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エピローグ 殺し屋聖女に救いはいらない


「――おい、聞いたか。王国のこと」

「聞いたよ聞いた。何でも王族と貴族がみ~んな魔物になっちまったんだろう?」

「なんでえそれは。王国で奇病でも流行ってんのかい」

「そうじゃねえよ。噂ではその昔、王家には魔物の血を引いた人間がいたそうだ。んで、その血を引いていた今の王家と貴族たちが醜い魔物の姿に変化して暴れたらしいぞ」

「へっ、嘘くせえな」


 甲板が波に合わせて大きく揺れても慣れたように体勢を維持する男たちは、掃除道具片手に雑談を続ける。雲ひとつない青空が広がる快晴。風もなくゆったりと進む時間に、男たちは暇を持て余しているようだった。


「でも、話じゃあ王国は滅亡したらしいんだよ。そんで何とか生き延びた平民たちは帝国領に逃げ込んだらしい」

「はああ~それが本当なら、海の上にいて良かったなあ。元々王国には商船が立ち寄る機会なんてねえけど」

「そんで、まだ面白い話があってな――――なんと王国の聖女様が魔物の大群のほとんどを倒して姿を消しちまったって言うんだよ」


 ――――男たちが話している場所とは反対側の甲板。舷牆に腰かけて適当に釣竿を垂らしていた黒フードを被る人物が、男たちの会話に肩を揺らす。


「聖女様が? でも聖女も貴族なはずだろ。その人だけ魔物にならなかったって言うのかよ」

「それが不思議な点でな。聖女様は行方がわからないから真実もわからないんだ。んで、不思議なのはもう1つあってな」

「なんでえその不思議って」


 黒フードは、うんともすんとも言わない釣竿を意味もなく揺らした。

 男たちの話は、まだ続くようだ。


「王国に乗り込んだ帝国軍の話じゃ、その場には大量の魔物の首が落ちていたらしい。どいつも一太刀で斬り落とされていて、並みの腕じゃあんな風にはならねえんだとさ」

「でも、聖女様は貴族の御令嬢だろう? そんなこと、出来っこねえだろ」

「だから不思議だって言われてんだよ。聖女様の治癒魔法で命を救われたって言う奴もいるんだとよ。そいつらは命の恩人である聖女様に大層心酔していてな。噂じゃあ聖女様の銅像を作るって話も出てるらしい」

「――――グ、ゲホッゲホ、ゲホ」


 男たちが振り返って、反対側の甲板に視線を遣る。そこには咳き込んだ黒フードの人物がいるだけだ。それを確認した男たちは、視線を戻して話に戻ろうとする。

 しかし、その会話に横入りしてきた人物がいた。


「――――面白そうな話をしていますね。ぜひ、僕も話に混ぜて欲しいのですが」

「ゲホ、ゲホゲホゲホッ」

「…………あんちゃん、確か昨日から雇われた用心棒だったよな?」


 男たちの目の前に現れたのは、緑のマントを纏い口を布で覆う長身の男だった。槍を背負ったその男は、目を細めて男たちを見下ろした。

 

