初めて書いた小説がエタり寸前までいき、最終的に打ち切りエンドになった話。
0.この作品について
わたくし、藍谷狭鞠亭が、金のかからない趣味を探していた時に出会った『小説家になろう』で勢いに任せて小説を書き始め、最初は物語を作る楽しみを感じていたが、書き進めるうちにだんだんと苦しみが勝っていき、ついには執筆途中で逃走するも、数年の時を経て舞い戻り自らの作品の介錯をするに至るまでの話でございます。
1.書き終えて
まずは書き終えての率直な感想。
お話の創作とか、小説の作法とか、そんなこと以前に……
文章を書くのって難しいんですね!!
書き終えての感想というか、書いてる間ずっと思ってたことですが。
忘れてたよ……俺、馬鹿だったんだ。
読み書きの訓練なんて殆どしてこなかったので、本当に言葉を知らないんですわ。
なんとなく思いついたストーリーを文章にしようとすると、
① 思い浮かんだ情景を表現するための言葉が分からない
→ 調べる
② 調べて出てきた言葉を使った文章が作れない
→ 調べる
③ 調べて出てきた文章に使われている言葉が分からない
→ 調べる
④ 調べて出てきた意味と表現したかったものに乖離が生じる
→ 振り出しに戻る
無限ループって怖くね?(古のネットミーム)
俺は書きたいんだ!
小説を書き進めたいんだ!
調べものを趣味にした覚えは無ぇ!
……って、半ベソかきながらパソコンと睨めっこして夜を明かした日々、辛かった。
クリエイターが資料を山ほど持っていた事を思い出し、ついうっかり自分も近しい人種になれた気がしてしまったことは墓場まで持っていこうかな……おおっと!(ボロン)
私は言葉を知らな過ぎたので入り口から調べもの地獄でしたが、歩み進んだ先もずっと調べものの無間地獄でした。
突然ですが拙作の主人公はスマホです。
……もしかして今、「主人公がスマホだなんて、珍しい設定だ」と思いました?
いやいや、『小説家になろう』は数多の作家が集う場所ですよ?
スマホが主人公の小説も、それなりにあるんじゃないでしょうか。
私が小説を書き始めたのが2019年だったのですが、その時点で既に複数ありました。
なので、今は当時よりもかなり増えてるんじゃないかと思ってます。
そんなわけで、主人公を漠然と『スマホ』としてしまってはネタ被りもいいとこなので、既存の作品との差別化を図る必要がありました。
そこで考えたのが、機種名の創作です。
機種名を決める際は、当然実在するスマホを参考にしました。
結果、随分と安直な機種名になってしまいましたが、偶然が重なり、その機種名が作品の方向性を決める事になります。
スマホの正式名称が呼び難かったので、呼び易さを考慮したニックネームを作る必要性が生まれました。
ニックネームはすぐに決まりました。
なぜなら、偶然思いついたそれは、創作の世界との親和性が高過ぎる有名人と丸被りだったからです。
正直に言うと、当時は「俺、天才?」って思いましたね。
よくよく考えたらオリジナリティーなんて全く発揮していないので凡庸も凡庸なのですが。
そんなわけで、その有名人に関するものを物語に盛り込んでいこうという事になりました。
そこからは調べもの地獄です。
その有名人についての資料を漁りに漁りました。
既知のものなんてほんの一握りで、新しい発見が沢山あり楽しかった思い出があります。
そして主人公がスマホなので、当然スマホについても調べます。
自分の使っているスマホの説明書を引っ張り出してきたり、動画サイトでレビューを見てみたり、色々見たり聞いたりしました。
思えば、ずっと調べものをしていました。
物語を書き終わる直前……何なら、書き終わった後も調べものをしていました。
創作とは、知ることと見つけたり。
いやマジで、書いてる時間と考えてる時間を足しても、調べてる時間の方が明らかに多いです。
この調べものに費やした時間が全て無駄になるのかと思うと、私はこの物語を……この主人公を捨てきれません!
