人間の救世主と世界の判定者 50音順小説Part~に~
神を信じる少女と人間嫌いな神の息子の交流を描きました。
2099年。
日本はさらに欧州化が進み名を先、姓を後で呼ぶようになった。
また日本語も漢字も戸籍など正式書類でしか使われなくなり
日常生活ではほとんど英語が主流となっていた。
世界全体は超高度な文明へと発達し現在では人間中心主義の考えが
進化して神は存在しないという概念が世界中に浸透していった。
おかげで今の世界では数多くあった宗教は急速に消え神を信じる者はいなくなった。
しかし神々は存在する、信仰する者がいてもいなくても存在する。
神は信仰する者がいなくなった今の世を嘆き、怒った。
そして神々は集いある決断をした。
判定者を送り実際の世界を観察させて決めようと。
今の世界を存続させるべきか、壊してもう一度創生するべきか。
その判定者として送りこまれたのは
数多くいる神々の子の中でも一番劣っている息子。
皆一様に反対したのだが劣っている息子の父神は
忘れ去られようとも人間を愛している唯一の神であり
今の世界を存続させたいと願っていた。
そして人を愛する神は信じていた、息子なら必ず最良の選択をすると。
全ては彼に託された。
「かをり!かをり!」
「今度は何?」
「みてみてっ!十字架!自分で作ってみたの。今度は数珠に挑戦しようかな。」
溜息をついてる彼女の幼馴染、カヲリ・ミクリヤは
十字架を見つめあきれ顔だ。
「ニーナ・・・。学校には持ってこない方がいいんじゃない、またアイツに何か言われるよ。
それに神は存在しないって公では認められているわけだし。」
「そんなことないよ、神様はいるよ。信じる者がいる限り神は存在するのです。」
「全くこの子は。まぁ、今に始まったことじゃないけど。」
十字架を嬉しそうに掲げる少女、ニーナ・タカナシは
信仰する者がいなくなった世界では珍しい神を信じる者だった。
「ニーナ・タカナシ、そんなものを学校へ持ってくるなと何度言えば分かる。」
クラスの学級委員長トモ・ミマサカは冷たい視線を仁菜に投げかける。
「でも校則には禁止なんて書いてないよ。」
「君は神なんて半世紀以上前に廃れたものを信じているのか、
もう間もなく新世紀へと移行し神なんていう居もしない存在を
信仰していた世紀とおさらばできるというのに。
新しい時代を迎えるにつれ君みたいなのがまだいるなんて、虫唾が走る。」
「美作君、けどね・・・」
「その日本語じみた発音はよしてくれ、僕の名前はトモ・ミマサカだ。」
「みっ・・・ミマサカくんは信じてないだろうけど、私は神様はいるって信じてる。」
「だからその考えが愚かだと言ってるんだ。」
「ミマサカ、他人の精神の中までとやかく言うことは
いくら委員長様っていうご立派な役職でも出来ないだろう。」
「かをり・・・・・」
「カヲリ・ミクリヤ、まさか君も神なんてものを信じているのか。」
仁菜を庇うようにカヲリがトモとの間に立つ。
「私は信仰者でないけど友人ではあるわよ。」
カヲリはトモに言いながら仁菜に向かって得意げな笑みを浮かべる。
「だから友人が困っていたら助けるのは当然でしょ。」
「そんな道徳を語っても愚かなことに変わりはない。」
「でも、頭ごなしに神は存在しないってどうして決めつけるの。」
「愚問だ。神など古代の愚かな人類が創り出した想像の産物だ。」
仁菜の問いにトモは何の迷いもなく答えた。
「想像だろうとそれを信じようと信じまいと私の勝手でしょ。
別に誰かに強要されたり強制させているわけじゃないんだよ。」
「とにかくニーナ・タカナシ、現代において君のようなものは
世界のつま弾き者というんだよ。そうなりたくなければ、
今後二度とそのような戯言を口にするんじゃない。
これは委員長としての忠告、いや命令だ。」
そう捨て台詞を吐きトモは去っていった。
「ニーナ、そうしょげるなって。アイツはいつもああなんだから。」
「私、悔しい。私の悪口はいくら言っても構わないけど
神様の悪口は許せない。どうしてあんな酷いこと言うんだろう。
何も悪いことなんてしてないのに、むしろ神は人々のために
あらゆるご加護をくださるのに。」
仁菜は自分の崇拝する神が罵られ蔑まれていることを深く哀しんでいた。
「神を信仰するにはこの世界はえらく難しい世界になっちゃったってことね。」
カヲリの言葉に仁菜はさらに悲嘆に暮れるしかなかった。
都市の中心地から一番離れている住宅地のさらに端に位置する
