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松江の宿に着く頃、バスガイドは明日行く出雲大社の話をした。日から離れた山の稜線にはすでに宵の深みが落ち始めている。
宿の前でガイドが終わり、締めの挨拶があった。
部屋に荷物を置き、私たちは湯へ行った。湯から出た私はその足で煙草を吸いに街へ向かった。
街と宿の境に川があった。川辺には桜が植えられ、時期に春を迎える石畳の道を歩いた。温泉街のバス停には灰皿があり、時代の名残に私の旅情は満足を覚えた。
白濁した煙が冬空の寒さの中に漂っている。
私が煙草を吸い始めたのは二年前。
彼女とは高校時代に知り合った。
彼女は高専に通う学生だった。
5年生の頃、彼女は私との子を妊娠した。
流産だった。
私たちが籍を入れ、彼女が腹の子のために高専を退学し、いくらか月日が経ってのことだった。
私が煙草を吸い始めたのはその頃だった。
妊娠中、彼女は自身の腹を撫でては逐一私に報告していた。
腹の膨らみを失った彼女は、腹を撫でては涙を流し、背を撫でる私は、子を宿し、高専を辞め、流産を経験した彼女の成就しなかった想いの全てを推しはかり、ひどく焦燥した。
彼女が腹を撫でることをやめ、外出を始めると彼女は次第に笑顔を取り戻した。
「陽の光を浴び始めて気分がいいの」
彼女の言葉に私は安堵した。
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