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10.迷子

色々と残念で色々と可哀想な子、空弦ひより

 そう、これは作戦!

 真麻くんをあの悪逆非道な女から救う為の作戦!!

 仮令、真麻くんと佐渡が相思相愛で、その……あ、あい、愛し合っている(やっぱりかなり恥ずかしい!)としても、不幸の権化の様なあの女と関われば、どうなるかなんて判り切っているのだから、それを見過ごすなんて、この空弦ひよりには出来ないのよ!!

 その為に、先ず第一目標として真麻くんとの対話が必要。だけど、学校で真麻くんに接触するのは、かなりの高確率で佐渡が一緒に居る可能性があるから危険だわ。

 別に怖い訳じゃないから。

 佐渡に怯えてる訳じゃないから、あたし。

 ただ、真麻くんに接触して会話をするには必ず佐渡の妨害が入るから出来ないってだけの理由。ホント、汚い女!! あたしの正義を邪魔する悪だわ悪。正に悪役。でも正義は必ず勝つって決まっているのよ。だからあたしの勝利は揺るがない!

 その勝利をこの手に収める為に、何としても真麻くんとの対話は必要不可欠。

 学校では出来ないなら、そうなると手段は一つ。

 真麻くんの家に直接行くしか無いわね。


 そうしてやってきた休日のお昼。

 あたしは見知らぬ町中で固まっていた。

 知らない道に、知らない風景。人の流れさえも慣れない空気で、ここがどんな場所か全く把握出来ない。それは初めて訪れる土地だから当然として、あたしはケータイに映した地図と睨めっこして固まっていた。

 …………ここ、どこ。

 いえいえいえいえ、道に迷っただけで、目的地を見失っただけよ。大丈夫、別に泣きそうになんてなってないわあたし。

 こんな時は、高校生として、大人の対応をすればいいだけ。そう、つまり人に道を訊けばいいのよ!

 ばっと、あたしは辺りを見渡して、道行く人に声を掛けようとする。

「ぁ……」

 すれ違う人は道の真ん中で立ち止まるあたしを不思議そうに見るだけで足早に歩いていってしまう。何だか皆、表情を変えずにせかせかと歩いている。

 ……いえ、ちょっと待ちなさい空弦ひより。駄目よ駄目よ、皆さん忙しいのにそれを邪魔する様に道を訊いてお手を煩わせるなんて良くないわ。別に人見知りだからって気後れした訳じゃないわ。

 それより、大人の対応というのは、道具を扱えてこそだわ。あたしの手に握られているのは何? そう、携帯電話! 今や誰もが持っているアイテム!! こんなに小さくてもインターネットで色々と調べる事の出来る文明の利器をあたしは持っているのよ、それを使えば一人で道なんて判るに決まっているじゃない!!

 この情報社会に生まれてきて情報機器に慣れ親しんできた若者世代が迷子になる? はっ、笑わせないで! このぐらい、少し調べればすぐに判る事よ。別に強がってなんかないから。

 さて、取り敢えず現在地を確認する為に、地図と周りにある何か目印になるものを見比べないと。

 あっちを見て、こっちを見て。

 そして判断する。

 ……そもそもあたし、地図見ても道が判らなくて途方に暮れてたんだった……

 いいえ! へこたれないわ空弦ひより!! こんな時には取り敢えず移動して、もっと判り易いものがある場所に行けばいいのよ!!

 そう、前進あるのみ、真麻くんの家を見つけるまでは諦めないわ。何故ならあたしは風紀委員だから!!


 「やっと……辿り着いたわ……」

 五時間。五時間掛かったわ。朝に家を出て、駅に着いたのが十時ぐらいで、迷いに迷ってお昼になっちゃったから途中でお昼ご飯食べたりしてから、また歩き出して歩き過ぎて気が付いたら別の街に来てたりして焦って引き返したりしたけど、無事に辿り着いたわ……。

 玄関に掲げられる表札には確かに『真麻』の名前。

 実距離は駅から歩いて二十分だったけど気にしないわ。着けば勝ちよ。

 これからはもっと下調べを丹念にしないと駄目ね。真麻くんに道案内してもらえればこんな事にはならなかったのに、これも全部佐渡のせいよ……あの女があたしと真麻くんの接触を邪魔するから、あたしがこんな苦労をする破目に……!!

 まぁ、いいわ。結果が全てよ。あたしはこうして真麻くんの家に辿り着いた。それが全てあたしの正義を証明している!

 ふふん、と何だか気分が良くなってきて、自信満々に真麻家のインターホンのボタンを押した。

 ぴんぽーん、と音が鳴ると、少しして女の子の声がした。

“はい、どちら様ですか?”

 真麻くんの妹さんかしら? まぁ、それはいいわ。真麻くんを呼んでもらうのが目的なのだから。

「あ、あたし、真麻康孝くんと同じ高校のものなんですけど、真麻くんいらっしゃいますか?」

“…………”

「……あの?」

 がちゃん、とそのまま切られた。

 え。

 何で?! あたし何かした!?

 そうやって動揺していると、ドアが開いた。あぁ、何だ玄関に出てきてくれただけなのね。

 話掛けようとすると、ドアの隙間からチェーンロックを付けて、女の子があたしの事を睨んでいた。中学生ぐらいかしら。まぁ、真麻くんが高二だから、大体そんなものよね。可愛い妹さんだわ。

「あ、真麻くんは」

「お前が兄上を誑かした屑か。失せろ売女(ビッチ)

 バタン。

 閉められた。

 ガチャン。

 鍵も閉められた。


 コンビニに買い物に行って帰ってくると、ぼくの家の前に誰かが居た。

 何かする訳でもなく、立ち尽くしている女の子。唯維の友達かな? どうしたんだろう。そう思って話掛けようとして、横顔で途中で誰だか判った。

「空弦さん? 何してるの?」

 訊くと、彼女は振り向いた。

「えっ、ちょ。何で空弦さん号泣してるのっ? 何があったの? って、あぁ! 何でそんな急に全力疾走で!?」

 あ、こけた。

 ちょっとだけ膝を付いて地面を見つめて震えてるんだけど……あ、立ち直った。また走り出した……えぇー、何しに来たんだろう彼女。

 本当によく判らない人だなぁ……。

 その後、唯維から事情を聞いてから、ぶん殴って後日土下座させに行った。

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