17.辺境イベドニ村<後編>
前編:12時頃公開 後編:20時頃公開
丘を越えた所でついに村の全貌が見えた。
中世くらいの雰囲気、っていえばいいのかな?
けど、絵本で見るような可愛らしい感じじゃなくて、ユイトの小屋とそこまで変わらないような木造りの粗末な家が並んでる。
ログハウスどころか、その辺で集めた板を張り付けたような、ちゃちな造りだ。しかも所々壊れかけ。
狼が来たら一息で吹き飛ばされそう。
なのに、村を囲む木の柵はいやに背が高くて家より頑丈に見えた。
「……なんか、物々しいね」
「この辺はまだ黒の森に近いからな。魔獣もよく出る」
「灯火草があれば寄ってこないんじゃないの?」
「ああ。でも、咲いている場所は限られているから、無い時は仕方がない」
そういえば、森を出てからあの花を見かけてない。本当にあの場所は特別だったんだなって実感する。
それに――
(ここって、まだ「黒の森の近く」扱いなんだ……)
私の感覚だともうかなり遠くまで来たと思ってたのに。
ユイト基準なのか、この世界の標準なのか知りたい所だ。
村が近いので彼は既に大きな布をマント代わりに頭から被ってる。怪しい風体だし、尻尾や耳の盛り上がりは隠せてないけど、黒い色だけはキッチリ隠れてた。
「ハルカ、オレの事はどう言われても気にするな。食料を交換したら、すぐに出発する。それまでだ」
「それってどういう……」
聞こうとして、村の入り口、私たちを睨み付ける男と目が合った。
色褪せた粗末な服を着て、手には雑な造りの槍。海賊みたいな木の義足とアイパッチを付けて、いかにもな強面だ。
既に拒絶の意思が強いというか、ウェルカムな雰囲気は欠片も無い。今にも刺すぞと言いたげに武器を構えている。
「お前ぇら。村に何の用だ?」
「えっと……私は、貴族で。近くで馬車が事故にあって、迷ってここに辿り着いたんです」
「お貴族様……? それに、奴隷連れか」
一瞬、イラッとしかけた私の肩を彼が小突く。
人を相手にできるかは置いておいて、これくらいなら私でも勝てそうだけど。
慌てたユイトがぼそぼそと耳打ちをする。
「(護衛のために連れてると言え)」
「か、彼は、その……護衛、でして」
「首輪もさせてねぇんか? 困んだよ。獣人なんか連れて。村で暴れられたらどうすんだ。お貴族様が止めてくれるんか?」
「(……直ぐ帰るし、従順な奴隷だから)」
「従順、ですのでっ。食料をいただいたらすぐにでも、帰りますから!」
ダメだ本気でイライラしそう。全力で我慢してるけど、思いっきり怒ってしまいたい。下手に戦闘なんて覚えたせいで、少し暴力的になってる気がする。
槍を持った男は私達をジロジロと見回して、それからようやく、入れてくれる気になったみたい。
ついでに、あからさまな不満顔で舌打ちした。
「……チッ。迷惑かけねぇなら、まあ、好きにしな。ただし、しっかりと見ておいてくれよ。獣人なんて信用できないんだからな」
「ハイ。ホント、もう……。ではっ」
ギリギリ。主に私の忍耐力がギリギリで村の入り口を突破した私達は、門番らしき人から離れた所で、ようやく息をついた。
小声で彼に話しかける。
「(ユイト、あの人最悪っ! 本っ当に感じ悪い!)」
「(いや、普通のヒトの反応はあんな感じだ。それに、今日は隣にハルカがいるから酷くはなかった)」
「(あれで!?)」
「(平民は貴族に逆らえないからな。オレ一人なら村に入る事も出来ない)」
「(もう、食料交換したら早めに出よう! 野宿のが圧倒的にマシだよ)」
外から見た様子と違って、村の中は素朴な家々の間に野菜畑が広がって牧歌的だ。
人の印象は最悪だけど。
まったく――
差別とか奴隷とか、向こうにも無かったとは言わないけどさ。気分は悪い。
ずっとこの調子だったらイル様のセンス疑うよ。
私よりずっっと辛い筈のユイトに体当たり気味に体を寄せる。
「ごめんね。我慢させて」
「大丈夫。オレは慣れてるから構わない」
彼も同じように、でも少しだけ大型犬めいた仕草で体を擦り寄せる。
「もっといい所があれば良かった。でも、オレも、余り良い場所を知らない」
「ユイトが責任感じる必要ないよ。それに、それもこれも、全面的にイル様が悪いんだから!」
「?」
不思議そうな顔。でも、こんな時に怒りの矛先を向けて良いのって神様じゃない?
運が悪かった、生まれが悪かった、不運、運命、そんな言葉で片付けられたくない理不尽の理由になってくれる。
――少なくとも私はそう思ってる。
本当に、凄い力を持ってるならイル様がパパッと全部解決してくれれば良いのに。
擦れ違う村人は皆、私達を見るとオバケでも見たように、そそくさと目も合わせずに離れていく。
ホント嫌な感じ!
もう食糧交換なんて無理かなって思い始めた時――
キャアアアアアアアアア!!!!
村の反対側から鋭い悲鳴が上がった。
「「《武器強化》/《身体強化》!」」
私たちは反射的に武器を抜いて魔法を発動させる。
静かだった村の空気が急激に冷たく張り詰めた。
畑を耕していた人も、軒先で作業をしていた人も、皆が顔を強張らせ声のした方を振り返る。
凍り付いた人々の間を、血のついた服を着た人たちが足を引きずり、必死の形相で走る。
「き、北の森で、狼が出たッ」
「子どもが、薬草を摘みに行ってた子どもが襲われてる!」
彼らの背後には見慣れたグレイウルフの影。
逃げた獲物の背に今にも牙を突き立てる寸前だ。
――行動は、早かった。
私は逃げる人を庇う位置に立って、一閃ッ。
光が一匹を切り裂いたと同時、ユイトが追いかけてきた残りの狼を仕留めたのが見えた。
村の入り口を振り返れば、槍を持った人はオロオロと村の入り口で立ち尽くしている。
(その槍、なんのために持ってるの!?)
でも怒ってたって仕方がないっ。
「ユイト!」
「ハルカ、急ぐか?」
「お願いっ」
同時、
彼は慣れた仕草で私の腰を掴んで持ち上げ、走り出した。
これぞ秘技、人任せ走法!
一緒に走ると彼が私の速度に合わせる事になるので、現状、これが一番効率が良いのだ。
魔力消費は激しいらしいので乱用厳禁。
身体強化をした彼は私の重さなんか感じてないような物凄いスピードで走る
別にこの村に思い入れなんか全くない。むしろ最高にムカついてる。
でも、だからって酷い目に遭って良いなんて思えない!
私は人の悲鳴が響く方向を睨み付けた。
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