3.はじめての魔物退治!
空が……高い。太陽が眩しい。
真っ白い雲の間をゆっくりと浮島が流れていく。
「って、浮島!?」
ガバッと起き上がると周囲に花弁が舞い上がった。
見覚えのある景色。
辺りを見回せば、黒々として先が見えない森もそのままだ。
「あ~~~~~ッ。もう!」
頭を抱えても後の祭り。
もしかしたらファンタジーな夢を見ていただけかもしれない、なんて期待も虚しく。
ふんわりと揺れる緑色のスカートが悲しい程に現実だった。
「こんなことなら、もっと冷静に色々聞いておくべきだった」
浮かれて空中散歩とかワンピースなんてノンキに頼んでた自分を恨みたい。
一人でこんな所に置き去りにされると分かってたら、もっと武器とか、防具とか、他に頼むべきものがあったのに!
そもそも、ここはどこなの? あれから何時間経った?
隣に落ちてたカバンの中からスマホを取り出して時間を見ると画面は6時。
真上にある太陽とは合わない。
「ダメだ……全然あてにならない」
そもそもアレが太陽なのかも分からないし。
そういえば、昨日は23時に退勤した筈なのに、ここに来た時は明るかった。
「もしかして、昼夜は違うけどスマホは正確に動いてる?」
日付も昨日の翌日、日曜日。
眠気もスッキリしてるし、寝すぎてダルい感じもしない。むしろ……
「お腹空いた~っ」
ぐぅっと腹の虫が鳴る。
意識したら余計にお腹が減ってきた。
退勤してから夕飯を食べる予定だったから、もしかして、もう12時間以上食べてない?
食いしん坊な日本人として由々しきことだ。
昨日作る予定だったロイヤルミルクティー、冷蔵庫の中の作り置きのコールスロー、特売で買った挽肉……
ミートソースにしたかったのに。
頭の中をメニューがぐるぐる回ってる。
「冷蔵庫の中、全部腐っちゃうだろうなぁ」
賞味期限までに帰れれば良いけど、たぶん無理。
バイトのシフトもどうしよう。
あんまり長く連絡がとれなかったらお母さんにも心配させちゃうし。
当然のように電波は圏外だ。圏外といえば……
「イル様――――――っ!」
ダメ元で叫んでみた。
そよそよと風が揺れるだけで例の光が現れる様子はない。
「……はぁ。そうだよねぇ」
もしかしたら、なんて思ったけど、そう上手くいかないみたい。
創世神がどうこう、なんて言ってたけど、急に呼び出したんだから、そこは融通きかせてくれても良いんじゃない?
「もう絶対に『イルシェイム様』なんて呼んであげない」
置き去りにされたんだもの。イル様で十分だ。
「あー、日本に帰りたい……。お腹空いたよ。ごはん食べたい。コンビニのおにぎりで良い。具無しの塩だって良いからお腹いっぱい食べたい」
この世界に来て良かった、なんて言っちゃったけど前言撤回。
呼ぶだけ呼んで、あとは放置なんて聞いてない!
ご飯のことを考えてたら喉まで乾いてきた。
人間ってご飯より水飲まない方が危ないってどこかで聞いた事がある気がする。あれって、何日だっけ?
「……いや、ダメだ。考えるの止めよう。不毛すぎる」
落ち込んでたって、ご飯は湧いてこない。
それが私のモットーだ。
アパートが水漏れしてても、ふりかけご飯で1週間過ごしても、落ち込まずに足を動かせばもっと良い明日が来る。
そう思わなきゃやってけないんだから!
私がここで何時間も気絶してて大丈夫だったんだから、少なくとも安全な所には降ろしてくれたんだよね。
だから、とにかく顔を上げなきゃ!
「カバンはちゃんと持ってる。スマホもあるし、全然最悪なんかじゃない! 大丈夫っ」
持ち物を確認。
まずスマホ。これは電源を切ろう。充電ができないし、もしかしたら役に立つ時が来るかもしれない。
あとは、ペンケース、財布、カッターに軍手。それから作りかけの商品ポップとノリ。あとハサミ。
「うん。結構どうにかなるのでは?」
軍手をはめて、カッターを持ってみる。
一応、武器がわり。
この花畑は安全なのかもしれないけど、周りは黒い森に囲まれて民家は見えない。どうしても森を抜けないといけないみたいだ。
くじけそうになりながら、イル様の言葉を必死で思い出す。
闇をどうこう言ってたけど、それは置いておいて、大事なのは「大神殿」って言葉。
本当はそこに呼ばれる予定で、何かに邪魔されて私はこんな所に落とされた。
けど、少なくとも大神殿まで行けばイル様に助けて貰えるってこと!
「神様なんだし、きっと、そこまで行けば日本にだって帰れるよね」
だから、負けなければ、きっと大丈夫。
一人で山なんて入ったこともない。正直怖い。
でも、ぎゅっとカッターを握りしめて刃を繰り出した。心臓がどきどきする。
一歩一歩。
足を踏み出すたびに花びらが舞うのはいかにも異世界っぽかった。
「すぅ……ハァ」
深呼吸。森は暗くて不気味だ。
「大丈夫。大丈夫。大丈夫。私ならできる。よしッ」
勢い込んで飛び込んだ瞬間、
ガサガサ ガサガサッ
傍で草の鳴る音。大きな黒いモヤを纏ったナニカが、目の前に―――
「――――――ッッッッ!!!」
声にならない叫び声。
カッターを取り落として、私は思わず両手を突き出した。
途端、轟音と、白い光。
手の平から炸裂した極太のビームが、ジュッと微かな音を立てて何かを焼き払った。
余波で木々を薙ぎ倒し、土を抉り、ついでに真っ直ぐ黒い森を引き割いていく。
「あぅッ!」
反動で後ろに吹き飛ばされ、ぐるぐると回りながら「小学校の頃、鉛筆を上に真っ直ぐ飛ばすゲームをしたな……」なんて、他人事のように思う。
私、今、エンピツのきもち。
ドンッと強い尻餅をついて、また花畑に大の字で寝転がった。炭化した木の欠片がパラパラと降っている。
「魔法、使えたのは良いけど強すぎるでしょ!」
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