5.敵中突破
息を切らしながら走り抜ける我々の前に、次々に帝国兵が立ちふさがっては空を舞う。空中に力なく放り出される帝国兵が、カールの別格とも言える突破力を示している。先頭を走るカールが疲れると、彼の小隊員や森の手の者達が交代で先頭に入り、選抜された圧倒的な膂力で立ちふさがろうとする者達を吹き飛ばしていった。時折自分も隙間から矢を放って彼らを援護する。
「だぁ!!中々きついなぁ!」
休憩のために後ろに下がったカールが、自分の隣に並び息を上げながら愚痴をこぼしている。
「厳しいのか!?」
「前線に近づくにつれて、鎧を着ている奴が多いんだ!簡単に飛ばせない!」
「そこを何とかやってくれ!」
「分かってるよ!」
カールは暫く休憩すると交代で先頭に戻って行った。
敵陣の半分まで到達できただろう所で、いよいよ敵の装備が充実してきて簡単にはいかなくなってきた。隊形の中央を走る自分とパウラの両隣には騎士たちが走っているが、一人、また一人と横っ腹を槍で突かれ、ショートソードで切り付けられ、隊列に付いて来れなくなっていく。名前を訊くことも出来ていない騎士たちだが、我々が走り続けるために負傷しながらも後ろの敵に突っ込んでいった。
その覚悟を無駄にしない為に我々も全力で走っていくのだが、次々に襲い掛かって来る新手にいよいよ限界がきて進行速度が遅くなってきてしまった。負傷した者たちが足止めしていた後ろの敵も、追いつき始めて来る。
これは判断を間違ってしまったのかもしれないという後悔が、一気に襲い掛かって来た。
もし、乗騎を用意できていれば、歩兵しかいない帝国軍を振り切れたし、突破ももっと容易だっただろうか。いや、最後に馬を見たのは敵のカレリア砦より帝国側だった。この山間の狭い道に馬を持ち込む意味はないから、馬に乗っているのを見られた時点で、作戦は失敗していただろう。意味のない思考だった。
「隊長!」
声をかけてきたのはラフとラナーそれにクレスだった。彼ら獣人は人間並みの持久力と動物並の圧倒的なスピードを持っているからか、息が全然上がっていない。自分達騎士団の人間と並走するのは、彼らにとってはゆっくりジョギングしているようなものなのだろう。
「ハァ、ハァ、どうした?」
「俺らに任せて下さい」
走りすぎて頭がぼやけているせいか、彼らの言っている意味が理解できなかった。
「ど、どういう意味だ?」
「私たちが敵を足止めします。前に進んでください」
「待て、お前らを見捨てるような事は出来ない」
息も絶え絶えの自分のひどい表情とは違い、3人の表情にはどこか晴れやかなものを感じる。そしてクレスが口を開いた。
「私たちは、この為に付いてきたんですよ」
「なにを言っている、皆で帰るぞ!」
「隊長も分かっているでしょう、せめて後ろの追撃を足止めしなければ終わりです」
「そ、それは」
「私は帝国領側で生まれた獣人ですが、いつの頃からか帝国では人間以外は生き物ではなくなったのです。私の両親も兄弟も王国領に着くころには帝国に殺されて、居なくなってしまいました。ラフとラナーの部族も敵対部族と争う事になったのは、帝国が定めた地域の獣人の数を制限する法律のせいです」
「……」
「我々が足止めします。その為に帝国に恨みを持つもので小隊を選抜しました」
「待て!」
「ご武運を」
クレスは速やかに最後尾まで下がっていくと、彼の小隊を率いて足を止め、追撃してくる帝国兵と相対する為に振り返った。その様子を目で追い続けるが、彼らの姿はあっという間に見えなくなっていった。
少しの間、クレスの足止めのお陰で自分達の後ろに余裕が出来た。それでも、次第に両側の騎士たちが剥がれ落ち、両側に10人ずついた騎士も今は減ってきている。
「隊長!!俺もいきますね」
「おい!ラフ!!待て!!!」
「向こうで会いましょう!また俺らにワイルドボアでも捌いてください」
「おい!!」
今度はラフの小隊が敵を食い止めるために、足を止めて交戦し始めた。両側の騎士も、後ろを護っていた森の手の人数も少なくなったことで、振り向く度にその姿が見える。だがそれも帝国兵に遮られた。
「だぁ!畜生!!!カールどうだ!?」
「んだぁ!?まだ敵しか見えねぇよ!!」
「もう10踏ん張りしてくれ!!」
「言われなくても!!」
大きな犠牲を払いながらも、我々は敵陣の3分の2ほどを突破したことが、見覚えのある山の形で分かる。最後の山の裾野をぐるりと回れば、我々のカレリア砦が見えてくるはずだ。
先頭を走るカールの小隊も、森の手も数人が斃れた。できた隙間から帝国兵を撃ち抜こうと、走りながら矢筒を探るが、既に矢は尽きていたようで、手が空を切る。弓を体に通して、短剣を引き抜き、騎士の間から飛び出してくる帝国兵を切りつけ、パウラに手を伸ばした男の手首を切り落とす。
「もうすぐだ!耐えろ!」
我々は山の折り返し地点まで来ていた。
「隊長!じゃあ我々もいきます」
「おいラナー!!あと少しだろうが!!」
「ケツに食いつかれる前の最後のひと踏ん張りです。ラフも待ってますし!最近意外に楽しかったすよ!」
「……分かった。いつか向こうでな」
「はい」
視界の隅に映っていたラナーが消えた。今度は振り返らない。いや振り返ることが出来なかった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




