24.渓谷へ
そこからカレリア渓谷に向かうまでの2日間は、最初の1日目を除きしっかりと睡眠を取りながら進んだ。
特に追手がいることも、逆にカレリア砦の方面から来るものもいなかった。誰にも遭遇していないのは、何故なのかは分からない。普通連絡や兵站の為に少しは行き来があるものだと思っていたが、ダルダリン城は余程孤立しているらしい。これは自分達にとって都合のいい事だ。
「あれは?」
2日目の太陽が中天に達する頃、先頭を歩く自分の目に、山の切れ間にある木でできた城壁が飛び込んで来た。隣に並んだパウラも目を細めてみているが、首を傾げている所を見ると分からないらしい。
「渓谷には、まだ到着しないはずなんだけど」
足を止めた事で後ろから追いついたエドガーも、疑問を浮かべている。
「俺たちが、道を間違ったわけはないよな……」
「ないですよ、ずっと隣にアイボリー山脈を見上げたまま来ていますからね」
だとすると余計厄介な問題なのかもしれない、街道はその砦の近くを通る事になっている。もしこれが新しい敵の拠点であった場合、第二のダルダリン城並みの厄介さだ。
「仕方ない、先行して様子を見てくるぞ。別に街道をまたぐ砦という訳でもなさそうだ」
「何かあった時の為に私も同行しましょう」
「では指揮権はサルキに」
「了解」
サルキが部隊をまとめ始めるのを片眼に見ながら、エドガーが自分の小隊を集めた。自分とエドガーの部隊を含めた6人が小走りで近づくと、城や砦というより大きな村の周囲を囲む、簡素な丸太の壁というような印象を持つ建物で、城門の前に二人の男が立っているだけだ。二人ともこちらの姿を見ても特に警戒をする様子はなく、自分たちの談笑にすぐに戻った。
「どうもー」
「こんにちは!こちらはカレリア渓谷で合ってますか??」
「え、いやいや!違いますよ。ここを知らないんですか?」
一瞬にして少しこちらの様子を伺うような、怪訝な顔になってしまった、わざと知らないふりをしたのは失敗だった。
「すいません。コルテス家から援軍に来た田舎者でして、ここら辺は知らないのです」
「あぁ、コルテス家」
「ガリタニア湖北西の村から来ました」
「いやー、それは遠いですね。カレリア渓谷ならこの少し先ですよ、半日くらいで到着すると思います」
「そうなんですか!ありがとうございます……ちなみにここは?」
「あぁ、物資の集積所の一つです。南にも同じようなのが有りますよ」
「なんでこんなところに?兵站は南側からでは?」
「分散する為らしいですけど、敵がこんな場所に到着する前に、ダルダリン城が防ぐでしょう?」
「ハハッ、それはそうですね。ありがとうございましたー、それじゃあ引き続き向かいます」
「ご武運を」
少し見せた警戒も直ぐに解け、拍子抜けするほど緊張感のない衛兵たちに別れを告げて、無事に話を終えて部隊の場所に戻ることが出来た。
「物資の分散集積所だそうだ」
「燃やさなくていいのか?」
こちらにトラブルが起きたら駆け付けるつもりだったのか、最後尾にいた筈のカールが最前列まで来ていた。血の気の多い彼が物騒なことを言っている。
「そんなことして、俺らの存在をわざわざ敵に知らせる必要ないだろ?」
「確かに、隊長の言う通りだ」
また進み始めた我々の目に、カレリア砦があるカレリア渓谷が入って来るのは、そう時間がかからなかった。
渓谷の入り口には簡素ではあるが、太い丸太を大量に使った城壁と城門が作られている。これは帝国側にとってのカレリア砦の様な物で、帝国側も自分達の方を”カレリア砦”と呼んでいる。
この帝国側のカレリア砦が、我々にとっての最後の難関だった。この砦と言えばいいのか、関と言えばいいのか分からないが、王国側から帝国に向かう正規の道を護るこの砦は平時は300以上の兵員が常駐している場所だ。正面から突破するのは、1000以上の軍隊を編成して攻撃しなければいけないと言われているが、背後から通過する今回はどうだろうか。
「どうやって突破しますか?」
「普通に正面から堂々と行くぞ」
「森の手は大丈夫でしょうか?」
「なるべく集団の内側に入れて隠せ」
徐々に近づく我々を城壁の上から見つめる目は、これまで通って来たどの敵拠点よりも数が多い。だが、今まで大量の拠点を通過してきたからか、ダルダリン城で浴びたような疑いの目は比較的少ないように思える。
少しづつ大きくなっていく城壁に使われている丸太は、近づいてみるとかなり太い事が分かる。自分が手を伸ばして両端にやっと届きそうなこの木は、どこから持ってきたのだろうかなどと、余計なことを考えている内に、砦の前まで到着した。
「こんにちわ」
門番をしている4人の男達から最初に掛けられた言葉は挨拶だった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




