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異世界は歩くような速さで  作者: 森野 キキ


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第八話 決意 ※挿絵あり

 討伐隊が出発して二日目の夜。後方支援として参加していたコボルト、オルネイが、ふらふらの足取りで村に戻ってきた。


 見張りのコボルトが気付き集会所まで連れてきたのを、村長とアミュラと俺が介抱する。

 背中と肩には大きな爪痕。血で毛並みは真っ赤に固まり、見るだけで胸が締め付けられる。アミュラが必死に止血し、どうにか命は繋ぎ止められた。


 オルネイが語った状況は、良くなかった。

 出発したその日の夕方、森の東の廃遺跡群を抜けた辺りでいきなり魔獣が襲い掛かってきた。以前魔獣を目撃した者によると、その魔獣で間違い無いようだと言う。

 皆応戦したが、奇襲だったため隊は散り散りになり負傷したオルネイは逃げるしかなかった。

 ほかに負傷したのは村の見張りも務めるブルクナーと、ラディの父ちゃんガルード。だが二人の姿はない。


「そうか……オルネイ、お前だけでも戻れたことを喜ぼう。今は休め。明朝、捜索隊を編成する」


 村長が静かに告げた。

 オルネイはドングリクッキーを作るとき、蜂蜜やバターを分けてくれた優しいコボルトだ。


「オルネイ……」


「ケイト、村長……ごめん。みんなの居場所が分からないのに……俺だけ……」


 震える声。耳がしゅんと垂れている。


「何言ってんだよ。戻ってきてくれて良かった。本当に」


 それは本心だ。でも、胸の奥はざわつきっぱなしだった。悪い思考がまとまらない。鳥肌が止まらない。一緒に負傷したガルードも、ブルクナーも戻ってない。

 ……ラディになんて言えばいいんだ。


「ケイト殿も、今日は休まれよ」


 村長の言葉に、俺はただうなずいた。


「……はい。また明日」


 二階の客間へ戻り、扉を閉めた途端、へたり込む。


 ……大丈夫だ。大丈夫。


 森に慣れたコボルト達だし、エルシーは強い。逃げ延びているかもしれない。戦っているのかもしれない。みんな精鋭揃いだ。大丈夫。無理やり良い方に考える。しかし胸のざわつきは強くなるばかりだった。


 俺には魔法がある。スリングも、火炎弾も扱える。ギュッと拳を握りしめ、勢いよく立ち上がる。


 ……俺がみんなを見つける!


 机の装備を次々身につけ、探索用ローブを羽織り、ブーツの紐を強く締め直す。

 頬をパンッと叩いて気合を入れる。

 部屋用の灯りである、光る鉱石を木の皮で編んだ籠に入れてぶら下げられていた鉱石ランプを手に取る。


「絶対に探し出す。全員連れて帰る」


 言葉にすると、不思議と胸のざわめきが静まった。窓を開けると、夜風が冷たく肌を刺す。それでも迷わず、地面へ飛び降りた。


 暗い森へと駆ける。



***



 夜の森は、昼とはまるで別物だった。冷たい風、深い闇。それでも今日は満月みたいで、月が照らしているところは意外と明るかった。

 作戦会議で道筋は把握していたし、紙にも地図を写してあるが、初めて経験する夜の森は怖い。

 胸がきゅっと縮まる。だが、村長の屋敷でオルネイの報告を聞いた時の、あの激しいざわつきと比べればまだましだった。立ち止まる方が、ずっと怖い。


 討伐隊が探してようやく遭遇した魔獣。俺がたどり着ける保証なんてない。それでも、絶対に皆を見つけてみせる。

 それに俺にはまだ切っていないカードが一つ残っている。

 転生ボーナス。三つ中、最後の一枠だ。


「転生ボーナス!」


 言葉を発した瞬間、白い光が目前に展開する。


【転生ボーナス。下記より3つお選びください。】

  ・ウォータードロップ ・ウィスプウィンド

  ・リトルスパーク ・ポイズンチェッカー

  ・ハイジャンプ  ・宝箱サーチ



【 → ハイジャンプ 】


 決めたハイジャンプだ。どれほど跳べるか分からない。

けれど森の上空まで出られるなら、何か見つかるはずだ。問題は着地だが、最近わかったことがある。どうやら転生後の俺は身体能力が前世の常識外れに高い。木に登るのも飛び降りるのも、なぜか平気だった。


 なら、やるしかない。


 深く膝を曲げ、両手をぐっと握りしめる。


「ハイジャンプ!」


 強く地面を蹴り、体をバネの様に伸ばすと、体が突き上げられる。一瞬で森の木々のさらに上まで来た。空気が薄く、風が顔を叩いた。


 てか、高すぎるッ!!


 ゴォォォォという風切り音、寒気、浮遊感。恐怖で胃が縮む。

 だが、頂点に達した瞬間、体がふわりと宙を漂った。


 ちょっと空に留まれる?


 その時、森の東側で、白い光が一瞬だけ瞬いた。


挿絵(By みてみん)


 ……見えた。


 約五秒の浮遊のあと、体は急速に落下を始める。枝を何度か蹴って減速し、無事地面に着地。


 よし!!ハイジャンプ、使える!!


 しかも進行方向へ跳べば、徒歩より遥かに距離を稼げる。迷いは消えた。


 次の一歩は上じゃない。光のあった、東だ。


「行くぞ……!」


 俺は東の暗闇へ向かい、斜めに跳躍した。何度か跳躍を繰り返すと、少し開けた場所に辿り着いた。壊れた遺跡のような石柱や壁が、そこかしこに転がっている。


 光っていたのは、このあたりだろうか。


「おーい、誰かいるかー?」


 控えめに声をかけるが、返事はない。ここじゃない?


 ガラッ!


 石の崩れる音に反応して、俺はスリングショットを構えた。遺跡の影から姿を現したのは……


 えっ!?


 白くて大きなドラゴンだった!

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