第十三話 執念
「もう点差は気にするな!このクォーター,0-0で始まったつもりで行くぞ!」
選手たちに発破をかける。ベンチメンバーもしっかり使っていたので、スタメンの疲労は思ったほどでもなかった。
「柳も能勢も、もっと自分で仕掛けていいぞ。行けると思ったら迷わず行くんだ。」
ここまで柳はゲームメイクに徹しており、能勢もほとんど自らシュートを狙ってはいなかった。紅白戦で見せた能勢の得点力は鳴りを潜めていた。
「…くそっ。」
五島は悔しかった。大口を叩いて早見を止めると言ったが、結局何も出来ていない自分に腹が立っていた。早見は2Qで20得点した後、3Qを全てベンチに座っていた。
「監督、もし早見が出てきたら俺にマッチアップさせてくれ。」
このままでは終われない。五島はそう思っていた。
「そのつもりだ。向こうはこのクウォーター、全てスタメンで来るらしい。こちらはスタメンから小町と五島を替えたメンバーで行く。…いいな五島。ここから0-0で始まったつもりだ行くんだ。」
絶対止める。そして勝つ。五島はそう自分に誓った。
4Qが始まった。まず西商ボールだ。上原が柳にプレッシャーをかけてくる。
(…じゃあちょっと、仕掛けてみるか。)
柳は上原が体を寄せてきた瞬間、股抜きを決めた。大芸ベンチから声が漏れる。柳は何度も目でフェイクを入れながらドライブする。パスフェイク、シュートフェイク。ここでヘルプにきた国富がジャンプするが、柳は国富の体のすぐ横を通すパスで能勢のシュートをアシストする。
「ナイスパスです、柳先輩!」
「おうよ。」
こちらが浮かれていたのも束の間、大芸は上原と山神のピックアンドロールで山神が得点する。
「向こうの上原ってガードは味方を使うのが上手いな。」
上原ここまで5アシストだが、0TOでミスが無く、パスの中継役としても非常に活躍していた。上原が出ているだけで連携の取れてない一年チームが、急に滑らかなプレーをしだす。まさに理想的なポイントガードだった。
しかしこちらのガード、柳も負けていなかった。今度はストリートでするような大げさなパスモーションをしながら、ボールをふわっと浮かすパスフェイクでディフェンスの視線をボールから逸らしたあと、一気にドライブを仕掛けて、ユーロステップで潜り込みながらレイアップを決めた。
大芸はまたピックアンドロールを上原と国富で仕掛ける。柳はスクリーンをすり抜け、能勢と上原にダブルチームを仕掛ける。国富はゴールに切り込まず、スリーのラインで待っていた。ここに上原が冷静に、ビハインドバウンズパスを通す。
国富は、シュートリリースは非常にゆっくりなものの、高い弾道、そして美しい回転のシュートを放った。これが決まる。
(最近はセンターでも、外のシュートが得意な人は多いよなあ。)
こう思ったのは田部だ。160cmしかない彼は、アウトサイドシュートがチビの生きる道だと考えていたが、能勢や国富のシュートを見ているとそれが正しいのか疑ってしまう。
そう考えた矢先、ハイポストでボールを貰った能勢が、ゴールに正対してワンフェイクを入れ、すぐにフェイダウェイを決めた。こちらも美しいフォームだった。
早見にボールが渡った。五島の目の色が変わる。早見はレッグスルーをしながら左右に揺さぶる。そして、肩を大きく開きながら距離をつめる。
(クロスオーバーだ!)
五島はそう読んで、ボールの逆側に体重をずらす。しかし、早見がしたのはインサイドアウトで、五島のすぐ横を抜いていく。そして、ストップジャンパーを狙うも、これは外れて大賀がリバウンドを取る。
(くそ…!また簡単に抜かれた!)
五島は悔しく感じた。こんなにディフェンスに熱くなったのは初めてかもしれなかった。
今度は小倉が1on1を狙うも、抜ききれない。今日小倉はほとんどこの安部という名前のSFに抑えられていた。
(ちょっとコンタクトしただけで弾き飛ばされになる…くそっ!)
