第十一話 契約
俺の放った火炎弾は魔獣の心臓付近を大きくえぐり焼いたようだった。
すぐに木から降りてリューベルド先生の元に急ぐ。
「グッジョブです、ケイトさん」
立ち上がったリューベルド先生はボロボロだったが、致命傷は無いように見える。
「やりましたね。みんなが魔獣の体力を奪ってくれたおかげですよ」
みんなやルーヴェンが魔獣の体力を大きく削り、もうHPバーの色も赤くなっている所に俺がトドメを差したってのが正しいだろう。
敵は取ったぞ!エルシー!
魔獣をこの手で倒した実感の次に来たのは、目の前の人が無事である嬉しさ。
「先生、無事で良かった」
リューベルド先生は優しく微笑むと、目線を魔獣に戻した。
「しかし、このような魔獣は初めて見ました……」
焦げた脂と生臭い血の匂いが漂う。先生が「何故ここに――」と近づいた瞬間、魔獣の体から黒い煙がスゥッと立ち上がった。
「ケイトさん!離れましょう!」
危険を察知したリューベルド先生は俺を押してすぐに魔獣から距離を取った。先生は顔をしかめ鼻を押さえる。俺も慌てて真似した。
煙はどんどん増え、魔獣の体がボロボロと崩れたかと思うとそのまま煙になって消えて、血の跡だけが残った。
「ケイト殿!」
ダイチとアステラも駆け込んできた。二人も今の光景を目撃していたようで、興奮気味に「煙のように消えた!」「せっかく狩った獲物が」とか騒いでいた。俺も驚いたが、今はみんなの怪我が気になる。
「それより、みんなの治療をしないと」
コボルトの三人は顔を見合わせてから、これくらいなら舐めてたら治るとか言い出した。そんなわけないが、そんな事を言う余裕はあるようで嬉しくてつい笑ってしまった。
ガルードが待機していた廃遺跡に戻ると、ガルードは俺たちの無事と魔獣討伐にめちゃくちゃ喜びひとりひとりを泣きながらハグした。
「ケイト殿が怪我をしなくて本当に良かった!ラディも喜ぶ!」
ギューと俺を抱きしめながら鼻を鳴らして泣くガルードを抱き返しもふもふを堪能した。
まだ夜は明けていないので野営をしてから村に戻ることになった。ダイチは残してきたガブールとブルクナーとロッシュを迎えに森に入って行き、アステラとリューベルド先生が木や布を使い簡単なテントを立てて火を焚いた。
「どうぞ」
アステラが干し肉で作ったスープを差し出してくれる。中には傷にいい薬草や体を温める薬草が入っているらしく独特の匂いがしたが、疲れた体には染み渡る美味さだった。
少ししてからダイチとガブールが負傷したブルクナーとロッシュを背負い戻ってきた。
二人とも足をやられていて歩くことが難しかったが意識はしっかりしていて、魔獣討伐を喜んだ。
そして、事の顛末を話すとみんながエルシーを思い涙した。
「このどんぐりはエルシーの生まれ変わりみたいな物なのかな」
俺の手にはピカピカどんぐり。他のどんぐりよりも二周りほど大きように感じる。
「そうですね。エルフの文化について詳しくありませんが、状況的にそう言えますね」
交代を決めて仮眠を取ることにしたが、俺は狩りに慣れていないという理由で免除された。ありがたい。
お言葉に甘えて眠る前に、エルシーが消えた場所に何か無いか探索しに行くと、エルシーが付けていた指輪が一つ落ちていた。
金色でシンプルな外見だが中に何か文字が刻まれている。
「ヴァルム……リェン、ドラガ?」
瞬間目の前の光景が変わった。高く青い空、白い石でできた宮殿。
「何!?何!?」
あまりの落差に混乱して尻餅をついてしまう。
下を見ると地面が無く、空と雲が目に入る。地面が無いのに堅い地面があり、触れているし座れている。
ほんと何!?
「ケイトと言ったな」
そこに聞き覚えがある声がした。
「ルーヴェン!!」
前を見ると、あの白いドラゴンがいた。
魔獣との戦いで傷付いていたが、今はそれが無い。良かった。
「エルシーのこと、すまなかった!!」
俺は地に頭をつけて謝った。いくら謝罪しても足りないだろうと思う。
「エルシエラなら、そこに居る」
ルーヴェンは俺の腰の鞄を指差した。
「転生し、形は変わったが魂は同じだ。やがて成長し話せる。謝罪なら本人にするが良い」
そうなんだ!!
「それで、お主は契約するという事か?」
契約?
「何のこと?」
「いや、お前が我を呼んだんだが」
……あ、もしかしてあの指輪に書かれてた言葉?
「竜誓の環も付けているではないか」
そう言われて手を見ると、右手の人差し指にさっきの指輪がはめられている。
「エルシエラとの契約が切れたので、我が現し世に実現するには契約が必要だ」
ドラゴンとの契約!!
俺の鼓動は早くなった。夢にまで見たドラゴンとの契約ができるのだ!
「契約する!」
「いや、待て。契約の条件とか聞いてからにしてくれ」
白いドラゴンは呆れたようにツッコむ。
「と言っても制約はほぼ無い。無理やり魔力を寄越せとか血を寄越せなど言わん。ただ、我と契約すると他のドラゴンとは契約はできん」
うんうん、とドラゴンの話を聞く。なんだかシュールな光景だ。
「あと、我がドラゴンの姿で現し世に実現できるのは満月の光がある場所だけだ」
さっきも消えたもんな……あ
「さっきは、戦ってくれてありがとう」
白いドラゴンは照れたように首を振った。
「あの時はエルシエラとの契約が切れていたから姿を保てなかったのだが、誰かと契約をしたら別の姿で実現することができる」
「別の姿って?」
「それは契約者が決める。エルシエラは同じエルフの姿を望んだので、我は普段はエルフの姿になっていた」
それは見てみたかったな。
「我の名も、エルシエラが付けた」
「なるほど……。じゃあ俺が普段の姿と名前を決めて良いのか」
「契約者が強く望む姿になる」
「メス?オス?」
「性別は無い」
ドラゴンはフッと笑ってから怖い顔をした。
「お主、我と契約するのが恐ろしくないのか。我はあの魔族さえ超越する存在の竜だぞ。取って食われると考えたりしないのか?」
「あぁ、だってエルシーが仲良くねって言ってたし」
白いドラゴンは目を丸くしたあと、アーハッハッハッハッ!と大笑いをした。なんだか恥ずかしい。
「……決めた!契約しよう!」
手を前で合わせて握り祈りのポーズを取って強く念じる。
「あぁ、契約成立だ」
ドラゴンが嬉しそうに言う。空から白い光が降り注ぎそのまま俺とドラゴンの姿を覆い尽くす。
目を開けたら元いた森の廃遺跡だった。
「やったぞ!!これでまた美味い酒と料理にありつける!!」
すぐ横で弾むような声がした。それをチラリと見て、俺は申し訳無い気持ちになった。
「……あの、その姿で酒って大丈夫なのかな?」
「なに?……えッ!!」
俺は白い狼を眺めながら言った。




