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37.神殿<前編>

前編:12時頃公開 後編:20時頃公開


王都ベネディスシア、馬車が2台並んですれ違えるような大きな道に面した歩道を私たちはまっすぐに歩く。

舗装も綺麗で歩きやすいし、石造りの街並みに果物や野菜を売る店、魔法道具の店までずらりと並んでいて、つい目移りしてしまう。

思わず洋服屋さんの前で立ち止まって、ガラス格子の向こうの服を眺めていたらアディに「後にしろ」と言われてしまった。

レディルボードで買えなかったし、ユイトの服を選びたかったんだけどな。やっぱり先に神殿に行かなきゃいけないみたい。


ーーイル様の神殿は、目の前に立つと遠くから見るよりずっと立派な造りだった。


左右の尖塔は空に届きそうだし、白く磨かれた外壁には数えきれない程の彫刻が飾られている。黄色とオレンジで形作られた巨大な黄金色のステンドグラスは、まるで太陽がここにあるみたい。


アディが「 "巡礼" とは近くの都市の神殿に行くことだ」って言ってたけど、その気持ち分かるなぁ。

旅行気分っていうの? ヨーロッパとか写真でしか見たことないけど、そんな感じ。

私と同じようにきょろきょろしてる人も多いし、中に絶え間なく入っていく人の波を厳めしい獣人さんの目がギロリと見つめている。ーー彼等の首には観光気分を台無しにする金属製の首輪。それだけが残念だ。


(……あの人たちも隷属の魔石で契約させられてるのかな)


(やま)しい事がある訳じゃないのに、私は咄嗟に目を逸らす。

やっぱり、こればっかりは未だに慣れない。あれを見ると、ユイトだけを連れ出したあの日のシス達の視線を思い出してしまう。

ただ、当のユイトはマントのフードを深く下ろしているだけで、レディルボードの時よりは顔色が良さそうだ。フードの下から覗いた瞳が、見上げる私の視線に少しだけ弛む。


それだけで安心してしまうんだから私は薄情だな。知らない誰かより、彼が無事なら良いって、そう思ってる。

少しの罪悪感と共に、三人で神殿の扉を潜った。



ーー中は、想像以上の光景だった。

天井が高く、白い壁が全て黄金色の光に包まれている。

広々とした室内に装飾的な柱が等間隔に並び、壁に幾つも配置された太陽を模したステンドグラスから金の光が差し込む。

無数に浮かんだオレンジ色の魔法の明かりも相まって幻想的な光景だ。私は思わず天井を見上げて溜息を吐いた。


「凄く、綺麗……」

「そうだな……俺も入った事は無かったが、壮観だ」

「こんな場所があったのか」


アディが眩しそうに目を細め、ユイトはポカンと口を開けている。

世界が全て金色に染まってしまったような、光の中に入り込んでしまったような、そんな神秘的な空気。これを人が作ったのかと思うとなんだか感動してしまう。

思わずぼんやりと立ち尽くしていた私の背に、ドンっと重い衝撃が走って体が前に傾いだ。


「――あっ!」

「大丈夫か、ハルカ? ここは人が多い。奥に行こう」


追突され転びかけた私の肩をアディが支えてくれる。

彼に促され、まだ上を見上げてるユイトの手を掴んで私はアディの後に付いて歩いた。

ユイトはきっとこんなに綺麗な景色なんて本当に初めてなんだろうな。上を見上げながら危なっかしい足取りで私に手を引かれている。


私たちは中央から左右に整列した長椅子の後ろを通り、広い聖堂の端、壁際のステンドグラスの真下に向かう。

側に来るまで見えなかったけど、ここでも獣人さんたちが忙しそうに働いていた。彼等の横を通り過ぎ、少し薄暗い端の道を真っ直ぐに進む。

そして、神殿に据えられた祭壇の後ろあたり。鉄格子で仕切られた扉の前で、シルバーブロンドの神官らしき人がアディに声をかけた。


「聖石への祈りをご希望ですか?」

「ああ、そうだ。寄進はここにある」

「かしこまりました」


恭しく銀貨を受け取った神官さんが、重い音を立てて鉄格子の扉を開く。アディは当然のような顔をして中に入ったけど、私はそのお金を見て大焦りだ。


(今、銀貨何枚出してた!?)


だって、さっき門でも支払ってくれてたんだよ!

当然建て替えだと思うし、どこかで清算させてもらわないと非常にマズい訳で。私とユイトの分で合計いくらなんだろうって変な汗が背中に伝う。

親しき中にも礼儀あり。

当然お金はキッチリする派ですし、宿代はしっかり返したんだけど、アディは何でもスマートにやっちゃうから抜けがありそうで怖い。

異世界じゃ電子マネーでササッと割り勘するわけにもいかないしね。覚えてられるかなぁ。


扉の前で考え込んでしまった私を神官さんが妙な目で見ていたので、慌ててユイトと一緒に中に入った。

後ろで扉の閉まる音が響く。


真っ白な石造りの室内は狭く、少しひんやりとしている。

丁度の祭壇の後ろにあたる場所、そこに、大きなダイヤモンドのような拳大の石が輝いていた。

間違いない。

あの時見たのは私の身長くらいのサイズだったけど、あれが聖石だ。

アディに促されて、私だけが石の前に立つ。


石の両サイドに控えた神官さんの視線が気になるし、お祈りの仕方とか分からないけどーー

とりあえず、石の前で手を組んで、心の中で呼びかけてみた。


(イル様、ようやく聖石がある場所まで来れました。私の声が聞こえたら答えてくださいっ!)


ぎゅっと祈りの為に組んだ手に力が入る。


――その瞬間、聖石の中で光が弾けた。


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