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8.他人事

「唯維、何してんの」

 お遣いから帰ってくると、ぼくの部屋には何故か妹が居た。普段はお互いに不可侵を決めているのに、珍しいなんてものじゃない。明らかに怪訝しい。加えて妹の手にはぼくのケータイが握られている。そしてちょっと顔が青い。これはもうどう見ても何かやらかしたって状況でしょう。

「一つ……訊きたい事があるんだけどさ、兄上」

「何かな、妹様」

「この、『佐渡真子』って人……誰?」

 あー……バレた。

 そういう事か。

 理由は判らないけど唯維はぼくの部屋で勝手にケータイを見て、それで佐渡さんの事を知っちゃったらしい。一応、子供の頃はブラコンの気があるんじゃないかってぐらい仲良かった妹が相手だし、剰え思春期が相手だ(ぼくも思春期だけど)。ただ妹相手には兄らしく振舞えるからその点は留意するだけでいいとして。

 問題は、恐らくはぼくにカノジョが居る事を知ってショックを受けてるであろう妹様に、どうやって佐渡さんの事を伝えるかだ。……ぶっちゃけ、別にいいよね? 普通に伝えても。

 兄にカノジョのが出来た事で、ちょっぴり昔を思い出して混乱してるだけだろうし。

「えっと、何て言うか、ぼくのカノジョ」

「何で……」

「いや、何でって。告白されたから、かなぁ」

 改めて理由を訊かれてもぼくにも判らない。多分一目惚れなんだろうけど、告白されて一目惚れって何か怪訝しい。

「付き合う相手が違うよ……」

 唯維は俯いて、ぽつりと言った。

「え?」

「兄上が付き合う相手は、もっとずっと前から近くに居たんだよ……? それなのに、それに気付かないなんて、そんなの酷いよ……」

 震える声で妹は、ぼくのケータイを握り締めて呟く。

 え? ゑ? E?

 ちょっと待って。何を言ってるんだ妹様は。何を言い出してるんだこの妹は。まさか、ブラコンじゃなくて“そう言う感情”だったのか……?

「唯維、ちょっと落ち着いて」

「落ち着いてなんかいられない!!」

 泣きそうな雰囲気の唯維を宥めようとすると、そう声を上げた。

 感情的になっているのか。でもぼくは妹に応える事は出来ない。

 だから、ぼくははっきりと告げるしかない。 

「唯維。唯維がそんな風にぼくを想ってても、無理なものは無理なんだ。だって、ぼくはそう想ってな」

「そんなのどうでもいい! 兄上が付き合うべきなのは、本当に付き合うべき相手は――」

 最後まで言わせてよ。

 唯維は一呼吸置いて、ぼくの顔を見つめると、言った。

「兄上が付き合うべきなのはイオさんだよ!!」

 やべぇショートしそう。

「んー……唯維。もう一度訊いてもいいかな。ぼく、誰と付き合うべきなの?」

 言うと、妹ははっとした様な顔で(同時に随分やっちまった感を醸し出して)、その後に開き直った様に言った。

「イオさんだよ! 二回も言わせんな!!」

 やべぇショートしそう。

 マジでー?

 今までのこれそう言う話だったのー? やばい。ぼく勘違い恥ずかしい。いやそれはそうとして、何だかかなり遠くまで来てしまった様な錯覚があるけれども、当座の事を解決しよう。

