第三話 部員紹介
我が西商業高校のバスケ部員は全員で十名。去年の新人戦では地区予選の二回生で敗退…。黒沢監督は名門大芸高校の部員だったそうですな?向こうの大鷲先生とは私も親しくさせてもらっていますが、黒沢先生は素晴らしい部員だった、彼は良い指導者になるでしょうと言っていましたよ。私もとても期待しています。とりあえず、次の夏の大会では県大会ベスト8ぐらいを目指してもらいと思っております。大丈夫、部員達もちゃんとした指導者がいれば力を発揮できる子達ばかりですから…。
校長先生は赴任当日にそうおっしゃっていた。私もその期待に応えたいと考えていた。しかし、この現実はどうだ。先生がいなくなっただけで、部員が半数まで減っている…。
窓越しに見たのは、五人の部員が好きに練習している風景だった。シュート練習をしている者や、1on1の練習をしている者もいる。
こんなチームで勝てるのか?私は先ほど部員達に言い放った言葉も忘れてコートに出た。
「どうも、先生。」
ドアを開けた瞬間に声を掛けられた。すぐ隣に部員が座っていたらしい。
「…何をしているんだ?」
「僕は怪我してるんで練習できないんです。」
「そ、そうか…。他の部員はどこに行ったんだ?」
「多分部室に行ってますよ。サボり癖のある奴らばっかなので。」
県大会ベスト8を目指せと言った校長の顔が浮かび上がる。何だこれは。無理だろ。
「自己紹介しますね。僕は三谷寛太。うちの部で唯一の三年生です。さっきも言った通り怪我しちゃってて。もう事実上マネージャーみたいなものですね。」
ただでさえ少ない部員。しかも怪我人までいるのか…。
「とりあえず、他の部員達のことを教えてもらえるか?」
「ええいいですよ。まず二年生から言っていきますね。」
まず、PGの柳良太。ヤナって呼ばれてて、部室に行った組の一人ですね。身長は167cmで、ハンドリングとパスのセンスはとびきりです。派手なプレーが大好きな奴です。足はそんなに速くないんですけど。
次に、SG/SFの小倉心。珍しいでしょ、男でこころって名前も。皆からもこころって呼ばれています。ほら、そこでシュート練習している奴で、身長は177cmです。彼はハンドリングとミドルシュートがとても得意で、ドリブルからのストップジャンパーが武器です。パスも出せる能力はありますが、イライラしてくるとひたすら1on1を仕掛け始める困った奴ですね。
PFの大賀大河。184cmで、一番ゴツイ奴です。タイガって呼んでます。身体能力が高くて、ゴール近辺では非常にフィニッシュ力がある選手ですね。ディフェンスも得意です。ただ…さっきのこころとは仲がめっちゃ悪いです。お互いにパス出そうとしないんですよね。
あとは、SFの中野新太郎、178cmです。シンタローって呼んでます。高校からバスケを始めた奴で、運動能力は高いんですけど、スタミナはあんまりないですね。リバウンドへは積極的に飛び込んでいきます。
他の一年生はどんなプレイヤーなのかは分かりませんけど、とりあえずポジションと名前と身長を言っておきますね。
G、小町啓介 172cm
C、能勢球児 186cm。岡山市選抜の選手だそうです。
G、田部安秀 160cm
G、五島正弘 170cm
C、藤原さとし 180cm
「以上です。」
「ありがとう。とりあえず、部員をもう一度集めてこないとな…。」
すると、教官室のドアが開いた。
「黒沢先生、お電話です。」
「おう、元気にしとるか!」
電話口からは愉快そうな声が聞こえてきた。
「大鷲先生ですか?お久しぶりです!」
「お前、西商業高校で教師になったんじゃろ?しかも、バスケ部の顧問になったって聞いたで!」
「ええ、お陰様で…。先生も元気そうですね。」
大鷲先生は今年で60歳になるはずだ。どこからこんな元気な声が出るのだろうと不思議になる。
「おお、すこぶる元気じゃわ。うちの部員達にエネルギーもらっとるからな。…そんで、西商とうちで練習試合をしようと思ってな、今日電話かけたってわけよ。」
「えっ…うちと?もう春大会がすぐそこですよね。しかも大芸みたいな強豪がうちみたいな弱小と?」
「大丈夫、その日は一年しか連れて行かんから。俺も一年の能力は見てみたいし、お前の采配も見てやるわ。」
「はあ…。」
新年度になって初めての大会は、春大会と呼ばれている。この大会では優勝しても全国に行ったりするわけではないが、ここで良い順位を取っておくと夏の大会の組み合わせが有利になる。それが、既に二週間後に迫っているのだ。
「次の土曜日でいいか?体育館は使えるよな?」
「ええ、午後なら使えます。」
「なら、良し!その時間に行かせてもらうからな!ほんじゃな!」
そう言って電話は切られた。まだするって言ってないじゃん…、しかし、そういった強引なところも高校から変わってないところで、懐かしく感じた。
次の土曜日。つまり三日後だが、そこまでの間にどれだけこのチームをまとめられるだろうか。一年主体といっても、おそらく大芸高校の一年ならば中学の頃の市選抜や県選抜選手が多くいるだろう。勝つのは難しいかもしれないが、監督を始めて初の試合だ。少しでも実のある試合にしよう、と思った。




