23.アディ先生の魔法指導<後編>
前編:12時頃公開 後編:20時頃公開
村長の治癒をしてからはもう、流れ作業だった。
「一回教えたんだから、できますよね?」とでも言わんばかりのスパルタ。
うう……嫌な記憶を思い出す。
でも、私も負けてはいない。だって、そんなの慣れっこですからね! 慣れたくはなかったけど!
次々に来る怪我人を治しながら、その間に彼の魔力操作を感覚で覚え込む。
繋がった魔力で感覚は共有してるし、全ボタンが意味不明だった初見のレジ打ちよりまだ分かる!
途中から一部の操作を私の方でやってみたら、一瞬アディが驚いた空気があったけど、何も言われなかったしそのまま続行!
間違えたら指摘してくれるだろうしね。
つまりは上手くいってるて事だ。
一つ試して、上手くいったら次を。そして次。
もう二十人……三十人はやったのかな。
最初は時間がかかってたから昼食を挟みつつ、ユイトに口にパンを放り込んでもらいながら治癒を続けた。
もう直した人のことなんて、傷口以外覚えてない。
とにかく何人も繰り返した結果、私は最後の一人の治癒を完全にアディの補佐無しでやりきった。
「やったーーーーー! 軽傷最後の一人終了! どうですか、私の治癒さばきっ!?」
「…………異常だ。おかしい。上達速度が速すぎるだろ」
「フフ。私って治癒の才能あったかも」
「否定はしない。間違いなく天才の域だ。……短時間に修練の人数を稼げたのも大きいとは思うが」
「素直じゃないんだから~」
思わずテンションが上がってしまう。全然人を褒めてくれなさそうなアディに褒められたから猶更だ。やっぱり仕事を褒められると、やりがい感じるよね。
初見のレジ打ちよりは、なんて思ってたけど、むしろレジ打ちの要領でいけるのでは!? と気づいてからが早かった。
傷口の状態をスキャンして把握。傷の状態はある程度共通するので魔力量を症状ごとに固定、ボタンを押すみたいに選択して、深さによって割引……もとい魔力量を調整する。
これがピッタリとハマってくれた。
魔力の操作ってアディの物真似できたのもあるけど、イメージも大きいのかも?
「よし、残りの怪我人は私に任せて! お次の方どうぞー」
俄然自信が湧いて来た私はアディに手を離してもらい、腕まくりをして次の人を呼んだ。
――見覚えのある義足とアイパッチ。
「あ! 次はヤニクさんだったんですね」
「ハルカ様、ワシも本当に治していただけるんですか?」
「ユイトに謝ってくれたし、私は怒ってませんから」
「ありがてぇ……」
治癒魔法をかける前から泣き出しそうな彼を促して地面に座って貰い義足を脱がせる。つるりとした肉の感触にちょっとびっくりしたけど、まずはスキャン――
しようとした私を、アディが遮った。
「どうしたの?」
「残った奴らは全員欠損部位がある人間か?」
残った十人ほどの人々、そしてゴーチェ村長が頷いた。
「……分かった。なら、これで終わりだ」
「――え?」
「治癒魔法は欠損には効果が無い。ある程度の街の神殿に頼むしかない」
「そんなっ!」
ここまで皆待ってたのに!? しかも、ヤニクさんなんて、もう治ると思って、義足まで取って!
視界の端で残った村の人々やヤニクさんの顔色が絶望に染まっていくのが見える。
(そんなの、分かってたなら先に言うべきじゃない!?)
治ると思って、待って、待って、自分の番で打ち切られるなんてその方が残酷だ。私はアディの手を振り払ってヤニクさんの足に触れた。
「おい、バカ! 治癒は不可能だと言ったのが聞こえなかったのか!?」
「私にはそうは思えない。だって、私は『できる』って感触がある。やるだけやってダメなら諦めがつくでしょ? 待ってたのに、できないから帰れなんて私は言えない!」
「欠損部位の回復は治癒というより創造に近いんだ。光の神の加護が強い神殿以外で魔法が使えた前例はない!」
「前例は……でしょ?」
私はヤニクさんの足に集中する。
完全に欠損しているから傷口以外は周りの組織と合わせる必要は無い。形は反対側を参考に、足の向きに注意。魔力量は、一気に出すのは無理なので、じっくりと、必要量を、彼の足があるべき場所へ――
金の燐光が跳ねる。まるで蝶が飛ぶように、煌めく鱗粉が降り積もる。
白い光を練った輝く足が、徐々に形を成していく――
(光の神の加護? それなら、私には問題ない!)
光が散った後には、傷口の治癒と同じように、綺麗に繋がった足が、そこにあった。
「ほら、治ったでしょ?」
ヤニクさんが声も無く涙を流す。私は彼の手を制して、目に手の平を当てた。同じように金と白の光。アイパッチが地面に落ちて、彼は両目でゆっくりと瞬いた。
足よりは魔力量が少なく済んだから、目は結構早くできたかな?
立ち上がって、呆然としたアディの目にも同じように手を当て――
ようとして気付いた。
背伸びをしても、アディの顔までは手がギリギリだ。正直転びそう。
「ねえ、ちょっと屈んでくれないかな?」
「いや……馬鹿な。有り得ない。俺の目は、とうの昔に腐って捨てた……治るはずが」
「有り得なくないよ。ヤニクさんのはちゃんとできたし。アディの目もやっちゃうから、屈んで! 背伸びつらいんだよ!?」
グイッと無理矢理服を掴んで引っ張ると、余程ショックみたいで簡単に屈んでもらえた。
それを良い事にさっさと目に手を当てる。
おなじみの金と白の光。
そして――
「目が、見える……」
アディが呟いた。切れ長で、怜悧なアイスブルーの二つの瞳。痛々しかった傷口も綺麗に癒えて、彼の整った顔立ちがよく目立つ。
彼は一度、二度、顔を触って。それから天を仰いだ。
私たちが治癒している間に太陽は沈みかけて、真っ赤な夕日が彼を照らす。
同じ色の長い髪が風に靡いて、静かに空を見続ける彼を、皆が見上げていた。
広場にはヤニクさんのすすり泣きが静かに響いていた。
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