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5.叙爵


「これより、叙爵の儀を行う!リデル弓兵教官!前へ!」


 騎士団長の声が静かな大ホールに響いた。いよいよ叙爵式が始まる。

 ルーシーのお陰か、自分の覚悟が決まったからか、足の震えはいつの間にか収まっていた。

 一歩ずつ地面を確かめるように、貴族たちの立っている壇上の前まで歩き、用意されたクッションに膝を着く。


 辺境伯が静かに自分の前に立ったのが気配で分かった。宣誓が始まる。


「リデル、君は王と王国に忠誠を誓うか?」

「私は、王と王国に絶対の忠誠を誓います」


「リデル、君は王と王国の為に剣を振る…いや、弓を取り、矢を放つことを誓うか?」

「私は、王と王国の為に、弓を取り矢を放つことを誓います」


 辺境伯が鞘から剣を引き抜いた。この剣は国王から辺境伯家に与えられたものだ。


「騎士たる者、真理を守るべし、王国のすべてを守護すべし」


 辺境伯が両肩を3度ずつ剣で打ち、剣を鞘に納めた。


「誓いを立てよ」


 顔を上げ、辺境伯から差し出された剣を受け取った。

 受け取った剣は見事な装飾があしらわれた鞘と、国鳥である鷹がポメルとして装着されている、見事なバランスの剣だ。そしてこれから自分の身に掛かる責務が、今まで持ったどの剣よりも重く感じさせる。


 剣を立てて、3度剣を引き抜き、鞘に納める。

 3度全てで静かな大ホールに綺麗な金属音が響いた。


「王の名の下に!王国騎士リデル!!」


 辺境伯の締めの言葉で全ての儀礼が終わったと同時に、大ホールに祝福が満ち、「振り向き、剣を掲げよ」と耳打ちしてくれた辺境伯に従うと、さらに大きな歓声と拍手が巻き起こった。


「これにて叙勲の儀を終わる」


 鳴りやまない拍手の中、騎士団長の掛け声がかかる。


「おめでとう」


 儀礼用の宝剣を返却したところで、最初に声をかけてくれたのは辺境伯だ。


「ありがとうございます」

「これからの君の働きに期待しているよ。後ほど街中の鍛冶屋に行くと良い、君の武器を作るように話を通している」

「分かりました。ありがとうございます」

「では、夜の晩餐会で」


 そこからは立場が上のものから、ひとりひとり手短にあいさつを交わしていく。


「おめでとう」


 貴族の中で最後に来たのはルーシーだった。


「ありがとうございます。ローガン男爵の状態はいかがですか?」

「私が婿を取るまでは、何としても男爵の仕事をすると言っているのよ。無理しないで欲しいんだけど……」


 彼女の”婿を取る”という言葉にどこか心にさざ波が立ったが、それを決して表情に出さないように感情を押し殺した。


「そうですね、子としては親には体を大事にしてほしいですからね。私もローガン男爵の一日も早い回復を願っております」

「ありがとう。マクナイト男爵家もリデル騎士爵の更なる活躍を祈っています。あっ、後でマジックアローの請求しときますから」

「えっ」

「冗談です。では」


 微笑んだ彼女はまるで聖女の如き美しさで、去っていく後姿を思わず目で追ってしまう。


「おい、やっぱり気になってるじゃないか」

「騎士団長!やめてください」


 目の前に立った騎士団長がこちらをからかって来たので、ルーシーに聞こえていないか肝を冷やした。


「そうか、そうか。うん、うん。まぁ、これから俺たちは同じ爵位だ。君の仕事ぶりを期待している。ノルデン騎士団でも新しい役職が与えられるだろう」

「はい。精一杯務めさせていただきます」


 次に登場したのは人に支えられたユーリ弓兵隊長だ。


「この度はおめでとうございます。私はもう騎士団の仕事は出来ないので、代わりの弓兵隊長が見つかったようで良かった」

「そんな……」


 言葉に詰まっているこちらを見て、ユーリ隊長は少し笑い言葉を繋ぐ。


「また、笑えない冗談を言ってしまいましたね。ですが期待しています」

「はい。お任せください」


 その後は次々にやってくる騎士団や森の手の馴染みがある者と言葉を交わし、最後にフレディーが冗談を言って皆を笑わせた所で解散となった。


 だが、今日はこれだけで終わらない。夜の晩餐会の為のテーブルマナーを短時間で叩き込まれて、5人の貴族が居並ぶ晩餐会へと参加した。テーブルマナーと言えど、多少の作法の差異だけで普段の食事と大差ないのだが、貴族社会の中にいきなり平民出身の者が飛び込むのは緊張する。お陰で全く食事の味がしない。


「リデル」

「はい、何でしょう辺境伯」

「君には騎士団の弓兵隊長に就任してもらう」


 ユーリ隊長の言葉通りだった。立場としては、騎士総団長であるナッフート騎士爵の下で、第一から第三までの騎士団長と同格。戦闘の際は弓兵全てを束ねることもある、実質的な副団長だ。


「はい。ありがたく拝命いたします」

「”ヴェンツェル・ナッフート団長”に事務を押し付けられると思うが、頑張ってくれ」

「ちょっと、辺境伯。多少ですよ、多少」


 和やかに進んでいく晩餐会は、貴族も一人の人間だという事を教えてくれた。


「そういえばルーシー嬢、マジックアローの件はいつ王に報告するのだ?」

「これから、リデル卿に聞き取りを行い報告を纏めるので……春の中ごろまでには」

「ふむ、なるべく早く王都に使者を送ってくれ。王国の為だ」

「はい」

「あぁ、あと……リデル騎士爵の貴族教育だが、ルーシー嬢に任せるよ」

「承知いたしました」


 これから行われるらしいルーシーの聞き取り調査と貴族教育の時間に、思わず期待を膨らませてしまうが……どうせ、何もない事は分かっている。と、自分に言い聞かせた。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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