第七話 作戦会議 ※挿絵あり
「わぁッ!!!」
「わぁ!!?」
叫びながら飛び起きた俺に、ラディが同じくらい驚いて叫び返した。心臓がドクドクとうるさい。
ラディはまだ寝ぼけていて、ぽかんとしてる。悪いけど、そのままギュッと抱きしめさせてもらった。
……何だ、今の夢。
はっきり覚えている。あれは、転生する前の世界?
真っ白なあの空間、あの聞き覚えのある声。
「ケイト、大丈夫?」
ラディが抱きしめ返してくれる。その頭を遠慮なく引き寄せ、頭頂部に顔を埋める。はぁいい匂い……。
まだ心臓は速いけど、落ち着いてきた。
「ありがとうラディ。もう少しこうしてて」
「うん」
答えてくれるラディ。可愛い、ほんとありがたい。
『――いきなり――だから、気を付けてね』
夢の中の声が頭に残っている。警告? 過去の記憶?
分からないけど、意味がある気がする。忘れないようにしよう。
ガチャッ!勢いよく扉が開いた。
「どうしました!?」
メイド服のアミュラが飛び込んできた。
「アミュラ……」
俺の声があまりに情けなかったのか、アミュラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しい顔付きになり強く後ろから抱きしめてくれた。
……みんな優しすぎる。
しばらくそのまま甘えさせてもらってから、二人に礼を言い、アミュラが持ってきてくれたタオルで汗を拭いて着替える。「本当に大丈夫?」と心配されながらも、「怖い夢を見たみたい。でももう大丈夫」と返し、洗面所へ向かった。
冷たい水で顔を洗う。まだ若干モヤモヤするけど……気にしすぎても仕方ない。
「ケイトさん」
ダイニングテーブルにつくと、アミュラがお茶を置いてくれた。
「ありがとう!」
明るく言ったつもりが、めちゃくちゃわざとらしくなった。やば。
「ふぁ〜……おはよう……」
ぐちゃぐちゃの寝癖のまま、エルシーが登場。
昨夜とのギャップがすごい。
「……プッ」
アミュラが吹き出した。俺も思わず笑ってしまう。
「ん〜?」
「いや、エルシー頭すげー爆発してる。先に洗面所行ったほうがいい」
笑いをこらえながら指摘すると「うん〜……」と寝ぼけたままズルズル移動していく。途中で「わ!」とラディの驚き声が聞こえた。
「私手伝ってきます」
アミュラがパタパタと後を追う。ええ子やぁ……。
入れ替わりでラディが顔を出し、「朝ごはんはおうちで食べるね」と手を振って帰っていく。
***
朝食を食べ終える頃、村長の屋敷にリューベルド先生と、武装したコボルト三人が入ってきた。村の精鋭たちらしい。
ダイチ――茶色の毛並みでガッチリ体型。
アステラ――薄茶で長毛。スラッとした雰囲気。
ロッシュ――黄土色に黒いぶち、少しボサボサした毛並み。
軽い紹介が終わると、本題。東の森の魔獣退治についてだ。エルシーの友達、ルーヴェンを見つけ保護するのが第一の目的だが、魔獣も退治出来たら退治するという話になった。
村長がルートを説明し、リューベルド先生やダイチが森での動きを補足していく。俺は相槌が精一杯だけど、エルシーは積極的に質問し、意見も述べていた。
「俺が前にあの魔獣に遭ったのが、この辺りだ」
「その辺りは探したが見つからなかったな」
「あの手の魔獣は巣に獲物を持ち帰ることがあります」
「ああ、雄鹿の引きずり跡はこっちへ続いていた……」
俺は完全に聞き役……というか、ただのお客さん状態だ。
ダイチが神妙な顔で口を開く。
「一ヶ月前にあの魔獣を見た狩人は俺以外に四人いたが、みな二度と匂いも嗅ぎたくないと言っている。臆病者と言われるかもしれないが……俺もエルシエラ殿の友人が攫われていなければ近付きたくはなかった」
エルシーが深く頭を下げる。
「ご協力、ありがとうございます。コラコルン村のみなさんに感謝を」
そして、こちらを振り返り、まっすぐ俺を見る。
「それで……とても言いにくいのだけど……ケイトは、村にいてほしい」
――え?
いやいや、そんな申し訳なさそうな顔されても。
「いや、俺も行きたいんだけど」
声がちょっと震えた。昨日、必死にレベル上げしたのに。
「昨日の様子じゃ、まだあの魔獣には敵わない。怪我をするし……最悪のことも考えられる」
いやいや!レベル7になったんだけど!?と言いかけて、飲み込む。
「くっ……」
「エルシエラ殿がそう言うのなら、ワシらも賛成じゃ」
「ケイトさん……我々は、あなたに怪我をしてほしくない」
村長やリューベルド先生もエルシーに加勢する。朝の俺の様子を……アミュラが伝えたのかもしれない。みんな、本気で心配してくれてるんだ。
「そ、そっか……」
顔を上げられないまま、拳をギュッと握る。
……みんなの判断に従おう。
「わかった! 俺はここで待ってるよ」
なんとか笑顔を作って、明るく言った。
***
「ラディ〜〜!!」
魔獣討伐隊を見送ったあと、村外れのドングリの木の下でラディに泣きついた。
「ケイト……ぼくも行きたかったよ」
よしよしと頭を撫でてくれる。癒やされる。
でも、本当に悔しい。せっかくレベルも上げて、スリングショットも火炎弾も扱えるようになったのに。エルシーだって褒めてくれたのに。
「ケイト、ぼくまたドングリクッキー食べたいな」
……ラディに気を使われてる?あ〜良くない。切り替えろ俺!
「よーし!!じゃあまずはドングリ拾いだ!!」
「わーい!!」
ラディが尻尾をパタパタ振る。
「ぼくたちも手伝うー!!」
どこからか、ラディと同じクラスの子どもたちがわらわら集まってきた。
「おう!前より美味しいクッキー作るぞー!」
「おー!!」
わーわー言いながら散っていく子どもたち。
「討伐隊はもう出発したかなぁ」
魔獣討伐部隊の編成はこうだ。指揮はリューベルド先生。前衛は村の見張りも務める狩人の二人のブルクナーとガルード。ダイチ・アステラ・ロッシュの三人が機動攻撃。さらに後方支援がオルネイとガブール。そして遠距離で弓の名手エルシー。
完璧な布陣。俺抜きだけど。
「ぼくの父ちゃんも行くんだよ」
ドングリを拾いながら、ラディがちょっと誇らしげに言った。
「そっか。ラディの父ちゃん強いもんな」
エルシーが襲撃してきたあの日、ラディの父ちゃん、ガルードは負傷者を守りながら真っ向から立ち向かっていた。あの背中は、本当に格好よかった。
「うん! 帰ってきたら、また話きこうね!」
「そうだな」
ラディのクラスの子たちも加わってくれたから、ドングリは前回の倍以上集まった。
多すぎて腕がちぎれそうだったので、荷車を借りて運ぶことにする。
これでまたクッキーを焼ける。今度は前よりもっと美味いやつを作って、討伐から帰ってくるみんなに振る舞おう。
エルシーが笑う顔。村のみんなの喜ぶ顔。それを思い浮かべたら、ワクワクが止まらなかった。
――悪い知らせが入ったのは、次の日の夜だった。
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