17.復讐心
予定よりもかなり早く、日没とほぼ同時に到達した場所には深い樹海の中には、似つかわしくないほどの立派な建物たちがあった。丸太をくみ上げたログハウスのような家が、どこかの村の役所になっていてもおかしくない大きさのものが一つに、半分ほど小さい建物が二つある。
「随分と立派だな。村みたいだ」
「印象と違った?」
「そうだな……エルフと言えば、もっとこう……ツリーハウス?とかで生活しているかと」
「そういう文化を持つ部族も勿論いるけど、比較的樹海の浅い所に住んでいた私たちの部族は平地」
「木の高さとかの問題?」
「そう、結局地上にいるのと変わらないからね」
パウラは自分達に平静を装いながらも、既にこの世に存在していない彼女の故郷を懐かしむかの如く、少し悲しげな表情で説明してくれた。
「はい!じゃあ取り敢えず屋根の雪下ろしと雪かきをしてね!このままじゃ使えないし、建物は潰れちゃうから」
沈みそうになってしまった空気に、パウラが号令を出すことでまた活気が戻った。松明と50人の力で出入口や屋根の雪は、そう時を経たずして無くなっていった。
建物の中は時間が止まったかのように、静かでつい最近の使用が認められるような状態だった。昨日までここを誰かが使っていたとしても、納得できるような空気が漂っている。だが、近づいて帳簿などを見てみると、そこにはホコリが積もっていて、時の経過を感じさせた。
ここに何度も来たことのあるであろうパウラはというと、どれもこれも一つ一つを懐かしむように、愛おしむように、撫でていた。その様子を見ている周りの者達は、自分達が夕食を作り始めていいものか、動くに動けない様子だった。
「パウラ、ここは帝国の奴らに荒らされなかったんだな」
「えぇ、少しでも苦労させてやろうと思ってね、皆と一緒にもっと樹海の奥の厳しい道を案内した。だからここには来ていないんだ。存在さえ知らないと思う」
「そうか……雪で潰れていなくてよかった」
「もう少し遅かったら危うかったかも、私たちにとって幸運だったね」
「なぁ、そこの竈とか調理器具は俺たちが使っていいのか?それとも外で焚火の準備をしようか?」
「全部使っても大丈夫だけど、この人数には足りるかな?」
「他にも建物があるんだ、何とかなるさ」
「そうね」
パウラの許可を貰えたことで、止まっていた時が動き出したように、食事の準備が始まった。久しぶりにありつける温かい食事に期待を膨らませて、テキパキと動いている部隊員の料理担当達をおとなしく見つめた。
久しぶりの暖かい飯は、冷え切った体に沁み込むものだった。いつもであれば干し塩肉を入れたスープは塩っ辛く不味いものだが、今日に限っては宿場の主人自慢の料理として出されても文句が無いほどだ。釘を打てそうなほど硬くなっているパンも、スープに浸して食べるだけで、朝市に並ぶ焼き立てのパンのような風味を感じた。
そして極めつけはこの建物だ。ところどころホコリを被っているが、内装はそこいらの山小屋や猟師小屋よりもよっぽど立派で暖炉まである。煙突は煙が分かりづらく排出されるように工夫されていて、この場所を発見されることを防いでいるらしい。そこら辺の村にはないような建物に、樹海の中で泊まることが出来る我々の幸運を喜ぶしかない。
パウラ曰く村が焼け何も残っていない自分は、この建物をどうにかして管理して維持したいとのことだった。彼女は名残惜しそうに周囲を眺め、このまま残りたそうにしているのだが、このまま置いて進んで行く訳にもいかず、何とか説得してこの日は終わった。
次の日少し俯き気味なパウラを伴って出発した我々は、どこでも変わらない樹海の中の景色を眺めながら、ひたすら北方樹海の中を南下していった。もしパウラが居なかったら、土地勘のない自分達はすぐに、この立派な木々たちの肥やしになってしまいそうだ。そして、そのうち少し大きな川に行き当たった。
「この川は帝国側の樹海で一番南にあるの、これを超えたら帝国側の兵士に遭遇してもおかしくないと思って」
「分かった……いこう」
凍った川の表面を滑るように慎重に数人ずつ渡って進む。先に到着した時にパウラが話してくれたのは、普段帝国が樹海に侵入して来たときにする動きについてと、普段帝国が置いている哨戒ポイントの話だった。随分と大事な話だったが、パウラが全て避ける動きをしてくれるらしい。完全に彼女におんぶにだっこだ。
「まぁ、任せてよ」とつぶやく彼女の目には今朝の寂し気な雰囲気は無く、どちらかと言えば、帝国に深い憎しみを抱いた、復讐心を隠しきれていない目をしていた。
「俺たちにも任せてくれ」
「え?」
「必ず君の家族と友人とエルフたちの仇は取る」
「それは……ありがとう」
「一人で背負いすぎるな。俺もそうだし、ここにいる50人は味方だから」
「あぁ」
そのまま前進を続けた我々は、樹海の中で野営することになった。本格的に帝国の支配地域に入ってきたことで、焚火を起こすのに煙を隠す工夫をしなければいけないのは大変だった。明日からは更に近くなる。火を扱う事さえ許されないだろう。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