 先ず、訊きたい事。

「唯維……お前さ、腐女子な」

「は?」

 凄まれた。また最後まで言えなかった。

「今何つった兄上?」

「……腐女子と、申し上げました妹様」

 思わずビビったぼくは決して悪くないと思う凄まれ方でした。

 唯維は深く溜息を吐くと、ぼくのケータイを机に置いた。そしてこめかみを抑えると、息を吸い込みぼくに向き直り、こう言った。

「腐ってねぇよ! 醗酵してんだよ!! 座れ、ちょっとそこ座れ。は? いいから座れ兄上。よし、きちんと説明するぞ。わたしはそりゃあもう見事に熟成してて、旨味のアミノ酸がたっぷり出てる新人類だっての。【検閲削除】しか出来ない男とは違って有意義なんだよ。NLは目一杯の愛を込めて語れるし、BLは切なさに愛を込めて語れるし、GLは幸福に愛を込めて語れる。ナマモノだってお手のものだ。つまりわたしは博愛主義者だ。ガンディーもわたしの愛の深さに感服するよ? 細胞どころか素粒子レベルで平伏するよ? 下手したら国家転覆狙えるね、間違い無いね。オマケにわたしは美少女だから更に倍ドンだよ? 存在がダブルスコアだよ? 大和撫子でオタク文化に造詣が深い女子中学生なんてそうそう居ない。だからわたしは重要無形文化財に指定されても怪訝しくない様な人間。それに向けてそこ、そこの兄、そこの兄上。お前何つった? 今何て言おうとした? 『腐ってる』? 腐敗してるって言った? しかもこんな美少女に向けて? しかも妹属性持ちに向けて? ここでも更に倍ドンだよ? 解ってる? 存在がダブルスコアな少女、それがわたし。もうミドルネームに入れてもいいぐらいだね。真麻“ダブルスコア”唯維。恥ずかしいからやらないけど。何? 何その不服そうな顔。は? 『ちょっと各方面に謝れ』? いやいやいや、何言ってるの話聞いてなかったの? わたしは存在が違うんだよ? 寧ろ何で神様はわたしの魂を肉体の牢獄に入れたか不思議だよ。知ってる? 『肉体は魂の牢獄である』って? ギリシャ思想でソーマ・セーマって言うんだよ? ほら、教養まであるわたし。凄い。やっぱりわたし凄い。『恥ずかしいからドヤ顔するな』? 兄上、今まで何聞いてたのさ、もう一度言うよ。『わたしは凄い』。証明なんか要らないから。わたし存在がQ.E.D.だから。いい、兄上。わたしが何で怒ってるか解る? 解らないよね、だからそんな顔してるんだよね。わたしは自分の事を勘違いされたのが腹立たしいの。でもわたしは赦してあげるよ。博愛主義者だからね。けどその前に、間違った認識だけは正して貰うからね。それだけはきっちりとやって貰わないとわたしの沽券に関わるからね。あ、沽券、意味解る? 品位って事だからね、わたしの価値って事だからね。オーケー? え? 『兄としてお願いだからこれ以上恥を曝さないでくれ』? 何言っているのさ。まぁいいや。取り敢えず、これだけは言っておくよ。いい? 刻めよ。今からわたしの言う事刻めよ? じゃあ言うからね。わたしは決して腐ってない。人類に有益な腐敗の仕方を何て呼ぶか知ってる? つまりわたしは『醗酵の美少女』だ!!」

「結局、腐ってるんじゃん……」

 別に上手い事言えなんて頼んでないしさ……。

「やかましい! 口答えするな!!」

「あー、はいはい。そうですね」

 どうしよう、ぼくの知らない内に妹がこんなにもイタい仕上がりになってるなんて。

 別のぼくの責任じゃないだろうし、看過してもいいかな、これ。

 取り敢えず、今度からケータイにはロックを掛けるのはこれで確定として。あ、そうだ。明日の数学、出席番号的に指されるのぼくだな。予習しておかないと。妹様には退出願おう。そうだな、ドアにも鍵掛ける様にしておかないとね。

「ちょっと何その反応は。わたしは納得してないからね兄上」

「お前はぼくの何なんだ……妹に許可貰わないとカノジョ作っちゃいけないなんて、どんな関係だよ……頑固な親父か何かか」

「口答えするなって言ったでしょ!」

 もう結構どうでもいい。

 カノジョ作っただけでストレス要因でこんな風になるなんて。今まで上手く隠してた癖に、いっそ一生ぼくにはその感情を隠していてほしかった。妹様の視線に怪しさを感じたらすぐに部屋に非難しよう。

 ちょっと応対が面倒臭くなってきたので、ぼくは喚く唯維を部屋から引き摺りだした。

 こんな風に描写は一文で済ませているけれども、実際にはもっと色々あった。だけど、余りにも仕様も無い遣り取りしか無かったので(主に唯維の発言が)割愛。

 閉め出す直前、唯維は負け惜しみの様にこう言い放った。

「今度その佐渡真子って女を見定めるからね!!」

「そっかー、頑張ってね妹様ー」

 ぱたん。

 あぁ、疲れた。少し寝よう。

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