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9.疾走


 騎士団長の号令で一斉に動き出した騎士は、立ち塞がろうとする帝国兵をものともすることなく、徐々に加速し始めた。立ち塞がろうとする帝国兵は弾き飛ばされ、踏みつけられ、馬上からの槍に貫かれ、切り裂かれる。

 少しの休息で回復した視界が、帝国兵の一人一人の表情を見る余裕を生ませた。帝国兵は突撃してくる王国の騎士を見て、その強さと速さに畏れを抱き、自分に迫る死を恐れている。


 凄まじい速度で敵の海を割って疾走する馬の背から、騎士団長の背中を通して見るこの光景は、騎士団と騎士という称号にやたらとプライドを持っていた近衛騎士団のくそ野郎共を理解するのに十分なものだった。


 無敵の感覚が体を駆け巡り、全てが格下に見えるのだ。


 今なら何故、近衛騎士団が騎士である事と、剣技や槍術で敵を討ち取る事に、異常なまでの誇りと名誉を求めていたのかが、視界を通して伝わって来る。そして、私を見下すこともなく、偏見を持つこともなかったヴェンツェル・ナッフート騎士団長とノルデン騎士団の人間の良さもだ。


「もう少しだ!」


 風に流れて伝わって来た先頭の声に反応するように、騎士団長の背中が膨らんだ。


「このまま進め!!あと、ひと踏ん張りだ!!」

「「「おう!!」」」


 耳が痛くなりそうなほどの大音声が、周りに響いた。


「……はどうだ?」


 騎士団長が背中越しに話しかけてくる。


「はい。見たことがないものです」

「ん?いや、体は大丈夫か?」

「えっ!?」


 光景に見とれていて、見当違いな返事をしてしまったようだ。


「体の痛みを忘れるほどこの景色が良かったか?」

「はい、戦場では馬上に乗る事は有りませんから」

「騎乗騎士になりたいか?」

「いえ、向いてません」


 これは本心だ。

 今、この不敵の感覚を味わうことが出来ているのは、騎士団長の背中にいるからだろう。もし自分一人が乗って敵に突撃したものなら、あっという間に馬上から叩き落されてしまいそうだ。


「そう思うぞ。その弓の腕を持っているのに、活かさない手はないからな」

「自分の性格にもあってます」

「だが、南の砂漠では騎乗弓兵隊なる部隊がいるぞ」


 昔小耳に挟んだ話だが、南の砂漠には短弓を用いて砂漠を駆け巡る騎乗弓兵なる者がいるらしい。


「ノルデン騎士団でも編成をして……生かす地形がないか」

「辺境伯領は守りの戦いが多いという話でしたね」

「そうだな。あとは……叙爵されて馬に乗る立場になるかだな」


 今まで功績を積み上げて来て、叙爵という話にはほぼ興味が無かったが、この景色を味わう立場になれるのならば、悪くないのかもしれない。


「興味があるのか、意外だな」

「少しだけ」

「この景色は忘れられないからな、その気持ちは分かる」


 騎士団長は、紛れ込んだ帝国兵の喉を的確に槍で貫きながら言った。


「さぁ、もうすぐだ」


 疾走する馬群は、敵と味方が入り乱れて戦っている前線へと突入しようとしている。


「どけぇぇい!!!!」


 敵味方が上げる悲鳴や怒号をかき消す騎士団長の大音声は、必死に目の前の敵と戦っている帝国兵と王国兵両方にこちらの存在を気づかせるのに十分だ。

 慌てふためきながら王国兵の海が割れて、あっという間に帝国兵のみになった所に、先頭の騎士たちが踏みつぶすように突入していく。そして倒れた兵士の体の上を我々が踏みつけて通ると、低い悲鳴と共に足元で敵が絶命していった。


 我々が王国兵の裏側まで抜けるとカレリア砦の正門が開き、内側まで止まることなく突っ込んだ。ゆっくりと減速する馬群は、馬上で静かに待つラスティラヴァ・カーマイン辺境伯の元へ着いた。


「……ご苦労だった。報告を」


 周囲を帝国兵が囲んでいない空間が久しぶりで、辺境伯が促すまで馬を降りてから随分と呆けていた気がする。


「リデル以下……8名、帝国軍指揮官を討ち取り、只今戻りました」


 周囲にどよめきが広がるが、辺境伯は真顔でこちらを見据えたままだ。


「間違いないか?」

「はい。間違いなく上半身を吹き飛ばしました」

「……素晴らしい働きだ。皆、ご苦労だった。この戦いが終わった後に、働きに相応しい褒賞が与えられるだろう!だが、まずは医療班より治療を受けよ」

「はっ!」


 辺境伯は次の指示を飛ばし始めたのだが、目の前で跪いていた我々8人は報告が終わり、体の力が一気に抜け、辺境伯が離れた後もその場を動くことが出来なかった。

 動くことを諦めて胡坐をかいて座り込むと、開け放たれた正門の奥の戦場が目に入って来る。徐々に王国兵が後退し、それを押し込むように帝国兵も前進してきたところを、火魔導士が地面に撒かれた可燃物に火をつけて、帝国兵を焼き殺している。分断されてカレリア砦側に残された帝国兵は、反転した王国兵に、火の海へと追い落とされていった。

 無事に分断に成功した王国側は、悠々とカレリア砦に歩兵を撤退させて城門を固く閉じ、戦場に静かな空間が戻って来た。久しぶりの静けさと、カレリア砦に到着した安心からか急激に疲労が体を襲い、その場で横になる事にした。


 吹き抜けるような青空だった。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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