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21.ユイトとアディ<後編>

前編:12時頃公開 後編:20時頃公開


村長さんたちが集まってる広場はすぐに見つかった。


あの時は必死で走り抜けたから気付かなかったけど、村の道はおおよそ広場を中心に放射状に作ってるみたいだ。

真ん中には井戸があって、その周りに人がばらばらと座り込んでいる。

人数は四十、いや、五十人くらい? 村の人が全員集まってるのかなってくらいに多い。

全員が私達の方を見ている。緊張で背筋がピンと伸びた。


「村長さんすみません。遅くなりました」

「ハルカ様! いらしていただいてありがとうございます!」

「ここにいる人たちが怪我人ですか?」

「その通りです。ハルカ様のお力で、狼に襲われた時近くに居た者は皆五体満足で仕事に励んでおります。ハルカ様さえ宜しければ、後程お礼の宴を」

「そ、そういうのは本っ当に結構ですので!」

「なんと欲が無いっ」


今にも涙を流しそうな村長さんを押し留める。持ち上げられ過ぎと落ち着かないのもあるけど、村長さんを放っておいたらいつまでたっても始められない。


「あの、私が治癒魔法初心者というのは……」

「皆、納得しております。我らは辺境の民。王都の門など一生くぐる事はございません。神殿の奇跡をこの目で見られる、それだけで生涯の思い出でございます」

「お、おもいで」


まあ、光るの見るだけで思い出になるなら……もし上手くいかなくても、その時はその時ってことかな。うん。

絶対に成功させろ! って感じじゃないだけ、まだ気が楽だ。

見回すと皆、顔に傷があったり手足の一部が欠損していたり、服の下に隠れない程の怪我を負っている人も多い。

できるなら成功させてあげたいと思う。


「あっ」


その中に、最初に会った門番さんの姿があった。見覚えのあるアイパッチと義足。あの時はガラが悪そうなんて思っちゃったけど、村の状況を考えたら、あれも獣に襲われたんだろう。

それなのに私は、人を外見で判断するなんて酷いことを……。罪悪感で胃が痛くなりそう。


門番さんが私の視線に気付いて咄嗟に立ち上がろうとしたので、私は慌てて彼を制止した。


「あの……足、大丈夫ですか?」

「ありがとうございやす。これは一年前に狼にやられまして。もう慣れたもんです。……先日は、すいやせんでした! 神殿のお方とは露知らず。ワシは……とんだことをっ」

「いえいえ。私も村の事情を知らずに押しかけてしまって」


もう"神殿関係者"って事にされちゃったみたいで、これは否定しても混乱させるだけかもしれない。

それに、襲われた怪我を「海賊みたい」なんて思っちゃった私も、この人を強く言える立場じゃない。魔獣に頻繁に襲われて、助けも来なくて……警戒心が強くなるも当然だ。


(あ、でも――)


「私は気にしませんが、あちらのユイトには謝って貰って良いですか?」

「え!!?」

「じゅっ、獣人にっ!?」


門番さんは目を丸く見開き、大勢の前で急に水を向けられたユイトは驚いておろおろと周りを見回した。私は立ちつくした彼の腕をぎゅっと掴んで引き寄せる。

彼の方が圧倒的に強くて体も大きいのに、ひどく怯えてるのを見たらなんだか余計にムカムカしてきた。


「ハルカ! オレはいい。いつものことだ。気にしてない」

「私は気にするの! ユイトがいいって言っても私は嫌! まだ全然許してないんだから! 私はいいから、彼に謝ってください」

「い、いや、その。獣人は野蛮で力が強い。尖った耳に、尻尾まであって、まるで魔族だッ。普通の人間じゃねぇ。しかも、そいつは黒いじゃねぇかっ。黒い獣には呪いがかかってる。いつ狂って襲いかかってくるか分からねぇでしょうっ!?」


(ふーん、そういうこと言いますか?)


まあね。差別なんてよくあることです。分かりますよ。

外見が違うもんね。獣人は力が強い? そう。ユイトはとっても足が早いし、なんだってできる。でも野蛮なんかじゃない。魔族とか、よく知らないけど訳が分からない。見当違いも甚だしい。


(それに、黒?)


確かに黒い怪物に襲われたのは怖かった。普通の狼にも苦戦する村の人が、魔獣を相手にしたらそりゃ生死に関わる。

黒髪を呪いだの何だの言いたくなる気持ちはね、理解できないとは言わないよ。


でもッ


私はツカツカと井戸に近づき、置いてあった桶を掴んだ。

中にはお誂え向きに水が溜まっている。振り返れば、観衆となった村人たちは何が起こるかと口々に怯えて囁き合っていた。


――丁度いい。


私は敢えてニッコリと微笑み、彼等の目の前で、勢いよく頭上に桶をひっくり返した。

バシャンッと派手な音と水しぶきが広場に大きく響く。


地面が、服が、派手に濡れて、赤色だった髪から黒い色が露わになった。


「私も黒髪ですけど、何か?」


頭からびっしょり濡れた状態で、私は髪を一房掴んで見せる。

そう、ユイトが辛いときは一緒に戦うって約束したんだから。悪いけど、こうなったら私だけが安全圏にいるなんて我慢できない。


罵詈雑言、ドンと来いですよッ!



――そう、意気込んで構えていたんだけど……


周りはシンと静まり返ったまま、まるで金縛りにでもあったみたいに誰も身動きひとつしない。ユイトも固まってるし。

ただ、アディだけが少し離れた場所で驚いたように目を見開いて、それから肩を震わせてそっぽを向いた。

……ねぇ、なんか笑ってない???


最初に金縛りから解放されたのは村長さんだ。殆ど転びそうな勢いで門番さんに駆け寄り、その頭を思い切り殴りつけた。


「~ッいっってぇ!!!」

「申し訳ありませんハルカ様! このとおり、罰は村長の私が下しますので何卒お許しを! 私の説明が足りておりませんでした。ヤニク、早く謝罪をッ」

「ぁあ……申し訳、ございませ、」

「私は全然怒っていませんが?」


ニッコリ。


そう、私は全然怒っていないのです。ちょっぴり不機嫌なだけで。

アイパッチのヤニクさんはちゃんと気付いてくれたみたいで、ようやくユイトに向き直り、ぼそぼそとした声を絞り出した。


「……申し訳ありません、ユイト様」

「――っ」


ユイトが声に詰まる。助けを求めるようにこちらを向いた彼に、私は手でヤニクさんの方を促した。彼が頷く。その目は凛として強い光が宿っているように見えた。


「分かった。謝罪を受け入れる」


その言葉に、ほっとしたようにヤニクさんと村長の力が抜けた。成り行きを見守っていた村の人々も、ようやく息が吸えたみたいな顔でめいめい肩を下ろす。


私は折角なので、問題解決した三人の間にずいっと割り込んだ。


「別に、今直ぐ考えを改めろなんて思ってませんけど、私の前で彼を侮辱したら絶対に許さないので。そこの所よろしくお願いしますね?」

「「ハイ! それは、勿論!!」」


村長さんとヤニクさん、ついでに村の皆さんが震えあがった。


いいですよ。お偉いさんだって勘違いされているなら、全力で権力に乗っかってやる。

貧乏生活が長いこの私、使える物は何でも使う性分なのです!


毎日投稿がんばります!


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