だからきっと、いつか必ず、このスマホをエンディングまで連れて行きたいと考えています。
2.なろうとの出会い
当時、私は暇を持て余していました。
娯楽というものは、とにかく金がかかる。
何か趣味を見つけて始めようにも、意外と初期投資がかかる。
金のかからない趣味はないものかと、常々考えておりました。
そんなある日、私は寝ずに外で夜を明かさなければならないというインポッシブルなミッションを与えられて絶望していました。
そこで手に取ったのがスマホ。
コイツで暇潰しをしようと思い、無料アプリでもダウンロードしようかと考えていた時、ふと思いつきました。
なろう系って最近聞くよな。
小説家になろう発の作品で、当時流行っていたものを私は知りませんでした。
しかし『なろう系』という単語だけは知っていました。
なので、小説家になろうのサイトに辿り着いたは良いものの、何を読んだら良いのか分からず、仕方なく新着からページ数の少なそうなものを適当に選んで読み始めました。
その作品は、女子高生と猫が一緒に異世界転生する話でした。
文体が結構柔らかい印象だったので、最初のページを読み進めている途中は「猫と一緒に異世界を巡るハートフルストーリーなのかな?」くらいに思ってました。
まさかね、猫とJKが異世界合体するとは思わなかったよ。
一緒に死んだので、転生先の異世界で混ざってしまったようですね。
猫と合体したことで身体能力ばつ牛ンになったJKは、程々に無双したりしなかったりしながら異世界ライフを満喫しておりました。
深夜テンションなのもあって爆速で最新話まで読み進め、程良い読後感を得た私は思いました。
無料で読み放題ってコスパ高すぎじゃね?
その後、私はなろうに暫く居座る事になります。
これが私と小説家になろうの出会いなのですが、この話はもうちょっとだけ続くんじゃ。
私がなろうで最初に読んだ『女子高生と猫が一緒に異世界転生する話』なのですが、この作品の作者さんは、私がなろうに来て、小説を書き始め、途中で逃げ出し、数年経って打ち切りエンドさせた今の今まで、ずっとその作品を書き続けていたんです。
しかもなんと……挿絵までご自分で描かれていたんです。
私は思いました。
………………こまった、ちょっとかてない…………。
ただ小説を書き続けることすら満足に出来なかった自分が如何に情けない、弱い人間であるかを思い知らされました。
3.小説を書き始める
小説家になろうに辿り着いて暫くは読み専でした。
恋愛モノだったりヒーローモノだったり、当然転生モノもいくつか読みました。
色んな作品を平行して読み進める中で私は、小説を書き始める切っ掛けとなった作品との衝撃的な出会いをします。
私の嗜好は、かなりギャグ寄りです。
愛読していた漫画もギャグ漫画が多く、久米○康治やう○た京介、尾玉な○えに美川○るの、駒○悠やら木村○彦などなど、好きな漫画家を挙げると、ギャグが目立つ感じになってしまいます。
そんな私に衝撃を与えたなろう作品も、やはりギャグ極振りの小説でした。
その作品がどんなものかを簡単に理解していただくには、
主人公は直腸に便が溜まれば溜まる程、強大な力を得る。
という設定を伝えるのが一番でしょう。
ええ、下ネタ全開フルスロットルの作品でございました。
タイトルや設定から受ける印象だと、勢いだけで考え無しに書き進めているメチャメチャな作品だと思われそうです。
ですがこの作品、登場人物たちへの設定によるリスクの負わせ方が巧みで、非常にスリリングなバトル描写が随所に見られる隠れた名作だと個人的には思っております。
直腸に
便が溜まって
スリリング
……って、内容が想像出来過ぎてビックリですね。
漫画になったら人気出そうだなぁ……という感想を持ちました。
現在更新停止中なのが非常に残念です。
私はこの作品を読んで、思いました。
「こういうの、俺も書きたい!」
ずっとギャグ漫画を愛読してきたので、自分もそういうものが書きたいと思いました。
正直に言います、ギャグを甘く見てました。
ギャグ漫画沢山読んできたし勢いでどうにかなるだろと侮っていました。
ギャグが好きな人間がギャグを作れるとは限らないんですねぇ。
体調を崩すくらい面白くないものを自らヒリ出しているという状況が、更に体調不良に拍車をかける……これはもう激寒ギャグのバイオハザードだ!!
……私は、ギャグから逃げました。
4.天敵
私は連載中、週二回更新というノルマを己に課していました。
毎日更新しておられる方からすれば、とんでもない激甘設定です。
しかし、作文能力の低い私を追い詰めるには充分でした。
最初はもちろん、楽しく書き進めていました。
しかし、だんだんと疲労が溜まっていき、ついには限界を迎えます。
恐らく、その辺の感情が読み取れるような文章になっているんじゃないでしょうか。
最初の頃は「書くのが楽しい」という感情で書いている。
それはつまり、書かれているものが自分の好きな物であるわけです。
では、「書くのが辛い」という感情で書いているものはどんなものになるでしょうか?
それは当然、自分の嫌いな物になるわけですね。
私の嫌いな物が、他人にとっては大好物であったり、その逆でもあったりするのは当たり前にある事なので、世にお出しした時にどのような評価を受けるかは分かりません。
ですが正直、物語の後半部分を書き進めている最中の感覚は、自分の吐瀉物や排泄物を見るようなものでした。
完全にメンタルやられてましたね。
病み期に突入した私は、負の感情に囚われていました。
自分自身に対してもそうですが、他人に対しても負の感情を抱く事が多くなりました。
皆さんは、やたらと他人のやる事に難癖をつけて周りを嫌な雰囲気にする人を見かけた事がありますか?
