第十四話 調査団 ※挿絵あり
「ケイトさんー!」
翌朝、部屋の扉を破壊する勢いで、アミュラが飛び込んできた。
「に、人間が……!!」
胸騒ぎを覚えながら、村の唯一の出入口である門へ向かう。すでに、そこには多くのコボルトたちが集まっていた。
リューベルド先生を見つけ、駆け寄る。
「あぁ、ケイトさん!」
話を聞くと、門の外に人間の集団が現れ、何やらこちらに呼びかけているらしい。
さらに門へ近づくと、確かに声が届いた。
「こちらは王の勅命で来た調査団である!! 門を開けよ!!」
王の勅命? 調査団?
『ケイト、用心しろ』
『あ、あぁ』
門のすぐ前には村長もいて、俺の到着を待っていたようだ。
「ケイト殿。あちらが侵略や略奪目的でなく、話が通じるのであれば……できる限り穏便に対応したいと考えております」
「わかりました」
俺は物見櫓に登り、壁の外へ姿を現した。
その瞬間、外の人間たちからどよめきが起こる。
「に、人間?」
「誰だ、あれは……?」
見たところ、人数は二十人ほど。後方には屋根付きの荷車がある。
全員が同じ紋章入りのマントと、磨き上げられた鎧を身につけている。腰には剣。
その先頭に立つ、羽根飾りの兜を被った男が兜を外した。二十代くらいの赤髪の青年だ。
「私はアウグレイス=フォン=ヴァルハイン! 貴殿は何者だ!」
「俺はナラキ・ケイト! この村の客人だ!」
「ケイト殿! 中へ入れていただき、我々の話を聞いてほしい!」
「ケイト殿」
ブルクナーが、村長の言付けを伝えてきた。
――敵意がないなら武装を解き、代表者数名だけを村に迎え入れて話をする。
それをそのまま伝えると、アウグレイスは一瞬考え、やがて頷いた。
「わかった!」
彼は部下たちに指示し、荷車のある位置まで下がらせる。村の精鋭たちは武器を手にしたまま、門から距離を取る。
「あ、開けるぞ」
それを確認してから、ガブールが慎重に木の門を開いた。
代表者三名が、ゆっくりと村へ足を踏み入れる。
「ようこそ。ここはコラコルン村。わしが村長のワフデュスじゃ」
「村長、突然の訪問を失礼。私はヴァルハイン辺境伯の子、アウグレイス=フォン=ヴァルハイン。この調査団の代表をしている」
「わ、私はエルディオ=アルセルン。調査の記録を担当しています」
アウグレイスの隣に立つ男も名乗った。十代後半くらいだろうか。暗い青髪で、鎧は着けておらず、革のつなぎとマント姿。手には木製のバインダーを抱えている。
周囲を落ち着きなく見回している様子からも、緊張しているのが伝わってきた。
無理もない。敵対しているはずのコボルト族の村に入り、囲まれているのだから。
「それと、こちらはリスティアナ=グラントー。私の従者だ」
アウグレイスが、斜め後ろに控えていた女性を紹介する。
十代後半くらいで、藁色の髪を一つに束ね、黒を基調とした服装にマントを羽織っている。こちらも鎧はない。
村長は三人を集会所へと案内した。
その途中で気づく。精鋭以外の村のコボルトたちは、すべて家の中に身を潜めている。
――俺の時とは、明らかに違う。
嗅覚が彼らより劣る俺でさえ、何か嫌な匂いがした。
***
集会所には、村側の代表として村長、リューベルド先生、それに通訳役の俺とルーヴェン。
調査団とテーブルを挟んで向かい合う。
席に着く前、ルーヴェンが『通訳以上のことはするな』と俺に釘を刺した。
「……ここにコボルトの村があることは、港町ベルト=フェルンでドワーフから聞いていたが……正直、驚いた」
「我々は、ほとんど外界と接触しませんので」
「率直に聞こう。この村は魔族の配下か?」
一気に空気が張り詰める。
「いいえ。我らはどちらにも属しておりません。長年、中立の立場を貫いております」
その言葉に、ホッとした。良かった。
「そうか。それならば、我らに協力していただけないかな?」
「協力、ですか?」
「そうだ。我らは、この森にある聖遺宝を封じる遺跡を調査しに来た」
――聖遺宝!
『おい、態度に出すな』
『でも……! なんでこの人たちが!?』
『知らん。話を続けろ』
「聖遺宝、ですか……」
村長は顎髭に手をやり、しばし考え込む。
「コボルト族でも知っているだろう? 王国の至宝だ。その一つ、ヴェルダ・アルカ・エーテル・コレキュアが、この森の遺跡に封じられている」
「我々は、ここに偶然住み着いたコボルト族です。王国の宝については存じません」
その返答に、アウグレイスは短く笑った。
「まさか……隠すつもりか?」
鋭い視線が村長に向けられる。だが、村長は静かに首を振った。
「知らぬものは、知らぬ」
アウグレイスはフゥ、と息を吐く。
「ならば、この森に遺跡はあるだろうか?」
「東の森に、廃遺跡があります」
「そこまで案内してもらえるか?」
「もちろん。我らにできることなら、力を貸しましょう」
話し合いはひとまず終わり、我々の準備のため、調査団の代表三名には村の外で待機してもらうことになった。
「村長! 本当に、あの者たちに協力するのですか!?」
リューベルド先生や村人たちが詰め寄る。
「……皆は、王都の人間の恐ろしさを知らん……。逆らえば、どうなるか……」
村長の言葉に、誰も反論できなかった。
コボルト族は匂いで感情を読む。調査団の危険な匂い、そして村長の恐れをすべて察したのだろう。
――だが、俺は腹が立っていた。
「村長がそう言うなら仕方ないけど……なんだよ、あの上から目線。王都の人間って、みんなああなのか?」
「いや。さすがに全員ではない。だが、貴族とはああいうものだ」
「あ、あれが貴族ってやつなのか」
この世界に来て、初めて会話した人間に、俺は心底ガッカリしてしまったが、貴族と聞いて妙に納得した。
まぁ貴族ならあの態度は仕方無いか。
「村長。本当に、聖遺宝のことは知らぬのか?」
ルーヴェンが、自分とエルシエラも聖遺宝を探していたことを話す。
村長は、ふむ、と唸ってから口を開いた。
「……先の大戦で戦った英雄の遺した遺物なら、心当たりがある」
「えッ!?」
周囲が一斉に息を呑む。
「代々の村長だけに伝えられてきた遺物だ。王国の至宝かは知らぬが、沃森杖と呼ばれておる」
村長は続けた。
「争いで不毛となったこの地を憐れんだ英雄の一人が、この大地が肥沃になり、緑が生まれ生命が息づく豊かな森になるようにと置いてくださったものじゃ」
「そ、それ……じゃないですか?」
ルーヴェンも頷き、村長に尋ねる。
「して、その遺物はどこに?」
「この村にある」
――え?
「えッ!?」
その場にいた全員が、声を上げた。