周りを雑木林で囲まれひとつポツンと建っている一戸建ての古びた家、
それが仁菜の家であった。
12年程前までは似たような家がもう一軒あったのだが
建て直し今風の四角いデザインのセキュリティーロボが内蔵された家になってしまい
古き良き伝統的な家屋は仁菜の家だけとなった。
鍵を取り出そうとポケットに手を突っ込み自宅の鍵を出す。
鍵にはこれまた仁菜お手製の卍のキーチェーンを付けていた。
鍵穴に差し込もうとした時背後の林から
風もないのに木々が擦れ合う音がした。
こういった都市部で動物が暮らせそうな自然が残っているのは
仁菜の家の雑木林だけでありそこに野生動物が
生息していることも知っていたから林の中から
物音がしても当然なのだが
野生の動物が人間に近づいてくることは滅多にないので
すぐ近くの林から音がしたことに驚き仁菜は振り返った。
現れたものを見て仁菜は目を疑った。
林から出てきたのは野生の動物ではなく襤褸切れを纏った
一人の青年であった。
あまりの衝撃に姿に仁菜は目を丸くして一歩下がった。
だがよく見ると少年は服装だけでなく体もボロボロだった。
「大変・・・、あなた大丈夫?」
とにかく介抱しようと近寄り彼の肩に手をかけようとした途端
鋭い痛みが一瞬走り仁菜の右手にはひっかき傷ができ血がにじんでいた。
「触るなっ!糞蟲がっ―――」
こちらを睨む少年は見ず知らずの仁菜に憎悪の視線を向け
いきなり暴言を吐いてきた。
「けっけどこんなに弱って・・・」
言葉からは悪意が伝わってきたが
怪我をしている人をほっとけなかった。
「汚らわしい虫けらが。去れ。」
そう言ってるそばから彼は倒れ今にも意識を失いそうだ。
「むっ、無理だよ!怪我人を見過ごすなんて
そんなこと出来ないよ。」
仁菜は助けようとしてひっかかれたにも関わらず
再び彼に触れ抱き起そうとした。
「触れるなと言っただろうっ・・・」
「きゃっ!」
青年が手を振りほどいた際仁菜が服の中に周囲に見えないように
隠し首から下げていた十字架のネックレスが衝撃で切れた。
「・・・十字架―――」
彼はそう言うと動かなくなり完全に気を失ったようだった。
再度青年が目覚めたのは真夜中のことであった。
明かりは小さな橙色の光がひとつベットサイドに
置かれ部屋の全体像がすぐに掴めなかった。
上半身を柔らかく暖かなベッドから起こすと
傍らにあの少女が眠っていた。
どうやら看病をしてくれていたらしく
サイドテーブルには救急箱やらタオルやらが
散乱しており衣服は襤褸切れからTシャツとジーンズに着替えられていた。
体の匂いも何週間も彷徨っていたせいでかなりキツかったが
清拭してくれたのかそれほど臭わなかった。
地上に降りてから施しを受けたのは初めてだった。
どうせ人間なんていう下等生物には
最初から期待していなかったし、むしろ大嫌いだ。
人など自己中心で非道くて忌むべき存在だ。
その思いは地上へ来てからますます募り
さらに憎むようになっていた。
判定者としての任務にも何故自分が選ばれたのか
不思議で仕方がなかった。
このまま世界を滅ぼし創生させるという選択に
賛成である彼はすぐにでもこの任務を終わらせ
人間のいる下界から天界に帰りたかった。
だがそんな矢先にこの少女に出会ってしまった。
少女の取り出した鍵に卍の意匠を目にし、
思わず林から飛び出してしまったことを後悔していた。
憎い人間の前に自分から出るなど
また罵倒されゴミを見るような目で暴力を振るわれると
そう思い先に拒絶してさっさと消えてほしかった。
なのに横で眠っている少女はそんなことお構いなしに
自分を助けようと必死だった。
彼の今の心情は複雑だった、まさかこんな人間がいるなんて。
そんな彼の心境など知らない少女は気持ちよさそうに
寝息を立て先ほど彼が傷つけた右手は時間が経過したおかげで
血は滲んでおらず瘡蓋が傷口の表面を覆っていた。
彼女の右手にそっと触れる、介抱しようとした少女に
こんな仕返しをしてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
手に当たる感触に気付いたのか少女がウゥと
寝ぼけながら身を起こした。
よほど眠いのか目を擦り大あくびをかましている。
「あっ・・・具合どうですか?」
やっと青年が少女を見つめていることに気が付き
顔を赤らめ口元を覆った。
決まりが悪いのか少女はしばらくしてから思い出したように体調を問うた。
「問題無い。」