WEB小説界隈でも偶に見かけるソレが、当時の私には天敵でした。
私も他人を全肯定できるような出来た人間ではないので、誰かのやることに否定的な意見を持つ事はあります。
なので、以前の私であれば「そういう意見もあるかぁ」くらいでスルー出来たのです。
……もしかして今、「あぁ……感想に何か酷い事を書かれたのかな?」と思いましたか?
残念、不正解!
そもそも殆ど最新話まで継続して読まれていないので作品自体が好評でない事は確かなのですが、それでもありがたい事に、私の小説に対する否定的な意見は全くと言っていい程ありません。
感想を書いてくれた方々は数少ない「良い所」を一生懸命探してくれて、そこを褒め称えてくれました。
本当にありがたい事です……例え他意があったとしても全然問題無いです。
なぜなら、雰囲気を壊してくる人が一番の敵だから。
幸いなことに、私の周りには天敵に該当する人はいませんでした。
しかし、外の世界には沢山いたんです。
私は”過疎”というバリアに護られていたんですね。
病んだ心を少しでも癒せる”楽しい事”を求めて私はWEB小説界隈を彷徨いました。
そして行く先々で私は天敵に遭遇してしまいます。
私のものではない誰かの作品に対し、難癖をつける誰かに。
平時の私であれば、「そんなもんシカトでいい」という風になるのですが、病んでる私にはそれができません。
そういうものを見かける度にイライラしてしまい、楽しんでいた娯楽から離れざるを得ない状況が続きました。
企業が立ち上げた企画に難癖をつけている人を見かけた時などは、
「じゃあテメェが代わりに楽しい企画作れよクソがッ!」
って、思いました……かなり荒んでいましたね。
難癖をつけられたことによってその企画が無くなると娯楽が一つ奪われたことになるので、責任取って代わりを用意してくれよという切実な想いではありましたが。
小説家になろうを離れ、別のサイトに行ってみたりもしましたが、結局そこでも似たような事が起きました。
私のメンタルは限界を迎えました。
楽しい事以外要らない。
私は、そう思いました。
今思えばそれは、ギャグを書きたいのに書けない、ギャグを渇望する私の魂の叫びだったのかもしれません。
私は逃げました。
楽しくない事、小説を書き進める事から逃げました。
5.向き合わない日々
楽しい事をWEB小説以外に求め、書き進める事と向き合わない日々が始まりました。
ユーチューバーにハマりました。
ユーチューバーの動画や生配信は、こちらは何も考えなくていい、動画を開けば向こうから娯楽がやってくるから何もしなくていい。
それはまるで炬燵の様に、人を駄目にする娯楽だなと思いました。
何も考えなくていい分、心に……脳に余裕が生まれた気がしました。
そこで私は、自分の書いていた小説について考え始めました。
書き進める事こそ止めてしまいましたが、作品を諦めてはいなかったのです。
書き始めた時に結末は決めていたので、間のエピソードを沢山考えました。
世界設定についてもアレコレ考えました。
メモ書き程度ではありますが、設定資料を作りました。
もしもそれらを完全に小説として仕上げたら、結構長い話になりそうです。
一年、二年と、暇な時に自作の小説について考えました。
設定資料にはメモ書きをしましたが、本文は一文字も書き進めていません。
私は、気付きました。
考えるだけなら誰でもできる。
小説を書く……作品を仕上げるという作業は、とても大変な事なのだと気づきました。
金のかからない趣味だからという軽い気持ちで小説を書き始めた自分の愚行を省みました。
作品を完成させるって、こんなにもハードルが高いものだったんですね。
それに気づいても尚、作品を諦めきれなかった私はある日、スマホを持って出かけました。
……もしかして今、「スマホを持って出かけるのは普通では?」と思いましたか?
………………正解!
ですが、行き先がちょっと特殊でした。
私は、とある有名な山の近くに住んでいます。
Dの者が集う、あの山です。
その山を、私はスマホを持って登り始めました。
理由は、『近代文明要素の無い場所でスマホを持った人間がどう歩くのかを調べる為』です。
一頻り山の中を歩いた結果ですが……
なんの成果も!! 得られませんでした!!
あ た り め ぇ だ ろ 。
ただ山の中をほっつき歩いて、普通に帰宅しました。
貴重な一日を無駄に過ごしました。
ですが、諦めません。
次に私が思い付いたのは、『俺自身がスマホになること』です。
……もしかして今、「なん…………だと…………?」と思いましたか?
