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2.夜明け


 動きの話し合いは、最重要な点以外はすぐに終わった。


「残るは、カレリア砦に対する合図と、指揮官の特定、そしてこの敵陣から離脱か」


 出発前、辺境伯や騎士団長を交えた話し合いの時に決めたのは、あらかたの流れと、敵の陣地となっている筈の広場に数人が潜入し、天幕に火を点け指揮官をあぶりだすという方法だ。細かい動きや人の動きは、現地に到着して臨機応変に対応することになっている。


「おそらく、この様子だと問題ないでしょう。多少予定は遅れましたが、夜明けに到着できるのであれば、狼煙代わりの天幕の炎上による煙が見えるはずです」

「それに誰を向かわせるか、あと待っている俺たちはどう隠れるかだな」

「それは私と私の配下が行きましょう」


 自分の右隣を歩くエドガーが名乗りを上げた。視線をエドガーに向けると、その表情には覚悟が見える。


「いいのか?一番重要で、一番危険だぞ」

「森の手の獣人が敵陣に居たら大騒ぎになりますし、カールを行かせたら、アイツは自分が倒そうとしますよ」


 その主張には納得せざる負えない。小細工が面倒臭くなって、指揮官のテントまで案内させたら衛兵を戦鎚で潰し、そのままハンマーを振り回して討ち取ろうとするだろう。だが、敵指揮官の周りを固めている兵士がそんな簡単にやられる訳がない。


「援軍として到着したので、挨拶と指示を貰いに行くという設定で行こうと思います。恐らく陣地前には衛兵が立っているでしょうから、案内してもらいつつ、適当な所で始末します。あとはバラバラに動いて火をつけて回ります」

「こっちも衛兵は始末しよう。陽が昇った状態で近くで森の手が見られるのは芳しくないしな。だが、いいのか?それくらいなら、カールじゃなくとも他の者達でも出来るだろ?」

「火をつけて回ったら、適当に敵襲を触れ回ります。私なら帝国貴族の紋章を見れば家名が分かるので、裏切りを叫び同士討ちさせましょう」

「なるほどな、それはエドガーじゃないとできない芸当だ。そうしたら最後に、俺が丘上から指揮官を見つけて撃ち抜く」

「帝国の野営陣地の立て方は、一番中央を軍議所、その右手に指揮官の天幕と相場が決まっています。が、あとは隊長の”目”次第ですね」

「なるべく明るい方が嬉しいんだがな。獣人みたいに夜目が効くわけじゃない」

「そこは何とかしてください」


 何とかするしかないのは重々承知だ。

 これまで何度触れたか分からない、大事に持っているマジックアローに手を伸ばした。取り出して二つの玉を撫でて、確かにそこにある事を確認する。この細い一本の矢が、辺境伯領と自分の未来を背負っている。

 

「脱出方法だが」

「予定通り、カレリア砦から打って出て来てくれることを前提として、話を進めましょう」

「狙撃後、エドガーたちが合流したら一気に的中突破を図る。マジックアローは狙撃で使い果たすから、力で強行突破することになる。森の手とカール頼みだ」


 いつの間にか後ろのパウラの横にウィルが来ていた。


「我々は騎乗していないので、馬が有れば盗みたいですね」

「出来たなら、生存率は上がりそうだな」

「それはいらないと思いますよ」


 エドガーが否定すると、隣のサルキも同意するように首を振っている。


「ん?何故だ?」

「私が合流したら、味方の裏切り叫びながら戦場を駆け抜けて行きましょう」

「そういうことか」

「この時騎乗していない方がより切迫感がでますし、我々の中途半端な帝国鎧の着方も、起き抜けで焦っているように見えると思います」

「そこにカレリア砦からの攻撃で敵は混乱すると」

「必ずどこかで気付かれるでしょうし、止められるとは思いますが」

「そこからは全力で突破だな」


 ある程度話に片が付いたところで、エドガーを始めとする小隊指揮官が散っていった。自分の部隊に作戦を伝えるためだ。


 山の間から見える狭い冬の夜空は、星が降ってきそうなほど光り輝いている。息をするたび肺を突き刺すような、冷たく乾燥した空気が、緊張で発熱し始めた体を冷やしてくれている。

 この夜空を見たところ、明け方までは晴れてくれるだろう。”雪が降って敵将が見えません”なんて事態は避けれそうだ。それに乾燥した空気はよく天幕を燃やすだろう。


「おい、さっきの会話聞こえてたからな」


 いきなりカールから話しかけられた。


「何のことだ?」

「俺は命じられた作戦を、無視することはしない」


 エドガーとの会話でその話が出たことを思い出した。カールも小隊の指揮官なので当然話は聞いている。


「あー、カールは命令を無視するなんて、俺は言ってないからな!」

「冗談だ。まぁなんだ、帰り道は俺が切り開いてやる。隊長は狙撃に集中してくれ」

「あぁ、助かるよ」


 カールほど粗野な男の口から、下手な冗談と隊長という敬称が出てくるとは思わず、少し驚いた。これは彼なりの励ましなのだと、受け取っておこう。

 カールの発言を最後に無言の時間が続き、暫く歩いた。静かに皆の神経が研ぎ澄まされていくのが分かる。


「見えた」


 誰かが呟いた言葉に顔を挙げると、最初の天幕とその奥に続く無数の白い天幕が見えた。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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