20.背面
久しぶりに樹海の外に出ると、街道は雪が踏み固められていて歩きやすく、更には兵站の為に頻繁に馬車が通っていることが分かる轍が、深く雪の上に刻まれていた。
スノーシューを外し帝国兵らしくするために、王国らしい装備を隠して整列した。ここからは、帝国然として行軍するのみだ。
50人は一列で並び最前列は自分とパウラ、最後尾はカールが守り歩き始めた。帝国領側で一番北側のこの街道は樹海に対して平行に始まり、ダルダリン城と呼ばれる帝国で一番北東側の城に突き当たると南に折れて、敵軍の後背面まで出る。
ダルダリン城は”城”という名を冠しているものの、実情は砦というのも大げさな程の拠点で、今回も敵の補給拠点となっているのは3日ほど南に下った城だ。とはいえ、今回に関しては敵がある程度配置されている事は間違いなく、どうやってダルダリン城を切り抜けるかが、敵の後背面に到着するまでの一番の関門だった。
「歩きやすいな」
「そうね、樹海の中にそれなりの人数がいたし、毎日この道を使って動いてるのね」
「あと、北側の諸侯がこの土地に兵站を届けようと思ったら、この道を使うだろうしな」
先に進み人の姿が見える度に、毎回心臓が飛び出そうなほど緊張するが、時々すれ違う地元の人が「また動員か」というような目でこちらに一瞥をくれるだけで、特に怪しむ様子もない。むしろ、なるべく目を合わせないように、絡まれないようにと自分達から目をそらしているようだった。
樹海を出てから初めて見た村で食料を買い足し1日目は野宿となり、街道沿いから少し外れた場所で天幕を張り一夜を明かした。
「ちょう……隊長!…隊長!!」
「どうした?」
朝っぱらからエドガーが起こしに来るのは珍しい。普段は寝坊しないのだが、珍しくしてしまったのだろうか、などと考えながら身を起こすと、焦った表情のエドガーが天幕の入り口で立っていた。
「まずいです」
「ん?なにがだ?」
「帝国兵が……来てます」
目が一気に覚めた。これはかなりまずい状況で、下手したらここで戦闘になってそのまま一気に走り抜けることも選択肢に出て来る。
「何人だ?」
「10、まだ獣人達は見られていないです」
「分かったすぐに行く、もし起きてきそうな気配の有る獣人が居たら、なんとしても留めろ。絶対に帝国兵の視界に入れるな」
「……了解」
慌てて出ようとしていつもの格好をしそうになるが、ここは帝国領内で天幕の外には帝国兵がいる事を思い出し、帝国の鎧を身に着けた。着慣れていないのもあって身に着けるのに手間取り、時間が掛ってしまった。
焦りを表に出さないように、悠々と外に出ると昨日に引き続き空に雲は無く、外は明るくなり始めたばかりであったが、雪に反射してすでに十分な明るさを持っていた。帝国兵は我々の野営地の一番街道側に集まって、厳しい表情をこちらに向けている。帝国兵の敵意を隠さない顔に、腰の短剣だけでは物足りず、天幕の中から弓を取り出し身に着けた。
「おはようございます。どうされましたか?」
「あなたがこの部隊の隊長か?」
「そうです」
「これはまた随分お若い」
「機会に恵まれまして」
「さぞ優秀なのでしょう」
「ありがとうございます。してこんな朝から用件はなんでしょうか」
「これは失礼。私たちはフィカオン伯爵軍に所属している巡視隊で、隊長の……」
自己紹介は耳に入ってこなかった。フィカオン伯爵と言えばカーマイン辺境伯領と領地を接する帝国の貴族でここら辺一帯を支配する家だ。今回の主戦力の一つであるということを、以前騎士団長から聞いたことがある。そして、領地を接するここら一帯を支配しているという事は、警備も当然彼らの役目だろう。
「……です」
「あぁ、なるほど。巡視でしたか。私たちは……コルテス家です」
巡視隊長はこちらの装備をなめるように見ているが、身に着けている装備もコルテス家の部隊から奪ったもので、矛盾することはない筈だ。特に不審なところは見つけられなかったのか、次の話題に移った。
「コルテス家ですか、何用でこんな所に来られたのですか?大分前にお仕事は終えられたのでは?」
「当主様は不十分だと考えたようで、少ないですが我々を援軍にと」
「なるほど。見た所50はいそうですし、コルテス家の手勢は十分になりそうですね。いやいや疑って申し訳ない。私たちも仕事なものですから」
少し雰囲気が和らぎ、このまま切り抜けられそうな雰囲気が出て来た時、空気をまた戻すような事が起きた。
「今前線にいるコルテス家の指揮官は誰でしたっけ?そういえば旗もないですよね」
全く知らない質問が出てきてしまった上に、旗を持っていないのを怪しまれてしまった。帝国は騎士団以外も旗を持つのか……
「すいません。自分もいきなりの抜擢だったもので……軍に合流できれば分かると言われまして」
「コルテス家にしては珍しくテキトウですな」
「旗も貰っていません」
「えぇ、合流するのにですか?」
「おかげで、他の部隊に会う度にこんな問答を繰り返していますよ」
巡視隊長が目を細めてこちらを見る。その眼には疑いが宿っていた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




