はじまりの図書室
これは一般的にありそうでない、恋愛物語を描いた話です。こんな感じに恋愛が進んだらいいなっていうものを混ぜた話ですのでかなりワクワクドキドキする作品になりますのでぜひ楽しんでいただけたら幸いです。
静かな昼休みの図書室。ページをめくる音と、外からわずかに聞こえる蝉の声だけが響いている。白石遥は、窓際の席で文庫本を読んでいた。夏の光がカーテン越しに差し込んで、ページの上に柔らかい影を落としている。本の世界に没頭していると、不意に気配を感じて顔を上げた。「あ、ごめん。そこ、空いてる?」遥の目の前に立っていたのは、高村颯真クラスの人気者だ。バスケ部のエースで、明るくて誰にでも優しい。けれど、図書室なんて彼には似合わない。そう思って、遥はきょとんと彼を見つめてしまった。「……うん、空いてるよ」遥がそう答えると、颯真は照れくさそうに笑って、彼女の斜め前の席に座った。「ちょっと静かなとこで勉強したくてさ。図書室って、案外いいな」
そんな言葉を口にしながら、彼は教科書を取り出してページをめくった。遥はもう一度視線を本に戻したが、文字がうまく頭に入ってこない。まるで本の世界に現れた異物のように、颯真の存在が気になって仕方なかった。なんで、あの高村くんがここに?それから数分、二人の間に会話はなかった。ただ静かに時間が流れていた。けれど、それは遥にとって特別な時間だった。放課後、帰り際に茉莉が声をかけてきた。「ねぇ遥、今日図書室で高村くんといたでしょ? なんかちょっと意外〜!」「……ただ偶然座っただけだよ」
そう言いながらも、遥の胸はそわそわと波打っていた。彼の笑顔、風のような声、同じ空間で過ごした沈黙。遥はまだ、それが「はじまり」だとは気づいていなかった。