「ええ、そうです。それで、話の続きですが。その聖女の銅像はどこに建つ予定なんですか?」

「ゴホッ、ゴホ!」

「さっきから、なんだあ……?」

「気にしないでください。きっと中々獲物が釣れなくて不機嫌なんですよ」

「ゲホッ!!!!」


 抗議するような咳も、槍の男は流して男に話の続きを促す。


「いやあ、俺が聞いたのはただの噂だからなあ。帝国のどこかに、という話しか聞いてねえんだよなあ」

「ああ、そうなんですね。場所がわかれば壊しに行こうと思ったんですが……わからないならいいんです」

「……あんちゃん、もしかして聖女になんか恨みでもあんのかい?」


 訝しむような、憐れんでいるような視線を浴びた槍男は、それらを叩き返すように平坦な声で言った。


「いいえ? ただ彼女の姿を勝手に形どって想いを寄せる輩を許せないだけです」

「お、おおう。よくわからんが……」

「まあ……ほどほどにな」

「そうだあ、人生何事もほどほどが大事だぞお」

「人生の先輩からの助言、胸に刻んでおきますね」


 そう言って去っていく槍男を、男たちは首を傾げながら見送る。

 そして、槍男は黒フードの側まで近づいてくる。それをちらりと見た黒フードはポツリと言った。


「…………心にもねーことを」

「銅像を壊したいのは、本当だよ?」

「そっちじゃねーよ……」


 呆れたような黒フードの声に重なるように、男たちが話を再開させた。


「そういやあ王国には王家の剣と呼ばれた武家があったような……。令嬢は令嬢でも、そういう家の令嬢なら魔物の首を落とすことは出来るんじゃないか」

「いやいや、その家の令嬢は修道院で死体が見つかったって話だぜ? なんでも魔物に関する実験で死体もそりゃあ酷い状態だったとか。顔もほとんど潰れてたって話だ」

「それも可笑しな話だな。ならなんでその女が件の令嬢だってわかったんだよ?」

「詳しいことはわからんがな、その死体はその家の家紋の入ったアクセサリを持っていたらしいんだよ。だからきっとその令嬢だろうって」

「はああ~まだ若かったろうに、気の毒だなあ」


 男たちの会話を聞いて、黒フードが潜めた声で言った。


「…………本人は、今頃どっかの国で元気に魔物狩りをしてるだろーな」

「うん。別れる時も元気に痴話喧嘩してたしね」

「紅炎隊の奴らにリアもリリスもついて行ったからな。まああいつらなりに元気にやってるだろーよ。……修道院で見つかった死体については」

「うん。まあ、詮索しない方がいいこともあるよ」

「……そーだな」


 舷牆に座る黒フードの背中に、槍を下ろして甲板に立つ男の背中が触れる。黒フードは、自分よりも広い背中に体重を掛けた。


「若いっていやあ、王国の王女様も無残な姿で見つかったらしいなあ」

「ああ……確か直前に婚約話が出てたっていう」

「可哀そうになあ……首を落とされて心臓を一突きだなんて」


 その言葉に、背中から体を離して振り返る。


「詮索は、しねー方がいいのか」

「……うん、そうしてもらえると有難いかな」


 目を逸らす男に鼻を鳴らして、体重をかけ直す。ぐりぐりと頭で肩をえぐるようにじゃれると、クスクスと笑う声が聞こえた。


「婚約と言えば! 王女様の相手だった帝国の皇弟殿下は、王国の混乱に乗じて暗殺されたんだってなあ!」

「ああ、それも聞いたなあ」

「婚約しに行ったのに、婚約者を守れず自分も殺されるなんて……情けない上に運のない男だな」

「………………」

「言われてんぞ」


 ゴツ、と抗議するように頭を頭突かれた黒フードは、鼻で笑った。


「――――おい! じいさんたち! また無駄話をしてんのかよ!? 口を動かすんじゃなくて手を動かせよ、手を!」

「おおう、船長が怒ったぞ」

「まったく、こんな爺どもをこき使いやがって」

「そうだあ、年寄にもっと優しくしろぉ」


 船長と呼ばれた日に焼けた黒い肌を持つ青年は、男たちの言い訳に眉を吊り上げた。


「船員としてここにいる限り、俺はあんたらのことを部下として扱う! これは最初から言ってるだろうが!」

「おうおう、そんなに叫ぶんじゃあない。お客人が驚いてるじゃないか」


 男が指した指に釣られて、青年の視線がこちらを向く。それを無視していた2人だったが、青年が近づいて来たことに目を合わせた。どうやら何も言わないで済ます、は出来ないらしい。


「申し訳ない。随分と騒がしかったでしょう。良かったら部屋に戻って休みますか? 茶と茶菓子ぐらいなら出せますよ。――――キルテさん、シヨウさん」


 名を呼ばれた黒フード――キルテは、槍を持った男――シヨウと目を合わせてから言った。


「いや、こっちは気にしてねーから。そっちも気にするな」

「そうですよ。さっきも話に混ぜてもらいましてね。逆に話を長引かせてしまったかもしれません」

「そうなら、いいんですけど」


 キルテとシヨウの返事に、少し納得がいかない様子で青年は甲板から去っていった。男たちも隙を見ていつの間にか姿を消している。

 今、甲板にいるのはキルテとシヨウの2人のみだ。


「――――ちゃんと殺せて良かったな」

「うん。死神に首を落としてもらえるなんてね」

「まあ、落とした振りだがな」


 あの夜、正確にはシヨウの髪を斬り落として、それと魔物の肉体を捏ね合わせて()()()()を作ったのだ。本人とそっくりとまでは言えないが、顔面を識別不能なまでに潰せば案外どうにかなる。


「今のところ、教会からも帝国からも音沙汰はねーからな。一応上手くいったんだろ」

「……キルテさんさあ、今までも首を偽ったことあるでしょ」

「それを知っていて自分の暗殺依頼を自分で出すお前に、何かを言われる筋合いはねーからな」

「うん、わかってるよ」

 

 フードを取ったキルテは、頭を掻いてから言った。


「……エンジや教会の連中は、追って来ると思うか」

「さあね。ハッキリとは言えないけど……あの男が言った魔人という言葉。彼の言い方を鑑みるに、キルテさんと僕のことを指しているようだった。もしかしたら、隊長くんもお仲間かもね?」

「…………」

「だから、いずれどこかで道がまた重なることはあるんじゃないかな」


 舷牆に身を乗り出して、シヨウがキルテの顔を覗き込む。


「――――もしかして、怖いの? 心配しなくてもキルテさんのことは僕が守るよ。君が嫌がっても、泣いても絶対に離れないで守ってあげる。ね、殺し屋聖女様」


 揶揄うように目を細めて言うシヨウの額を、キルテは叩いた。


「いたっ」

「何度言わせれば気が済むんだよ。この変態野郎」


 ピクリともしない釣竿をそのままに、キルテは舷牆の上で立ち上がった。そして、見上げる金の瞳をジッと見つめた。その瞳に、自分の想いと熱が届くように。


「――――私に救いはいらねーよ。強く、自由に生きるだけだ。……ただ、その姿をずっと見ていて欲しい。一緒に生きて欲しいとは……まあ、思うけど」

「お、照れたね。可愛い」

「照れてねーし、可愛くねーよ」

「いーや、可愛いよ。食べちゃいたいくらい」

「この変態野郎」


 軽口を叩いた2人は、顔を見合わせて同時に噴き出した。

 キルテは、笑うシヨウの胸に向かって飛び降りる。それを簡単に受け止めたシヨウは、キルテの匂いを嗅ぐように擦り寄ってから、互いの額を合わせた。キルテはその状態で、シヨウの金色の瞳を見つめる。


「――――ま、何があっても最後まで諦めずに足掻くだけだ」


 そう言って、キルテはシヨウの唇に口づけを落とした。



 fin.

数多くの作品の中から選んで読んでくださり、ありがとうございます。

この話を読んだ感想や評価など「与えてやんよ」という方がいらっしゃいましたら、頂けると大変ありがたいです。小説を書く上での参考、糧にさせて頂きます。


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