何をやったかの詳細は伏せますが、本当に、何考えてるんだかって感じですね。
何故そんな意味不明な行動を取ったのか。
理由はもちろん諦めたくなかったからなのですが、もう少し具体的に言うと、
自分で一生懸命考えた主人公を失いたくなかったから。
……なのです。
商業作家の皆さんは何作も書いて数多くのキャラクターを生み出しておられますが、実力不足の素人である私には、そのような芸当は到底できません。
だから何とかしてこのスマホを生かしたい、設定を活かしたいと、必死にアレコレ考えた結果の奇行でした。
結局、なんの成果も得られなかったわけですが、考えるだけでなく行動に移したという事実が己の心情に変化をもたらしました。
私は、思いました。
書こう、せめてキリのいいところまで。
再び、私の小説は動き始めました。
6.やり切るということ
小説を書き進める前に、今まで書いた文章を読み返しました。
……苦笑いしか出てきませんでした。
自尊心がゴリゴリと削られ、勢い余って作品を削除してしまいそうにすらなりました。
こんなもんを他人に読ませようなんて、よく考えたなぁ……なんて思いながら読み進めていましたが、途中から感覚が麻痺してしまったのか、何も感じなくなっていきました。
それが良い状態なのか悪い状態なのかは分かりませんが、良い機会を得たとは思いました。
最新話まで読み終わり、麻痺した感覚のまま書き始めます。
実はWEB小説から離れていた時も、いくつか文庫本を買って読んでいました。
なので、少しは文章力が上がっているかなと期待していたのですが……まあ、大して変わってなかったですね。
きっと、表現する練習をしないと実力は伸びないのでしょう。
一生懸命読んだんだけどなぁ……村○春樹。
生み出されるのは相変わらずの奇文珍文でしたが、執筆ペースは順調でした。
休載中に考えていた案が、うまいこと活きてくれたからです。
逃げ続けた数年間も、無駄ではなかった……救われた気分です。
書き進めている途中、とある考えが何度か過りました。
それは、あそこのあの辺を書き直そうとか、あの辺のエピソードを丸々削ってしまおう、という考えです。
作品の完成を諦めないという気持ちの表れではあります。
ですが私はその考えを余計なものとし、押し殺して書き進めていきます。
なぜなら、
設定を見直して、一から書き直す。
という目論見があったからです。
どうせ一から書き直すのだから、キリのいいところで終わらせるという今の作業に時間をかけていられない。
どうせ一から書き直すのだから、振り返るのは無駄な行為だ。
そんな風に考え、どんどん書き進めていきます。
この、『どうせ一から書き直すのだから』という考えが、執筆スピードを早めました。
いやあ、開き直るって大事ですね!
しかし、ただ執筆作業をするのではなく、書き直す時の事も考えつつ書き進めていきます。
拙作は主人公がスマホで、異世界人が異世界語を喋るという特殊なシチュエーションなので、文章の書き方に工夫が必要になってきます。
その為に色々な表現方法を試したので、結構文章がぐちゃぐちゃになってしまったなぁ……と、ちょっとだけ後悔しています。
ですが、振り返り、立ち止まることはしません。
そして2025年6月15日現在より二か月程前、ページの最後に『未完』の文字を入力し、作業は終了しました。
書き終えた文章を保存した時は、「やり切った……」と思いました。
まるで全部終わらせたくらいの気持ちになりましたが、全然です、何も終わってません。
だってまだ、新たに書いた分を投稿していないのですから。
書き終わったエピソードを、順番に予約投稿していきます。
…………この作業が、気持ち良すぎる!
脳汁がドックンドックン出ちゃいます…………脳汁ってなんだ?
そんなわけで一日一ページずつ予約して二か月程かけた投稿が明日、ついに終わります。
今度こそ、やり切った!
……なわけないですね。
なにせ、物語を完結させたわけではない『打ち切りエンド』なんですから。
己の生み出した物語の首を、成長半ばで切り落としたに過ぎないのですから。
私は、思いました。
まだ、何一つ成し遂げちゃいない。
だから私は始めます。
一から――――いいえ、ゼロから!
……いや、やっぱ一からでお願いします。
7.さいごに
なろう系アニメというジャンルが確立され、毎期WEB小説原作のアニメが放映されている昨今、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
巷では「粗製濫造だ」なんて言われておりますが……まあ、見方や考え方は人それぞれですね(達観)
ただ、作品を完成させるという事を成し遂げられずスタートラインに戻る事を選んだ私には、とても他人様の作品をそんな風には言えません。
作品を作り続ける事。
作品を完成させる事。
これらが決して簡単な事ではないという事を、私は学びました。
それらを今も続け、そして成し遂げている皆さんを、私は心から尊敬しています。
どうか心無い言葉に負けず、誇りを持ってご自分の作品作りに臨んでください。
全てのなろう作家に幸あれ。
以上、お読みいただきありがとうございました。
藍谷狭鞠亭