表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第一話

短編の続きを投稿しようとしたら、投稿できなかったので、仕方なく再度投稿しています。

「世間とは、何か。私に説明してみせよ」


 私がそうひとつ尋ねただけで、その人間は口篭った。

 矮小な人間。

 底の浅さは既に知り、後はどんな言い訳で踠くのか、それを観察してみたかった。


「そりゃ、社会のことでしょう! あなたね、こんなことをして世間が許すとでも思っているんですか?!」


 人間は立って声を荒げた。

 話し合いは、怒りで頭を鈍らせた方の負けだ。


「だから、聞いている。具体的に、その世間は、誰のことなのか。上司か? 社長か? それとも」


 私も席を立ち、人間に近づいた。


「お前自身ではないのか?」


「違う!」


「何が違うと言うのだ」


 私が面白そうに聞くと、人間はこれ以上何も言わなかった。


「聞いていなかったのか、私は魔王。言語化の魔王。私を譲歩させるには、言葉を使うしかない。連れて行け。その程度では話にならん、期待外れだ。私は作業に戻る」


 既に捕虜となっていた人間は、私の部下が引き摺っていった。

 その時の言葉は、最早意味を持たず、私の耳には届かなかった。


 私は自分の机に向かって、言葉を綴る。

 私が作っている書籍、それは所謂『辞書』とも呼べる代物だった。


 この世界は、曖昧な認識と空気感で回っている。

 だが、この空気感というものは、定義がまるでなく、目に見えるものですらない。

 このような社会では、私や私の部下のような者達は、どのように生きていいかすら分からない。


 だから、私は筆を執った。

 そのような者達のため、ひいては私のために、世界の言葉を一つずつ定義し始めた。


 慌てたのは、人間達だ。

 自分たちの社会が脅かされると思ったのか、筆を進める私に牙を剥いてきたのだ。

 だが、その頃には私は部下にも恵まれており、返り討ちにするばかりであった。


 私はその頃から『言語化の魔王』と呼ばれるようになった。




 次にやって来たのは、家庭を持つ男だった。


「こんなことはもうやめてくれ!」


 男は俺に陳情に来たようだった。


「何故?」


「もう耐えられない! 俺の居場所をこれ以上奪わないでくれ!」


 男は私にそう切々と訴えた。


「私は、私達の居場所を作るためにこれを書いている。お前に何を言われる筋合いもない。そもそも、私は強制的な法を敷いている訳でも、認識を改めよと強制している訳でもない。ただ、ただ、言葉の定義を一つずつ見直している。それだけだ」


「それをやめてくれ!」


「それはできない。お前はさっきから、私の行為を否定するばかりだ。まずは事情を話せ。次に私にこれをやめてほしい理由を話せ。そうでなければ、分かり合えるものもない」


 私がそう言うと、男は無言で頭を掻きむしった。

 いつも思うが、この世界の人間は空気という曖昧さに慣れてしまって、説明を怠る者が多い。

 言葉にしなければ伝わらないというのが、何故分からないのだ、我々は別個体であるのだから。


「嫁がお前の本を買った」


「ご購入ありがとう。それで?」


「その日から、嫁が反抗的になった。『ちゃんと私の言っている事を聞いて』などと言い、子どもにすらそんな教育をしている。これでは、俺の家族がバラバラになってしまうじゃないか。これは、認識の侵略だ。お前の本は、じわじわと売れ続けていると聞く。お前がやっていることは、社会の破壊行為そのものだ!」


 男は一息にそう言ってのけた。


「だから何だと言う」


「即刻筆を置いて投降しろ!」


「誰に? どこで? 何の罪で私は捕まると言う」


「それはテロ行為だ!」


「答えになっていない」


 私は男に筆先を向けた。

 男は身じろぎをした。


「この筆先の何が怖いと言うのか。私は、私が生きるために文字を綴る。本を売る。その違法性を述べよ」


「違法かどうかじゃなくて、俺達の社会を壊すな!」


「まず、『社会』の定義を述べよ。話はそれからだ」


 男は「話が通じない」と、腰に下げた斧を抜き放った。

 すぐさま、私の部下に取り押さえられた。


「連れて行け。話があればまた連れて来い」


 そうしてまた一人、私の部屋を去った。


「お前のこれは暴力だ! 俺のやっていることと何が違う?!」


「私は力無き論理は感情にも劣ると考えている。お前の指摘は正しいが、私はできる限り公平さを保つと約束しよう。また考えがまとまったら部下に声をかけるがいい」


 私はそう言って、椅子に座り直した。

 あの男の言った『暴力』という言葉はこれ以上なく正しい。

 しかし、言葉一つで首を刎ね、言論弾圧などの圧政を敷く王国よりは何段も上等ではないか。

 失敗も不理解も許し、チャンスを与えているのだから。

短編を二つに割っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