新人の様子は…
「んー…いい朝だなあ…」
最近の俺のルーティンは早起きして身体を動かし、朝議に参加して店に顔を出し、新しくウチで雇うことにした王異こと誠の様子を見ること…そしてその誠だが…なんと大人気になっていた…そう月詠は声や仕草から王子様気質なところがあり女性人気が高かったのだが…誠はその逆で、可愛らしい仕草とサービスで男性人気をゲットしていた…ウチの店は最初こそ男性人気が高かったのだが、クッキーや調理パン、ジュースを販売するようになってから少々女性人気の高い店で、男性客はデートで来るか、酒やタバコ、コーヒーを好んでる客くらいしか居なかったのだが…誠のスキルを舐めていたのが俺の誤算だった…流石だな誠…と関心すらした。これでいて試用期間なのだから侮れない…あの地味な印象を受けた面接から接客となると人が変わったような雰囲気になるんだから俺だって読めなかった。
「さて、店に行くか…」
今日も店に足を運ぶ。
「あ、三船様、おはようございます。」
「おー月詠、おはよ。誠は?」
「今、朝食を取ってますよ?」
「そうか。んじゃ…っと誠、おはよう。」
「あ…主様…おはようございます…」
「おう。誠、仕事には慣れたか?」
「はい…少し忙しいですが…」
「そうか。メシも食ってるみたいだし、調子は良さそうだな。」
「はい…すこぶる好調です…」
全く好調だとは思えない口調だが…これが彼女の普通だ。仕事モードになると人が変わるが…まあオンとオフがあるのは当然のことだし…コッチが慣れるのが妥当で…月詠はすぐ誠と仲良くなった。なんでも趣味が同じだったらしい。仲間意識が強くなるのは良いことだ。うんうん…
「三船様…なにを1人で納得されているのですか?」
「はっ!身体が動いてたか…」
「くすくす…たまに主様は変です…」
口調は面接の時と変わらないが見た目は仕事モードの可愛らしい服装をしている誠…こうやって見ると麗人と美女だな…月詠はキリっとした感じで誠はふんわり系だ…そりゃ人気にもなるわな…なんかこの2人と居ると俺…凡人感半端なくない?大丈夫かな…
「それじゃ今日も頑張って1日稼ぐぞー!」
「はい!」「はい…」
そうして店を開くとお客さんがぞろぞろと入ってくる…城下に試験運用で店を出した頃を思い出すくらいの人気だ…まさか、誠の加入でこんなに人気が出るとは…こりゃ早く本採用にするべきか…?いや、焦ってはダメだ、こういう時こそ慎重にならないと…
「毎度ありー!おーい月詠か誠のどちらか、会計代わってくれー。俺は品出しするよ。」
「でしたら私がします!」
「月詠、頼んだ。誠は?」
「あっちで給仕をしてもらってます!」
「了解。」
そうして慌ただしく店を営業し…昼休み。
「ふう…疲れた…」
「私もです。」
「私は大丈夫です…」
「「え?」」
いかん思わず月詠と被ってしまった…が、あれだけ忙しかったのに大丈夫だと…?
「えっと…私…変なこと言いましたか…?」
「誠…あれだけ忙しかったのにまだ平気とか…本気?」
「え…?はい…」
「誠さん…それ…本当ですか?」
「はい…普通ですけど…」
「「なんですとー!」」
いかん…また被った…しかし、まさか強がりではなく本気だと…?俺や月詠も慣れてるが、誠は一歩先を行っていたな…
「主様…おタバコはよろしいので…?」
「あ、そうだった、タバコ吸わなきゃ…って義務でも無いんだけど…」
「三船様はおタバコを吸わないと仕事の効率が著しく低下しますからねえ…」
「え?そうなの?俺そんなに仕事出来てない?」
「はい。ずっと見てますが、忙しい時ほど効率が低下してますね。」
「ガーン…俺ってそんなに…あー…だから忙しい時ほど俺にタバコ吸ってこいって月詠は言ってたのか…納得した。」
「ちなみに…今日も作業効率は低下していました…」
「ンな…誠ですら分かるってことは…俺そんなに集中出来て無かった?」
「見た限りだと普通なのですが…その…纏う雰囲気から余裕感が無くなってました…」
「マジか…」
「三船様はお酒もタバコもお好きですからねー。お酒は無理でもタバコくらいは休憩中に吸ってください。私たちは気にしませんから。」
「そう?んじゃ、失礼して…」
いつもなら休憩室から出て外の喫煙所で吸っていたが今日から休憩室で吸うことにしよう…一応灰皿あるし…。そう思いつつタバコを咥える。と、2人からの視線に気付く…
「なに…?そんなに見つめて…」
「いえ。なんでも…」
「はい…なんでもありません…」
「やっぱり、匂い気になる?」
「いえ、そういうワケでは…」
「はい…主様はお気になさらず…」
「そう?すぅ…ふー…」
「じー…」(ああああ!三船様カッコよすぎる!そのおタバコを吸われる姿が1番カッコいいです~…)
「じと…」(主様のそのお姿に惚れてこのお店で働きたい…と思ったのは私だけの秘密にしておかないといけませんね…)
(凄く吸いにくいんだけど…この空間…うう…やっぱり見られてるよなあ…)
「あの…えっと…何か飲むか?」
「あ、はい。私はこぉひぃが良いです。甘いヤツ。」
「私も…月詠さんと同じモノを…」
「了解。カフェオレじゃなくていいのか?」
「はい。」「はい…」
そうして休憩室の冷蔵庫から缶コーヒーを3本取り出す。普通のミルク、砂糖入りが2本に微糖が1本。微糖は俺のだ。
「ほい。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます…」
そうして、カシュっと3人で缶コーヒーを開ける
「うん…やっぱりタバコにはコーヒーだよなあ…」
2本目に火をつけながら言うと
「おタバコにはお酒なのでは?」
「まあ…色々合うんだよねー…お酒と一緒でも、コーヒーと一緒でも。」
「そうなんですねー」
「ふむふむ…」
「タバコは気晴らしや、一息吐くためのモノだけど…コイツに依存すると、俺みたいに集中力の低下やイライラしたりするな…だから気をつけないとあっという間に依存するんだ。」
「へえ…そうなんですねーってそれは毒なのでは?」
「何事も適量が良いんだよ。お酒もそうでしょ?」
「そうですけど…まさか…それでお体を壊したり…」
「まあ…病気の確率は上がるね。」
「毒じゃないですか!」
「適量なら大丈夫だって言ったでしょ?まぁ…俺は手遅れだけど…」
「まさか…主様はもうお体を…?」
「いや、俺は健康だから。肺は真っ黒だろうけど…」
「そんなの健康とは言いません!」
「そうです…もしも主様に何かあったら…」
ううむ…心配をかけてしまった…話しを逸らそう
「大丈夫だって。おっとそろそろ休憩は終わりだな。行くぞ。」
「ちょ…話しはまだ終わってませんよー!」
「ふはは。俺はもう手遅れだ!」
高笑いを上げながら休憩室を出て店を開く準備をする。そうしてお昼の部が始まるのであった。




