1.停戦
自分達が医務室に運ばれてから、20日程経った頃だった。
「おい!!帝国との戦争が終わったぞ!!!」
息を切らしながら医務室に駆け込んできたカンブリーに、皆の視線が集まる。
「おいおい、嘘つくなよ。王国と帝国なんて俺らが生まれる前から戦争してるんだぞ?」
「そうだぞー、いくらサルキに切られたからって、俺らまで巻き込んで騙そうとするなー」
「本当だよ!」
カールや森の手達の茶化しにも、カンブリーは真剣な表情のままだ。
「……本当に言ってるのか?」
「だから!本当っすよ!!隊長!」
にわかには信じられない。帝国との戦争は何十年と続いていて終わりの見えないものだったからだ。
「あっ!」
カンブリーは驚いた声と共に扉前から退き、その後ろから騎士団長が顔を出した。
「10日振りか。皆、元気そうだな」
「はい、明日には前線に戻れます」
自分の返事に騎士団長は少し口角を上げながら続けた。
「いや、急ぐ必要は無くなった。王国は帝国と”5年間”の停戦並びに不可侵協定を結んだ」
「えっ……」
カンブリーに言われた冗談だと思っていたことが、騎士団長の口から出て来ると真実味を帯びて来る。顔を見合わせる我々を見て、カンブリーは「だから言ったのに」という表情を隠さない。
「本当に停戦だ」
騎士団長は我々が医務室で寝ていた間に起きた事を説明し始めた。
まず南方での戦闘は、王国の第二王子と帝国の第一皇子のものだった。
第二王子を傀儡とし、第二王子の母の実家にあたる南方大公を、本当の指揮官として編成された5000の王国南軍は、帝国軍第一皇子の率いる帝国軍7000と遭遇戦になり”散々に敗れた”。
これは、当初の情報の誤認による戦力の過小評価によるものだったが、そこは歴戦の南方大公であって、素早い軍の立て直しと籠城を行い、3つの城を落とされるに留まり、戦線は膠着した。
次に北方、北方大公を主軸とする北軍は中央平原北側にて3000の兵力を結集、帝国軍5000の渡河に対して猛攻を浴びせて、これを撃退。中央平原北側のレイトリバーの両岸にて、睨み合いとなった。停戦まで、ほぼ倍の兵力を釘付けにすることになる。
さらにその北、我々のカーマイン辺境伯領を目的とした帝国軍2500の侵攻は、カーマイン辺境伯軍600の必死の抵抗によって撃退。ついに停戦まで再攻撃を行う事は無かった。
最後に中央平原南側で行われた、王国と帝国の歴史上最も大きい戦闘。
俗に言う中央平原会戦は国王並びに第一王子率いる王国中央軍14000と、皇帝率いる帝国軍17500が激突、20日間に及ぶ戦闘行為の末に帝国軍が潰走、王国軍が帝国領に大きく侵攻し、大小合わせて15の城を奪った所で、停戦となった。
「……なるほど。という事は」
「そう、これはほぼ我々王国の勝利と言っても過言ではない」
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
思わぬ朗報に全員思わず声が上がった。
「戦争って終わるものだったのか」
そんな感想が出るのも致し方ない程、我々の生活は戦争が付きまとっているものだった。
「確かにな……」
「まぁめでたい事だよ!」
皆一様に首を振る中、サルキの表情が少し曇った。
「そういえば我々はどうなるんですか?」
森の手は忘れがちだが傭兵団だ。戦争が起きていたから、辺境伯に雇われていた側面もあるので、これからの生活が不安なのだろう。
「後からコルソ団長に聞くことになると思うが、契約は継続されるはずだ。北方樹海の対策は森の手に任せきりだしな」
「それは良かったです。団員たちの生活があるので……」
「給金は少し下がってしまうかもしれんがな」
「それでも十分です」
今の話を聞いて、森の手たちも安心した表情だ。
その表情を見て軽く頷いていた騎士団長が、唐突に何かを思い出した顔をした。
「そうだ、本題を忘れていた。10日後の夜、ノルデン城大ホールにて、祝勝会と論功行賞が行われる。お前たちは全員対象になっているから、それまでに体を治しておいてくれよ」
「分かりました!」
「あと、カレリア砦からの撤収は1日1回の輸送隊があるから、それの護衛も兼ねて同行してくれ」
「了解しました」
騎士団長の背中を見送った後、皆で少しの間これからどうなるのかを話し合った。
「騎士団の仕事ってどうなるんだ?」
カールの疑問に答えるのはエドガーだ。
「治安の維持とか、護衛とか、国境警備とか、俺ら騎士団はいつも通り忙しいだろうさ」
「それもそうか。人が増えるわけでも、仕事がすごい減るわけでもないもんな」
「隊長はどうなるんです?弓兵の教官なんですよね?」
カンブリーが話に入ってきた。
「まぁ、訓練しない訳にいかないだろうし、暫くここに居るんじゃないかな?」
「じゃあ、現状はあまり変わらないってことですね」
その後は、平和な世界について語り合ったが、結局この病室にいるのは、戦争しか知らない者達ばかりなので、平和な世界になったらどうなるかを話し合っても、結果が出る事は無かった。
だが、一つ言えた事はしばらく命の危険に自ら突っ込んでいくような真似は、しなくてもいいという事だ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




