし、情けないことながら足がもつれて転んでしまった。先ほど声を掛けてくれた人が手を差し出す。私はそれを掴んで、立ち上がる。

「あ、危なかった…。すみません。」

「いえ、気を付けてください。…あれ?黒沢先生ですか?」

 そう言われてその人の顔を見ると、西商女バスの監督である佐藤先生だった。相変わらず凛々しい顔立ちだ。

「あ、佐藤先生…。お恥ずかしいところを見られてしまいました。」

 そう言って私は笑ったが、彼女は笑っていない。それどころか、鋭い視線を私に突き刺してきた。

「先生、こんな日に飲んでいたんですか?練習試合で負けたその日に。」

「いや、これは…その相手高校の先生と、」

「あの子達の何人かは、試合が残った後も自分達で残って練習してたんですよ!」

 それは知らなかった。試合が終わった後、入念にストレッチして帰りなさいとだけ伝えて私は帰ったのだ。部員達はそんなに悔しかったのだろうか。

「もっとチームの未来のことを考えてください!」

 そう言って、佐藤先生は帰って行った。いつの間にか酔いは醒め、寒風が身にしみてきた。



 次の日、日曜日も練習だ。部員達を一度集める。

「全員揃ったか?…ん?柳はどこに行った。」

「用事があるとかで、来ていません。」

 そう答えたのは三谷だ。

「用事?具体的なことは、何か言っていたか?」

「いえ。」

 サボりか?いや、例え用事があったにせよそれが何かも伝えずに休むのは良くない。部員全員に私の電話番号を渡し、休む際は連絡をするように言った。


「さて、まずはこれを皆に渡す。」

 皆に渡したのは普通のノートだ。

「このノートに、毎日の練習で思ったことを書いていきなさい。課題に感じたこと、明日練習したいこととかだ。定期的にチェックするので、忘れず書くように。」

 部員達の中には、露骨に嫌そうな表情をする者もいた。しかし、毎日課題を持って練習すれば練習効率も上がるし、モチベーションも上がるはずだと考えて、このノート制を作った。

「私の指導のモットーは、『練習で苦しみ、試合で楽しめ』だ。これからは厳しい練習をさせていくが、それはきっとお前たちの力になり、楽に試合で勝てるようになるだろう。では、さっそく練習を始めるぞ。まずはストレッチから、フットワークの練習だ。」


 ストレッチは、怪我を予防するためにも重要だが、柔軟な体を持っていることはバスケをする上で非常に役に立つことだ。なので、私自身がメニューを考えてそれをやらせた。特に、股関節や肩関節を柔らかくするのを重視したメニューだ。

 そして、フットワークの練習を始めた。バスケでは、フットワークを見るだけで強豪か弱小かを判断できるとも私は思っている。

「全員、集まれ!」

 フットワークを途中で止め、部員を集める。

「お前らのフットワークは、惰性でやっているほとんど意味のない練習になっている。スライドの練習は、何のためにあるんだ?ディフェンスで素早く反応できるようにするためだろう。なのに、ふわふわと体を浮かせながらスライドして何の意味があるんだ。」

 スライドだけではない。部員達の数名は、疲れないようにフットワークをしていた。フットワークを鍛えることはバスケをする上で、非常に大切なことだ。ただ、疲れるから、それを中途半端にやろうとする人間も多い。

 再び部員達を練習に戻す。皆少しは意識したようで、動きがキビキビとし始めた。

「ようし、ラストダッシュ三本だ!いいか、ランニングじゃない。ダッシュだ!」

 部員達に全力でダッシュをさせる。この辺で、体力のある選手とそうでない選手がはっきり分かれてきた。

 一番早いのが小倉だ。次に、能勢。さらに田部、大賀、五島、小町。そして大きく遅れて藤原が走っている。

 五島は足が速いのに体力はないようだ。逆に田部はそこまで足が速くないが、しっかりスピードを落とさずに走っている。問題は藤原だ。遅すぎる。既にヒイヒイ言いながら走っている。

「藤原、頑張れ!まだいけるぞ!」

 声を掛けるも、結局他の部員に一気に置いていかれ、走り終わった時には膝をついてしまっていた。

「こら、休む時は、座ったり壁にもたれかかったりしたら駄目だぞ。歩きながら、呼吸を整えなさい。」

 藤原は、病人のように立ち上がる。大丈夫か、こいつ…。


「次は、オールコート1on1の練習だ。コートの左端を使って、ボールマンは向こうのエンドラインまで運んで、ディフェンスはそれを止めるんだ。ただ、手を使わずに体を正面に入れて止めるようにすること。多少のプッシングやブロッキングは構わない。倒れた方が負けだ。エンドラインまで行ったら、逆サイドから攻守交代して帰ってきなさい。では、始め!」

 だいたいスピードが同じくらいの部員を組ませて、練習を始めた。フットワークの練習の直後なので、全員、かなりきつそうだ。

「疲れてるからって、腰を浮かせるな!やや落とすぐらいの形をキープしろ!」

「足だけ動かしても意味がないぞ!体で止めるんだ!腰を先に動かすイメージだ!」

「もっと速く!!」

 私は、試合中に怒鳴り声を上げるタイプではないが、練習の時はあれこれ口を出すタイプだ。『練習で苦しみ、試合で楽しめ。』ということだ。


今回、次回は練習回です。

私は実際のコーチでもなく、コーチ経験があるわけでもありませんので、「これはおかしいだろ」みたいな点はあると思いますが、そういう点はどんどん指摘してもらいたいです。ただ、主人公も最近コーチになったばかりの人間なので、ある程度無茶な指導はするかもしれません。

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