青年は無愛想ではあったが敵対する様子もなく
彼の返答に気をよくしたのか彼女はホッとしたようであった。
「あんなにボロボロだったから怪我してるのかと
思いましたけど見当たらなかったのでよかったです。
服のサイズもパパの服でちょうどいいみたいですね。
あっ、あの勝手に体拭いたり着替えさせたりしちゃいましたけど
そっそのっそんなには見てませんから!なるべく見ないようにして
ましたから!安心してください。」
「・・・・・、あぁ・・・。」
また顔を紅潮させながらペラペラと喋る少女に
青年は戸惑い気味であった。
「その、こちらこそすまない。
先程は無礼な態度をして怪我まで負わせてしまった。」
「気にしないでください。
それに怪我っていうほどのものでもありませんし、
そうだ!お腹すいてません?レトルトのお粥でよかったら
すぐ出来ますから持ってきますよ。」
「いや、結構。そこまでしてもらう義理も無い。」
そう言うと彼女は口をへの字に曲げてこちらを見る。
彼の義理という言葉に少女は反応したようだった。
「別に義理でしてるわけじゃありません。
神の教えに従い困っている人がいれば手を差し伸べるのです。」
彼女はそう言うと無意識に首元から下げている十字架に手をやり握った。
「気になることがあるのだが。」
「何ですか。」
「お前十字架を持っているが、神を信じているのか。」
彼の質問に少女は少しの間逡巡したのち
瞳に強い意志を宿してこう答えた。
「はい、信じています。誰に何と言われようと私の信念は変わりません。」
「何故。」
「そうですね・・・。話すと少し長くなっちゃいますけど。」
「構わない。」
「私の家は見て分かるように古いですよね。歴史の研究家であった
パパとママとグランパと四人で暮らしていたんです。
家の中にも昔のものとか収集していっぱいいっぱいなんです。
歴史が好きな家族でその中でも宗教や神様についての研究に
力を注いでました。私もそんな環境にいたわけですから
自然と神様を信じるようになりました。」
そう言われ改めてみると部屋の中は
壁に聖像が掛けられ棚にはいくつもの偶像や
古い歴史書が置いてあった。
「けれど時代はそれを許してはくれませんでした。
パパたちは世間から狂っていると蔑まれ
身に覚えのない誹謗中傷まで言われて
ママとグランパはストレスから来る病気で亡くなり
パパもとうとう精神に異常をきたして
病院に強制入院することになったんです。
それが3年前のことです。
今ではここに私一人で暮らしています。
たまに寂しくなって泣いちゃう夜もありますけど
きっとこれも神に与えられた試練だと思います。
これを乗り越えればパパも戻ってきて
また家族一緒に暮らせるって信じてます。
神は人間を見捨てることはしませんので。」
少女を健気だと青年は思った。
このような世界で神を信仰しそれにより悲劇に見舞われても
懸命に生きている人間がいることを知り
彼の心は嬉しいような悲しいような二つの真逆の気持ちが
隣り合っている、そんな思いだった。
「お前の名を聞いてもよいか。」
「私はニーナ・タカナシです。
儒教の根本理念である仁義の仁に
菜の花の菜、小鳥の天敵である鷹がいないから
安心して遊べるという意味の小鳥遊で仁菜・小鳥遊。」
名前の説明をしながら手のひらサイズの携帯電話を取り出し
映写機機能を展開して映し出されたスクリーンに
直に指で触り名前の漢字を書きだした。
「あっ漢字分からないですよね。
ごめんなさい、今どき漢字なんて理解できる人ほとんどいないのに。」
「いいや、大丈夫だ。仁菜・小鳥遊か、いい名前だな。」
「私も小鳥遊って苗字大好きなんです。
だって小鳥が遊ぶなんて素敵でしょ。」
「そうだな。」
「あなたの名前もよかったら教えてくれますか。」
「えっと、ダイチ・オコノギだ。
自然と書いてダイチ、小人の小に
此処という言葉の最初の字、木の実の木で小此木だ。」
下界の日本という地に来るにあたって
彼はそこに相応しい名前を名乗るよう
予め偽りの名を与えられていた。
少女、仁菜の出したスクリーンに反対側から自分の名前を書き記したのを
仁菜が軽く触れると文字が反転して彼女が読みやすいようになった。
字を見ながら仁菜は何故か笑い出した。
自然は何か間違えたのかと思い焦った。
「なんだ。」
「だって怖い人かと思ったのに小人とか木の実とか
なんだか可愛いなぁって思って。」
「すっすぐ思い付いたのがそれだったんだ!
