第十三話 目的
「……それで、お主はどうするつもりなのだ?」
酒盛りが始まり、食堂がすっかりドンチャン騒ぎになった頃。
その場を抜け出し、アミュラが用意してくれた風呂へ向かう廊下で、狼の姿に戻ったルーヴェンが声をかけてきた。
「風呂に入るつもりだけど」
「ばか。今後の身の振り方を聞いておるのだ」
身の振り方、か……。
正直、色んなことが一気に起きすぎて、まだ分からないことだらけだ。
それでも、王都に行くという気持ちだけは変わっていない。
ただ、人間と魔族の戦いに、俺が関わる必要があるのかと言われると、正直そうは思えなかった。
「今、王都の冒険者の仕事の半分は魔族絡みの案件だぞ」
「……そうなんだ」
「お主はコボルト族と戦うことを危惧しておるようだが、王都周辺にコボルト族はおらん」
「そうなの!?」
もう完全に仲間認定しているコボルト族を、俺が傷つけるなんて絶対に嫌だ。
「冒険者ギルドの依頼で、コボルトと戦うことは?」
「ほぼ無い。コボルト族は魔族側ではあるが、ほとんどはこの村のように外界と交流せずに暮らしている」
良かった……!
コボルトと戦わなくていいと分かった瞬間、頬が自然と緩んだ。
「お主、顔に出過ぎだ」
「え、そ、そう?」
「どれだけコボルトが好きなのだ……」
「アハハ。犬も狼も好きだぞ」
「ほほう……」
次の瞬間、ルーヴェンの体が白く光り、犬耳の少女の姿へと変わる。
髪をかき上げ、片手を腰に当てて、妙に艶っぽい仕草を取った。
「これはどうだ?」
「……」
「何か言えよ!!」
真顔のままの俺に、ルーヴェンがツッコんだ。
「ケイトーー!!!」
「ラディ!!」
廊下の先から、ラディが全力で走ってきて、そのまま俺に飛びついてくる。久しぶりのもふもふだ。嬉しい。
「ケイト、ほんとうに良かった! エルシーはどんぐりになっちゃったって……?」
ラディは耳を伏せ、不安そうに尋ねてくる。
「そうだよ」と答えながら、腰の鞄からどんぐりを取り出した。
「あれ……?」
さっきまでピカピカで丸々していたどんぐりが、少し乾いて、カサついていた。
おかしい。もっと艶があったはずなのに。
「お主、水はやったのか?」
「――あっ」
――毎日、水だけ。
エルシーの言葉が脳裏に蘇る。
慌てて風呂場へ駆け込み、木桶に水を汲んでどんぐりを沈めた。
すると、どんぐりの周囲が淡い黄緑色に光り、みるみるうちに元のピカピカした姿へ戻っていく。
「はぁ……良かった」
「しっかりせよ」
「うす……」
そのまま、せっかくだからラディも一緒に風呂へ入れることにした。
「汚れてないから〜」と抵抗していたが、頭からお湯をかけると観念したように大人しくなる。
ルーヴェンは「湯浴みは好きだ」と言って、そのまま湯船に入ろうとしたので、慌てて止めて体を洗わせた。
「前はどうしてたんだよ……」
「む。エルフの時は、きちんと洗っておったぞ」
姿が変わると、自意識も引っ張られるのか?
そういえば、ドラゴンの時より口調も随分と砕けてきている気がする。
***
「お主に、一つ頼みたいことがある」
ラディが眠りについた頃、ルーヴェンが改まった口調で切り出した。
「我とエルシエラは、この森にあるという六聖遺宝の一つを調査しに来ていた。だが、聖遺宝を納めていた遺跡は破壊され、肝心の聖遺宝も消えていた」
「あの、東の森の壊されてた遺跡か?」
俺とルーヴェンが初めて出会った場所だ。
「そうだ。あそこに納められていた聖遺宝――ヴェルダ・アルカの行方を追いたい」
聖遺宝。
そんなワクワクする単語を聞いて、断るやつがいるだろうか。
それに、エルシーとルーヴェンの旅の目的がそれだったのなら、なおさら協力したい。
「いいよ。その……ヴェルダカルタ? を探そう」
「ヴェルダ・アルカ、な。ありがとう」
難しい。そろそろちゃんとメモしないと覚えきれないぞ。
【聖遺宝 ヴェルダ・アルカ】
「わっ」
目の前に、白い文字が浮かび上がった。
メモ機能まであるの!?
「お主……それ……」
ルーヴェンには、この宙に浮いた文字が見えているらしい。転生してから見えるようになったと言うと、「便利だな」と返された。
うん、めちゃくちゃ便利。
ルーヴェンは一つ咳払いをして、話を戻す。
「六聖遺宝とは、五百年前にあった魔族との大戦において、英雄が用いた六つの神器の総称だ。この地に眠っていると知り、エルシエラは今回の争いで使えないか調査に来た」
「もしかして、王都にある学園からの依頼?」
「いや。学園から直接頼まれたわけではない。エルシエラが独自に研究し、この地にあると導き出したのだ」
「そうなんだ……」
エルシエラは最期に、「学長に会って」と言っていた。これと関係しているのかもしれない。
もし、今起こってる魔族と人間の争いが収まれば、あんな魔獣がこの村に現れることも……あ
「あの遺跡と、魔獣が森に現れたことって、関係してる?」
「おそらくな」
ルーヴェンは静かに頷いた。魔族側も、聖遺宝の存在に気づいたのだろう、ということらしい。
明日の朝、まずは村長やリューベルド先生に聖遺宝や遺跡についての話を聞こう。
そう結論づけて、俺たちは眠りについた。




