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27.レディルボードの町<前編>


アディにリハビリを教えてもらってから、私は四六時中、枝を握り続けていた。


ーーだって少しでも早く戦闘に復帰しないと、二人に戦わせてばかりなんて立つ瀬がない。

治癒魔法は使えると思うけど、それって二人が怪我するのを待ってるみたいだし、料理は私がやらなくたって、きっと二人は自分で何とかできる。元々一人暮らしみたいなものだもんね。


だから、許してくれてる気持ちに甘えてちゃいけないって思うんだ。


スープをかき混ぜながら。ユイトとアディの背に交代で乗りながら。

とにかくずっっと私は枝に魔力を込める練習をし続けた。



イベドニ村の近くから出発して、ちょうど二日目の昼頃――


町の外壁が見えてきた辺りで私はアディの背から下りた。街道に人も見えるようになってきたし、そろそろ背に乗ってるのは恥ずかしい。


(いや、最初から恥ずかしいけどね!)


そこの所はもう、羞恥心を麻痺させるしかなかったので慣れました。


途中で髪も染め直したし準備は万端。

アディの夕日みたいに眩しい赤とは違うけど、外国の俳優さんみたいで可愛いくてお気に入りだ。

しかも、今回はユイトもお揃い。皆で赤色パーティです。

イベドニ村の戦闘でユイトがマント代わりにしてた布がダメになっちゃったからね。それでも彼は落ち着かないみたいで、街道に出てから目に見えて挙動不審になってきた。


――でも、人が苦手なユイトが緊張するのも当然。

イベドニ村は森に呑み込まれそうだったけど、この辺りは森より人の生活圏の方が多い。村と村の間も平坦で、まばらではあるけど街道には荷車まで通ってる。

特に町が近づいてからはすれ違う人も増えて、元の世界の田舎のような雰囲気だ。今までは完全に森とかサバイバルだったから、私としてはこの空気感に安心する。


「なんだか『人が居る』って感じだね」

「どんな例えだそれは。まさかとは思うが町を見たのが初めてとは言わないな?」

「い、いやっ。そんなことないよ!? 村より人が居るな~って思って! 本当に、それだけ!」

「……まあ、すこぶる怪しいが。聞いても詮索するなと言うんだろうしな」

「うう、ごめんね……。隠さなきゃいけない訳じゃないんだけど、ちょっと込み入ってて」


アディに隠してる事に罪悪感がチクチクと胸を刺す。元々、隠し事なんて向いてないし、これだけお世話になってるのに何も言わないなんて誠実じゃない。

でも――


(やっぱり言いづらい!)


王都までしか一緒に行けないんだし、このまま楽しく終われれば良いかなって。そんなズルい事を考えてる。私は誤魔化すみたいに、持っていた枝に光を灯した。


「ねえ、それよりアディ見て。私の魔法! 凄く安定してるっ。前はあのナイフにしか付与できなかったし、そう考えたら成長してない?」

「確かに、随分と安定してきたな。背中でチカチカされるのは気が散ったが、俺たちが我慢した分の成果は出たか」

「意地悪~っ。練習しろって言ったのはアディだよ? 私がんばったんだけどなぁ…。ねえ、ユイトは眩しかった?」

「い、いや、そんなことは。……本当に、少しだけだ」

「獣人族は感覚が鋭いからな。相当眩しかったと思うぞ」

「ええ!?」


ガーン!


アディの意地悪だと思ったのに、ユイトも眩しかったなんて。しかも普通よりダメージがあったみたいな雰囲気。これは本当に迷惑かけちゃってたんだ。

彼の力が強かったりするのは知ってたけど、私が弱すぎるのか判断が付け辛かったし、種族によってそんな違いがあるなんて。これから勉強しないといけないなぁ。


「ごめんねユイト。全然知らなくて」

「大丈夫だ。オレもハルカが焦る気持ちは分かる」

「ユイト……」

「――おい。俺には無しか?」

「アリガトー。アディは意地悪するんだもん。あんまり言いたくなくなっちゃう」


いつも一言どころか二言も三言も多いんだから!



そう、おしゃべりをしながら私達はレディルボードの町に着いた。

ユイトは町が近づくほどに口数が少なくなって、今は無言で私の後ろで隠れるように歩いてる。

身長も体格も違うから全く隠れてないんだけど、私もユイトを守らなきゃって使命感が刺激されて背筋が伸びる。


レディルボードには村とは違って町を囲うように壁があった。

ちょっとした雑居ビル位の高さかな。でも壁はけっこうボロボロで修復中らしき人があちこちで作業をしてる。


アディが先行して、服の中からネックレスみたいな物を取り出し門番さんと話す。少しドキドキしながら待っていると、手で付いてくるようにとジェスチャーされて、彼の後に従った。

門番さんの前を通る時は緊張したけど、特に問題なく通してくれた。



――ギイィ、と重い音を立てて門が開く。



「凄いっ! ここがレディルボード!」


私は思わず目を輝かせて叫んだ。

飛び込んできた景色はいかにもなファンタジーな町並み。

石畳に煉瓦の家が整然と並んで、飾られた花が鮮やかに町を彩ってる。

人々の髪はカラフルで、皆カラーリングでもしてるみたい。ブロンドや薄いピンクにブルー、私みたいな黒やアディみたいに真っ赤な人はいない。今の私の赤茶ですら少数派。薄い色が流行みたいだ。

ユイトみたいな獣人さんも沢山いる。雑踏の中に長い尾っぽや耳のモフモフがたくさん見えた。


「凄いっ、人が、人がいっぱいいるっ!」

「ああ。この辺りで一番大きい町といえばここだ。王都に向かう農産物の集積地になっていて往来が多い。俺たちみたいな流れ者にもある程度は友好的で店も揃ってる。まずは宿に向かうぞ」

「宿もあるんだ! なんかドキドキするねっ。楽しみ」

「そんな楽しいものではないと思うが……。まあ、今日はベッドで寝れそうだ」


ファンタジー世界のお宿なんて憧れも憧れだ。やっぱり二階? 一階に酒場とかあったりするのかな?

胸を膨らませながら私は歩き出した。


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