仕方ないだろう。」
目の前にいる仁菜の笑顔を、自分に向けられた笑顔を
面はゆく思う自然はつっけんどんな口調になってしまった。
「小此木さ・・オコノギさんは。」
「日本語の発音でいい、俺は気にしない。」
すると彼女は嬉しそうに自然を見る。
「小此木さん、良い人です。
私日本の文化大好きなんです。勿論欧州文化が嫌いってわけじゃないんですよ。
ただ日本人として生まれたから日本古来の伝統を大切に
したいなぁって。けど、他の人はあまり好きじゃないみたいで。」
そう語る仁菜はどこか寂しげであった。
「あ、何か私ばかり話しちゃってすいません。
というか病人さんなのに長い間起こしてしまって。
じゃあ私も部屋に戻りますのでゆっくり眠ってください。」
「あぁ。」
「おやすみなさい。」
それだけ言い仁菜は彼のいる部屋を出た。
眩しい朝日が部屋に差し込み
まだまぶたが重たい仁菜を無理矢理目覚めさせた。
「まだ眠いよぉ・・・。」
枕を抱きかかえゴロゴロとベット上で
縦横無尽に移動しているといつしか端に行き着き
そのまま落下した。
「うぅ・・・朝から痛い思いするなんて。」
強打した左腕を擦ってると自室の扉が開いて
誰かの足が目の前にあるのに気付いた。
そのまま視線を上げるとそれは昨日看病した青年だった。
「あ・・・おはようございます。」
「おはよう、大丈夫か。」
「大丈夫です。お見苦しいところを見せてしまってすいません。」
仁菜は慌てて寝間着を直し寝癖を手で押さえ付けた。
こんな姿を男性に見られるのは恥ずかしいことであった。
ノックぐらいしてくれてもいいのに、と仁菜は思いながら
立ち上がると改めて自然の顔を眺めた。
日本人にはあまり見えないその顔は東洋系や西洋系など
様々な系統の血が交じり合ったような顔立ちであった。
精悍な顔つきの青年はまばゆい朝日を浴びて
それは昔父に見せてもらった写真集の中の
ミケランジェロのダビデ像や運慶の金剛力士像を
想起させる顔であった。
二つの像はどちらも素晴らしい作品だが
似ても似つかない印象であるはずなのに
彼を見ていると不思議と思い出してしまった。
「なんだ。」
「いっいえ、何でもありません。
あっ朝ごはん作る前にひとつやることがあるので
少し待っててくださいますか。」
「それはいいが何をするんだ。」
「朝のお祈りです。」
そういうと仁菜は部屋を抜け
長い廊下の一番奥にある観音扉に手を伸ばした。
扉の先は陽の光で輝くガラスを通り抜けた日光が
床まで届きそこだけが白い空間となり
異次元にいるようだった。
今まで見てきた像や絵画と同じような品が
所狭しと並べられ様々な宗教のものがあるので
多くの神々が同居しているようにもみえる。
「祈りって、仁菜・小鳥遊。
異宗教がごちゃ混ぜではないか。
お前は一体何の神を信仰しているんだ。」
「何って、全ての神様ですよ。
こうしていつも見守ってくださりありがとうございます。
今日もどうぞよろしくお願いします、って祈るんです。
そして何か素敵なことのために。」
仁菜は膝を床につけ両手を組み静かに目を閉じた。
「お前は虚しいとは思わないのか。」
「逆にこっちが聞きたいです。何故虚しいと思うのですか。」
「それは・・・、こうして毎日祈りを捧げても
神が返答するわけでも姿を見せるわけでもない。
目に見えない存在だ。こんなことして
実際何か良い事があったのか。」
「勿論!ありますよ。」
「何を神から与えられた。」
「毎日健康に暮らせること、
いつもと同じ日常が過ごせること・・、それに。」
「それに?」
「こうしてあなたと出逢えたことです。」
「俺と逢えたことが良い事なのか。」
「はい。」
「俺は別に何もしてないぞ。
