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19.偽装


 空から舞い降りて来る小降りの雪が完全に上がり、またもや夜の気配が迫っている。この敵地においては、いつもは視界を阻害する雪も、視程を短くする夜も、我々の数少ない味方だった。

 おおよそ3刻は雪に囲まれていただろうか。内眠れたのは1刻だが、疲労と睡魔は幾分かマシになっていて、体が軽く、目の疲れが少なくなっている。


「おはようさん、隊長」


 隣には、カールがでかい図体を窮屈に丸めながら、見張りをしていた。


「おはよう、あと……1刻もしない内に暗くなりそうだな」

「そうだな、暗くなってから動くか?」

「パウラ、どう思う?」

「多分……多分だけどあと2日か1日くらいで、樹海と平原の境界に到達できるはず。そこに到達する前に休憩を挟むかどうかで変わると思う」


 樹海より圧倒的に人との遭遇率が高い帝国領内の平地を、疲れた状態で歩くのは避けたい。たぶん誰かしらかが、怪しい動きをしてしまいそうだ。


「樹海の境目で休憩できそうなところはあるのか?」

「流石にそこまで近い所はないけど、少し手前になら知ってる場所がある」

「そこまで行こう。そこで少し休憩したら、帝国領内に入る」

「じゃあ、もう少しここでゆっくりしてもいいかも」

「2刻いけるか?」

「大丈夫」


 それじゃあ、と目を閉じ、もう一度開けると周囲は完全に夜になっていて、今度はパウラが見張りをしていた。前回起きた時に見張りをしていたカールが今度は、ぐっすりと寝ている。顔に何重にも布が掛かっているのは、パウラがいびきを抑えようとした結果だろう。こもっても大きな寝息といびきが聞こえていなければ、死んでいると勘違いしてしまいそうだ。


「窒息してないよな、これ」

「そんな大きな音出してしてると思う?音が響いて怖いからそうしてるの」

「まぁ……いいか。よし、そろそろ出よう」

「周りには敵の気配がないから、いつでも行けるよ」

「おい、カール行くぞ」


 カールを揺らすと、熊のような声と共に目を覚まし、顔の上の布を避けている。その様子を見て自分とパウラから久しぶりの笑い声がこぼれた。

 夜が深くなっていくごとに、樹海の中は完全な闇に包まれていく。上空から降り注ぐ星明りは木々に遮られ、月明かりでさえ届かない。わずかに木々の間から漏れる明かりと、自分の夜目を頼りに歩くしかないのだ。冬で足元に雪が積もっているので、歩きやすいのが救いだ。これが夏であれば、木の根に足を取られて移動どころではない。


 しばらく暗闇の中歩き続けたが、一向に敵に遭遇する気配は無かった。こちらが気付いていないだけかもしれないが、少なくとも騒ぎにはなっていない。今回は森の手得意の索敵が出来ているわけではないが、遭遇しないのはひとえに、パウラが上手く避けているからだろう。

 今回活躍の場を奪われているサルキが、癖で時々鼻を使おうとして空の臭いを嗅いでいるが、諦めたように首を振っている。それも当然で、森の手は我々大人数の人間と同行していることで、鼻が利かず索敵できていない。今回は先行することも出来ていないので猶更だ。


 次の休憩ポイントに到着したのは、朝日が昇った頃でそこから夜にかけての時間は休憩とした。各自出来るだけ交代で睡眠を取った。寝ることが出来たのは、木の下にいることで木の葉が太陽の光を遮断してくれるからだった。


「パウラ、あとどれくらいで平原に出るんだ?」

「今出ると、朝までには必ず」

「だとすると、もう偽装した方が良いな」


 周りに指示を飛ばすと雪の中から鎧の金属音が聞こえ、見えない中で着替えをしていることで、時たま誰かが頭をぶつけているのか、木が揺れていた。この状況を見ている者が居たら、明らかに怪しいが仕方がない。

 少しの後、静まり返った冬景色の樹海の中に姿を現したのは、帝国の鎧を装備した50人だった。


「おい、似合ってるぞ」

「はっ!どこがだよ!」


 少し前の木の袂から這い出て来て、軽口を言い合っているのは、声からしてラフとラナーだろう。顔はヘルムとマスクに隠れているが、よく見たら顔の形と毛の深さでバレてしまうだろう。

 だが、この不十分な偽装でも十分だ。獣人と人間が一緒にいるだけで怪しまれる帝国領内では、とにかく少し見ただけ、遠目に見ただけでは分からない工夫が大事だ。近くでまじまじと見られるような事になれば、それはもう怪しまれている。


「装備がバラバラだな」

「仕方がない」


 数少ない鎧を分けているので、チェストプレートだけの人間や、頭の装備だけの森の手なんかも存在するが、平民が徴兵された時になけなしの装備を着てきたと想像すれば、ごまかせそうだ。

 

「さぁ、敵さんを騙しに行こうか」

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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