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異世界は歩くような速さで  作者: 森野 キキ


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第三話 肉フェス

 次の朝。

 またしても肉フェス状態の朝食をご馳走になり、アミュラと一緒に学校へ向かった。


 歩いている間、アミュラの質問ラッシュが止まらない。


「どうやってここまで来たんですか?」

「どうして私たちの言葉がわかるのですか?」

「ケイトは冒険者?旅をしてたのですか?」


 うん、まぁ…当然の疑問だよな。そもそもコボルト側からすると、人間は王都に住む遠い種族というイメージらしい。

 この村で人間に会ったことがあるのは、村長と数人くらいだとか。


「森の中で目覚める前の記憶が本当に無くてさ。ただ、自分が冒険者で、大きな街のギルドを目指してたってことだけは薄ぼんやり覚えてるんだ」


「へぇ……」


 アミュラがスンスンと鼻を鳴らす。いや、嘘は言ってないよ!?実際、転生前の記憶なんて病院のベッドとシロのことくらいなんだから。



***



「ここが学校ですよ」


 見えてきたのは、大きなログハウス風の建物。ラディくらいの体格の子コボルトや、アミュラと同年代っぽいコボルトが、わらわらと中へ入っていく。

 扉の前には、背が高くて落ち着いた雰囲気で白と黒の毛並みの、ちょっとボーダーコリーっぽい感じのコボルトが立っていた。


「リューベルド先生、おはようございます」


「おはよう、アミュラ」


 リューベルド先生は、俺を見るとニッコリ笑って挨拶してきた。


「はじめまして。私はこの学校で教師をしているリューベルドと申します」


「ケイトです。昨日はお騒がせしてすみません」


「村長から聞いていますよ。資料室をご覧になりたいとか」


「はい。この辺りの地理や情報を知りたくて」


「ではご案内しましょう」


 アミュラが「またあとで」と手を振り、自分の教室へ走っていった。

 資料室へ向かう途中、ラディの姿も見つけた。クラスメイトと一緒に座っていて、手を振ると尻尾をパタパタ振りながら振り返してくれる。かわいい。まわりの子コボルトたちは「あれが人間か!」みたいな顔で固まっていたけど。

 ふと、気になっていたことをリューベルド先生に聞いてみた。

「この村の人たちって、人間を初めて見る人が多いのに……どうして俺を招き入れて親切にしてくれるんでしょう?」


 リューベルド先生はハハハと笑う。


「そんな流暢にコボルト語を話せるからですよ。過去の記憶が無いのは気の毒ですが、それほど自然に喋れるなら過去にコボルトと深く関わっていたと誰もが思います。それに……我々は鼻が利く」


 リューベルド先生がクンクンと鼻を鳴らす。


「悪意や敵意の匂いはすぐにわかります。あなたからはそれが一切しない。それどころか、コボルトを見ると嬉しくて仕方ないという風な匂いがするんですよ。我々は仲間意識が高いから、好意を向けてくれる相手を無下にはできません」


 うわ、なんか恥ずかしい。いや、確かに俺はコボルトめっちゃ好きだけど!


「ここが資料室です」


 部屋は二十畳ほど、小さめの本棚がいくつか置いてあり、ソファーとテーブルがある。本は……十冊くらい。案外少ない。

 だが、部屋に入ってすぐ気づいた。壁の模様だと思っていたものが、なんとこの大陸の地図だったのだ。


「この村って、この地図のどのあたりですか?」


 リューベルド先生に村の位置を聞くと、地図の中央から左下の半島のようになっている部分を指差す。ここがグリーネル自治領。王都は中央より右にあるらしい。

 そしてなんと王都までは馬車なら30日だと言う。


 いやいやいや、遠すぎるだろ!!


 俺の落胆を嗅ぎ取ったのか、リューベルド先生が明るく言った。


「ここから南にある、港町ベルト=フェルンへ行って船に乗る方法の方は早いです」


 それでも船で15日らしい。……うん、遠い。遠いけど、まぁ選択肢はある。気を取り直して本棚を漁ってみる。

 

「私が翻訳しますよ」


 リューベルド先生が言ってくれたが、手に取り、タイトルを見た瞬間スラスラ読めてしまった。


「『コボルトスポーツ栄養学入門』」


「よ、読めるのですか!?」


「どうやら読めるみたいです」


 リューベルド先生、ドン引きレベルで驚く。どうやらコボルト族は識字率が低く、読める者自体が少ないらしい。


「もしや……ケイトさんは言語学者だったのかもしれませんね!」


「かもしれません!」


 うん、なんか誇らしい。もふもふトーク、すごい。ありがとう。


 ただ本の種類は――


『おいしい肉料理のレシピ』

『鶏の育て方』

『子コボルトの食事』

『コボルト語辞典』


 残念。実用書ばかりで、歴史書や世界地図は無い。それでも何か得られる情報はあるかもしれないと思い、『コボルト族図説』をソファーに座りめくってみた。

 リューベルド先生は隣で『コボルトヘアカタログ』を読んでる。次貸してもらおう。



***



 突然鐘の音が鳴り響いた。どうやら正午を知らせる鐘で、みんな昼食を取りに食堂に向かうようだ。俺たちも読書の手を止めて食堂に行くことにした。

 存分に本を読んで、新しくこの世界の知識が増えてホクホクだ。(山岳部と草原に住んでいるコボルトの違いや、コボルトの毛の手入れとかの知識が手に入った)

 廊下は生徒たちでザワザワ。「人間だ!」「本物?」「ひげない!」とキャッキャされ、なんかアイドルになった気分。


 食堂に入ると――肉の香ばしい匂い!!また肉フェス!!!いや、美味しいんだけど!美味しいんだけどさすがに三食続けて肉オンリーはちょっと……


「あの、リューベルド先生……米とかパンって、あります?」


「あぁ……ありませんね。この村では穀物は育ててはいません」


 ガーン。うん、知ってた……全然炭水化物が出てこない時点で何となく察してた……!!けど、言葉で言われるとツラい……!


「小麦粉は!?」


「ありません」


「米は!?」


「無いです」


 崩れ落ちる俺。


 そんな俺を横目に、リューベルド先生が肉定食を2人分持ってきてくれて、テーブルに置く。猪か鹿の香草焼きだ。パンに挟んで食うとうまそうである。


「あ、ケイトだ!」


 ラディが肉定食を持ってこちらのテーブルに座る。元気の無い俺を見て慰めるように声をかけてくる。


「声大きいから聞こえてたよ。パンや米?ってそんなに美味しいの?」


「あぁ、うまい。つか、そもそもパンとか米は主食なんだよ……マジで毎日毎食食べる。肉は無い日もあるけど」


「えぇ!? 肉が無い日があるの!? 人間って変だねぇ」


「私たちは乳離れしたらすぐ肉ですからねぇ」


 いや、なんて文化差だ……。


「そうそう。あ、あとは果物とか、木の実とか……」


「木の実!!?」


 木の実と聞いた瞬間、頭の中であるレシピがビビビッと浮かんできた。


「ラディ!!この村にどんぐりはあるかッ!?」

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