小倉は柳にパスを返した。そのパスを柳はタッチパスでペイント内で面を張った能勢に渡す。能勢は肩で右左とフェイクし、右にターンしてフェイダウェイを決める。ここまでで、4Qは8-5で西商がリードしていた。
大芸はまた早見にボールを渡す。今度は早見は即ドライブを仕掛けてきた。
「おっ。」
五島が、今度は早見の正面に入ってきた。接触して五島は倒れるが、五島のブロッキングファウルとなった。
(危ない、チャージングでもおかしくなかったな。…しかし、フェイク無しでも、俺のドライブはこんなに反応されたことは無かったのに。)
早見は、どこか楽しそうにしていた。
ここから両チームは点の取り合いになった。上原のアシストから山神がミドルシュートを決めると、こちらは大賀が山神からバスカンを取る。フリースローは外れて国富がリバウンドを取るが、これを能勢がスティールしてそのままゴール下のシュートを決める。すると、速攻に走った山神に、早見から絶妙なパスが通る。そして、山神のワンハンドダンクが決まった。12-9。今度は柳がトリッキーなドリブルからファウルを貰い、フリースローを二本とも決める。しかし、また山神がボールを持つと、ステップバックしてのスリーを決めた。
この流れは残り二分まで続き、4Qのスコアは20-18だった。
山神はこのQだけで11点取っていた。大賀のディフェンスは決して悪くないが、山神は大賀より高く、速かった。
ゴール下に飛び込んできた小倉に柳が合わせる。ゴールは目の前にあるが、190が二人いるペイント内でシュートを打つのは、それだけでプレッシャーがかかる。 しかし小倉は強引に国富と接触する。国富を押しながらシュートすることで、ブロックをかわしてシュートを決めた。
(でかいが、こいつは軽いな。)
小倉も重い方ではないが、国富も見かけほどの体重は無かった。
大芸は再び山神だ。単純なドライブを仕掛けるが、そのパワーで、ディフェンスを押しのけながらレイアップに行く。能勢がヘルプに跳んだ。
「相変わらず長い腕だねえ!」
山神はノールックで早見にパスを出した。五島は遅れて反応するも、早見のスリーが決まる。
こちらはセットプレイから、五島がスリーを狙ったが外れる。しかし向こうも、早見が再びスリーを狙うが外れる。
時間は40秒を切った。ボールは小倉に渡る。
「負けっぱなしじゃ、終われねえな。」
小倉はロッカーモーションから、クロスオーバーで抜こうとするが、これも安部に止められる。
「ちっ!」
柳がパスを要求するが、小倉はパスを出さず、再びドライブを仕掛ける。これも抜ききれないが、小倉は手で安部を押しのけてしまう。これがファウルとなり、大芸ボールになった。
「くそ…!」
残り二十秒で、一点差(4Qのスコア)。
大芸は、やはり、山神にボールを預ける。
「ダブルチームだ!」
私は叫んだ。一人で止められるようなプレーヤーではない。大賀と、柳でダブルチームを仕掛けた。しかし山神はすぐに上原に戻す。
ここで山神はゴール下へ一気にカットした。パスは出なかったが、そのまま逆サイドのコーナーまで行き、そこでパスを貰った。柳はついていったが、シュートフェイクに反応して、軽く抜かれてしまう。山神はレイアップを放った。
「させるかッッ!!」
大賀が吠えた。そして、そのレイアップを叩き落とす。いや、山神がボールを持っている状態でのブロックだったので、山神ごと、文字通り叩き落とした。山神は背中から倒れて、ここでブザーが鳴る。
92-60.最終的なスコアはこうだったが、4Qは22-21で、西商が勝っていた。とはいえ、まさか一年チームにここまでやられるとは…。大鷲監督は、それだけこの山神世代で優勝を狙って、スカウトに力を入れたということなのか。
その大鷲監督が、こちらのベンチにやって来た。
「いい試合になった。最後のクォーターのことは、後できっちり叱っとくわ。やられるなんて思いもしてなかったな。はっはっはっ!…まあ、積もる話もある。今日、飲みに行くぞお!」
せっかく見てくださっている方がいるのに、更新遅くてすみません。