むしろその反対、お前は傷つけこうして恩を受けた。」
「だって小此木さんは私が信仰しているって言っても馬鹿にしなかった。
私の名前、良い名前って言ってくれたし。良い人だし。
とにかく小此木さんに逢えてすっごく嬉しいんです。」
仁菜は満面の笑みを自然に向けパッと立ち上がる。
急にそんな顔をされたので自然は頬を微かに赤らめ
傍らの聖母像に目を向けた。
「小此木さんの名前も素敵です。
自然って人が生まれる前から
ずっとこの地球に存在してきた天地の万物です。」
そっと近づいて照れているのか顔を隠している自然の顔を下から覗く。
「なら、気に入ったのならそう呼んでくれないか。」
「いいんですか。」
「俺がそうして欲しいんだ。」
ぶっきらぼうに言う自然を微笑ましく見つめ
「なら小此木さんも私のことフルネームじゃなくて
仁菜って呼んでください。」
「分かった。仁菜。」
「はい、自然さん。」
「お前に出逢えて良かった。
今は心からそう思っている。ありがとう。」
「・・・面と向かって言われると照れます。」
仁菜は自然の笑顔を初めて見てそれに負けず劣らずの
にこやかな笑顔をみせた。
「さらば、救世主よ。」
気が付くと仁菜は日の当たる暖かい床で眠っていた。
「ん・・・あれ?どうしてここで寝ちゃってたんだろう。」
しばらくボーッとしていたがやがて起き上がり
朝食を摂るため一人ダイニングへ向かった。
神々の集いは騒然としていたがやがて落ち着き
静寂の空間で一人の青年を取り囲んでいた。
中央には判定者が片膝をつき頭を垂らしたまま静かにその時を待っていた。
するとひときわ存在感のある神が現れ
一番高い位置に座しそのわきに控えていた神が口を開く。
「ご苦労であった。では早速報告を。」
「はい、この世界は神を信ずる者はおろか清き行いをする者が
おりません。酷い扱いばかり受けてまいりました。」
判定者、自然は多くの神がいる中でも臆することなく淡々と述べる。
「それが判定者としての其方の見解か。
ならば決断はなされた、この世は創生し―――」
「お待ちください、まだ話は終わっておりません。」
「なんじゃまだあるのか。」
「確かにこの世界は酷い人間ばかりです。
ただある一人の少女に出逢ったのです。
彼女は純粋に神を信仰し崇めておりました。
私は彼女のいる世界を守りたいと思いました。」
「待て待て!たった一人のためにこの世界を存続させるわけにはいかない。」
「そうだ、そんな戯けの言うことを聞くのか。」
神々が口々に非難する。
するとある神、人を愛している自然の父神が口を開いた。
「よく考えてみよ、皆のもの。
天界の中でも一番人間を嫌っておる愚息がここまで言うのだ。
その少女とやらは相当の信者に違いないだろう。」
父神の意見に他の神々が反論しようと騒ぎはじめた、がそれは
天界の長である神が軽く手を挙げるとたちまち静まった。
「人間嫌いな其方がそのように肩入れするとは
さも良い人間であるのであろうな。」
「はい、良き人間であります。」
自然は天界の長を、その存在感にも負けず真っ直ぐ見据えた。
彼の瞳を見つめその言葉に長は何度も頷きそしてこう言った。
「では、結論を述べる。
この世界はこのまま維持をする、
神を信じる者が一人でもいる限り我らは存在意義を見出せる。
其の物を大切にしようではないか。
もしこの結論に異議がある者は申してみよ。」
その威圧感に誰も異論を唱えることは出来なかった。
「ないようならここに皆が集まっている意味もない。
以上これにて解散。」
そしてこの世界は一人の救世主によって破滅を免れたのであった。
人知れずこの世界を救った彼女もまた
自分が救ったとは知らないまま今日も神を信じ生きるのであった。