燻る炎
炎蓮さんが居なくなり、豪族の反乱を抑えたのは半同盟関係にあった袁術だった。今はその袁術の庇護下に入り、孫呉は独立した存在ではなく袁術の配下となってしまった。そして今は1人で袁術に呼ばれ謁見していた。
「それで…俺になにか?」
「お主は天の御使いなのじゃろ?なにか珍しいものでも妾に献上するのじゃ!」
「ああーん。お嬢様のその行き当たりばったりの命令。七乃は聞けませんー。でも天の御使いさんなら可能ですよねー?」
「何が欲しいんだ?」
「そうじゃのう…そうじゃハチミツじゃ!天のハチミツを寄越すのじゃ!」
「ハチミツねぇ…すぐ用意しますよ。」
そうしてポケットからスマホを取り出し袁術達に見られないようにハチミツを購入する。
「ほら、ハチミツだ。」
「おぉー。早う。七乃、早う持って来させるのじゃ!」
「はーい。ではいただきますねー。」
「ん。」
全く…完全なる子供だな…しかし、この袁術の対応に既視感があるのは何だろう…あ、そうだ、酒を見せた飲んべえ達と同じ反応だ…。
「それで満足か?」
「ウマーなのじゃ!コレで作ったハチミツ水は今までのとは違うのじゃ!これから定期的に妾にこのハチミツを献上するが良いぞ。」
「お嬢様の命令は絶対ですからねー?」
「はぁ…。んじゃこれで…」
そうして玉座の間から出ていく。あんな安物のハチミツでもこちらのモノより美味いのか。まぁ金も払ってもらってないんだから、投げ売りされてるハチミツでも良いだろ。
そして、帰って俺は少し活気のない城下を歩く。向かうのは自分の店ではなく、酒家だ。店に入ると席に案内される。
「酒。なんでもいいから酒をくれ。」
自分の店では最低限の仕事しかせず、城の自室にも戻らず、酒家で酒を飲む。炎蓮さんが居なくなってから俺は半ば自暴自棄になっていた。
「んく…んく…ぷはぁ…。すまん、ここでタバコを吸っても良いか?」
喫煙可能か聞くとOKを貰う。タバコを取り出し火をつける。酒とタバコをしてる時は気が楽になる。何も言われないのか、と言われたら何も言われてない。それだけ酷い顔をしているのだろう。そりゃそうだ、毎日剃っていたヒゲを伸ばし、自室でも虚無を見ながら酒を飲んでるんだからな…。これでもマシになった方だ。炎蓮さんの部屋で俺なりの別れをしてから俺は3日間部屋から出なかった。出たとしても用を足すだけ。あとはずっと自室で酒を飲んでいた。それだけ炎蓮さんは俺の支えだったのだ。俺を天の御使いとして認め、保護してくれた恩人。そんな人を失ったのだ。ショックを受けない方がおかしい…。しかし、他のみんなも俺と同じ反応だったかと言えばそれぞれ違う。お役目に励む者が多数だ。身近の人が亡くなったのに…と思うかも知れないが、それは俺が平和な日本から来たから。この乱世で生きる者にとってはいつ死んでもおかしくない。みんなその覚悟があったから自分の仕事が出来るのだ。本当なら俺も働かないといけないのだが、みんな俺の顔を見ては心配そうにするので、俺は最低限の仕事をするだけで落ち着いている。しかし、ショックを受けているのはみんな同じだ。俺ばかりがウジウジしてるワケにもいかない。
「ん…ゴク…ご馳走さん。」
代金を払い、酒家を出るとそのまま城に向かって伸ばしていたヒゲを剃る。こんな腑抜けた姿を見せるのはこれで最後だ。腑抜けたままだと炎蓮さんに向ける顔がない。
「よっしゃ!まずは袁術の庇護下から抜け出す為の策だな。」
袁術がこの地の実質的な支配をしているので孫呉独立の為に俺もひと肌脱ごう。袁術の軍に使える武将は張勲くらいしか居ない。なので武力ではコチラの方が圧倒的に上…ならば、俺たちが袁術の要請で軍を動かせる理由が必要なワケで…そのために俺なりの策を立てよう。
玄助はどんな策を考えているのでしょうね




