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14.巨体


 ウィルは、大きく頷きゆっくりと踏み出した。彼の後ろ姿は緊張で少し硬く見える。

 ロープが伸び切らないくらいで、後続の自分達も出発だ。スノーシューを履いていると違和感があり、この状態で走ることが出来るか不安になる。

 その不安はウィルも感じているようで、時たま足を高くあげたりして動きを確認していた。正直なところは、この状態で野生動物の動きから逃げきれそうな気がしないのだが、スノーシューがないと新雪の中をラッセルすることになるので、履かないよりは大分マシなのだ。


「騎士団止まれ!先行隊以外ここで待機!陣形シールドウォール!」


 2000フィート地点にある一つ目の雪庇の手前で、騎士団が足を止め。シールドウォールを尾根一杯に展開し始めた。その姿を確認して前進を再開するが、ウィルは緊張で白い樹海熊から目を離すことが出来ておらず、少しロープが張り始めている。


「おっと、もう少しウィルに近づこう」

「はい」


 少し速足で歩きながら一つ目の雪庇を観察すると、何層もの雪が重なり尾根からはみ出した庇は、人間一人や二人が乗っても崩落しそうなほど脆く見える。その上にいるものは、深い新雪を掴むことも出来ず、谷底に落ちていくだろう。


「パウラ、この雪庇に人間が乗っても大丈夫なのか?」

「一人や二人くらいなら……多分。正直わからない」

「ウィルだけ落ちて、白い樹海熊が踏みとどまらない事を祈るしかないか」

「そうだね。そうなったら、ウィルの命綱を必死に引っ張る私たちが襲われて終わりって感じかな?」

「まぁ、そうはならないさ」

「だといいけど」


 自分の言葉に偽りはない。もう一度腰の矢筒に静かに手を回して、マジックアローの存在を確認した。こいつがある限り”そうはならない”し、そうはさせない。

 白い樹海熊の位置はまだまだ遠くだ。こちらの決意を知る由もなく、ウィルは硬い動きで歩みを進めている。



 白い樹海熊の本当の大きさを認識できる近さへ到達するまでに、利用できそうな二つの雪庇があった。それはウィルにも伝えてあるので、作戦に使えるだろう。

 そして白い樹海熊についてだが、これがびっくりするほど大きい。自分が知っている熊とは二回り……いや、四回りは大きい。白い巨体で輪郭が周囲の雪景色に溶け込み、ぼやけていただけで、その姿を見ると、人間如きが対抗できる存在ではないことが十分に認識できた。


「あれを50人いたら倒せるっていうのか……」

「エルフには、今まで続けてきた狩り方があるんだよ。人間がいきなりするのは無理」


 既に我々の150フィート(50m)先を歩くウィルは、樹海熊から1000フィート(300m)程まで近づいている。そして白い樹海熊も、こちらの存在をしっかりと認識しているようで、いつの間にか尾根の上に二本足で立ち上がり、こちらを見つめていた。その威容は、今まで北方樹海で見たどの動物、魔獣よりも威圧感がある。


 ウィルが少し歩く速度を落とし始めて、樹海熊から視線を外すことは無くなった。


「まだ動かないか…?」


 800フィートの距離に近づいても、向こうは動く気配がなかった。ウィルは一歩一歩確実に近づいていく。


「もう限界だぞ」


 既にウィルは500フィート(150m)の距離にいる。


「おーい!!ウィール!!とまれぇー!」


 こちらを振り向くことはないが、ウィルが停止したので声は通っているようだった。風の音のみが響き渡る尾根に、白い樹海熊と我々が距離を保って対峙している。

 300フィート(100m)で彼を停止させたのは、矢で挑発するするという作戦だ。これ以上近づいてしまうと、ウィルが必ず捕まってしまう。

 事前に共有していた通り、自分の腰から普通の矢を引き抜き、弓に番えた。


 距離は分かっている。緊張することはない。


 立ち上がり、こちらを向いている樹海熊の顔に向かって狙いを定めた。


 風は……右から。外套が揺れるくらいだ、そこそこ強い。


 放った弓矢は一直線に白い巨体に飛んでいくが、太い腕を上げたかと思うと叩き落とされる。


「なっ!叩き落しやがった」

「樹海熊はよくやるよ」


 事も無げに言うパウラは、樹海熊の動きになれているのか表情さえも変えていない。

 ただこちらとしては、もともと刺さることはないと分かっていても、叩き落されるのは少し悲しい。そして微動だにしない白い巨体は、猟師の家系としてのプライドを打ち砕く。

 2本目、3本目と放っていくが、また叩き落され、避けられ、結局当たらない。だが、数発の無力な挑発は効果があったようだ。


「動いた」


 白い巨体は二本足から、四本足に戻りその視線は確実に手前にいるウィルに向いていた。白い樹海熊は口を半開きにして威嚇するような顔をした。


「来るぞ!!ウィル!!!逃げろ!!!!」


 新雪を蹴散らすように走り出した樹海熊は、ウィルに一直線に向かって行く。だがウィルの反応も早い。こちらが声をかけるか掛けないかのタイミングで走り始めた。あとは自分達も、一番近い雪庇の奥まで走り続けるだけだ。

 

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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