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広島、もしくは言葉の魔術師たる詩人達へと贈るエールのような何か

広島は死んだ。薄汚れ、手狭な、あの愛らしい街はもう死んだのだ。世界の終わりは誰も予兆できぬまま訪れるものだ。それは気取り屋な預言者が眠っている内に訪れた。広島は死んだ。世界は息絶えた。


神もいないこの世界で霊魂はただ消え去る他なかった。肉体は一切残らなかった。全て塵となり、風に消えていった。鳥も、獣も、魚も、植物さえも息絶えた。死は差別をしない。何もかも奪っていった。広島は死んだ。世界は息絶えた。


人の消えたこの広島の街で、風と雨の音だけがただ響き渡る。灰色のビル群を風がなぶっていく。誰も罪はなかった。人も何もかも、世界に手を下すことができないまま死んでいったのだ。


魂は消えた。肉体も滅び去る。広島の街を土が少しずつ覆っていく。万年の後に広島は消える。広島は死んだ。もう誰も広島を知らない。


この星に二度と生命が宿ることはないだろう。全てが死滅した。誰も知らないこの街で、誰も知らないままに雨は降り風は吹く。広島は死んだ。世界は息絶えた。


コンクリートは崩落を始める。柔らかく積もった灰の中へ音は溶け込んでいく。誰も知らない。全ては消える。文字、記号、終着点たる表現体。それは何も意味しない。


老いた太陽は遅れて死を迎える。地球は砕かれる。広島は死んだ。世界は息絶えた。しかし、一体誰が気づくというのか。一体誰がその死を看取るというのか。虚無、宇宙は黙り込んでいる。広島は死んだ。もう誰も知らない。宇宙は幾らかの感傷と照れを懐きながら無声劇を続けていく。広島は死んだ。もう生き返ることもない。


歴史は消える。歌は消える。シェイクスピアもアポリネールも、シラーもダリもアインシュタインも息絶えた。ラスコーは崩れ落ちた。梅毒のスフィンクスは風に溶けていく。広島は死んだ。世界はもう動かない。地球は消え去る。限界は全てを置き去って拡大していく。宇宙の向こう側にたどり着いた後、全ては弾ける。


はじめに言葉があった。終わりに言葉はもうない。淫らで、卑小で、懐かしい、愛らしい、薄汚れ、寂れた、嘆きと栄光の古ぼけた街で、人々は生き、笑い、苦しみ、泣き、眠り、死んだ。その広島はもうない。広島は死んだ。誰も知らない。宇宙は無言劇をやめた。幕が閉ざされたその後も、広島は死んだままだ。もう誰も語らない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 過去と現実を繋いで考える現代。けれども、過去は過去に風化し、現実は現実として息づいている。当たり前。当然。それを理解せずに読めば、広島に対する冒涜なのでしょうか。 過去に存在した現実は、そ…
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