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13.樹海熊


 サルキは静かに目を閉じて考えている。自分達の間を尾根を吹き抜ける空気が切り裂く音がした。


「森の手としては、白い樹海熊を倒さないで頂きたい。このまま立ち去るのを待ちましょう」


 苦虫を噛み潰したような表情のサルキから出てきた言葉は、普段は任務を最優先とする彼からは想像できない言葉だった。それほど森の手という集団において、幸運の印というのは大事にしているモノなのだろう。


「なっ!”立ち去るまで待つ”っていつ避けるか分からない上に、襲って来るかもしれないんだよ?それにもし一日動かなかったらどうするつもり?」


 パウラは怒り心頭の様子でまくし立てた。彼女は慣れていない冬の樹海を進んでいる我々を導く責任を感じているようだった。


「パウラ、落ち着くんだ。なぁサルキ、その幸運の証というのは森の手にとってなのか?それとも獣人にとってなのか?それとも信心においてか?」

「”森の手にとって”です」

「由来はあるのか?」

「団長と副団長、私の他に今は亡き2人の獣人。森の手最初期の5人が最初の任務で、樹海に来たときに遭遇したのが白い樹海熊で、それ以来森の手が大きくなっていく機会を得る度に、白い樹海熊との遭遇が有りました。それが幸運を運ぶ由来です」

「なるほどな……最初に遭遇した時は、どうしたんだ?」

「5人で倒せるわけもなく、木の上で息を潜めてやり過ごしました」

「それ以外の時は?」

「それ以外もただ見かけたり、やり過ごしています」


 ”やり過ごしている”というのが重要だ。これの解釈を広げると、別に追い払っても問題ないのではないかという考えが生まれた。ただ、一緒に行動する以上森の手の、ゲン担ぎを尊重したい気持ちもある。


「では”騎士団”だけで追い払うのは?」

「う~ん……いやぁ……」


 ここで森の手を外したのは、森の手に手出しをさせない事で”やり過ごす”という解釈に出来ないかという言葉遊びだった。だが、この言葉遊びもサルキに悩ませるほどの効力はある様だった。

 随分と長い事悩んでいるサルキを見ていると、一つの考えに思い至る。


「すまないな、これを返事したら認めたことになってしまうか。おーい!エドガー!ウィル!カール!こっちに来てくれ」

「いえ、あの」

「サルキ、離れる間の部隊の指揮を任せた」

「……了解」


 本隊から数歩離れた所にパウラとエドガー、ウィル、カールを集合させ、どう追い払うかの話し合いを始めた。


「いいか、あそこに蠢いている影が見えるだろ?樹海熊らしい。奴を騎士団のみで”追い払う”」

「騎士団だけで追い払うんです?」


 サルキとの会話を聞いていない3人の疑問は当然のことだったので、少し長くなったが最初から話の流れを説明した。


「……てことでパウラ、樹海熊の弱点とか教えてくれるか?」

「そうね、普通に右側胴体下部とかだけど……それは心臓が近いからなんだよね。追い払うための弱点とかだと……大きな音が苦手だと聞いたことがあるけど、この時期に南に下って来ている白い樹海熊なんて狂暴に決まっているから、少し難しいかも」

「瀕死まで追い込むしかないか?」

「いや、多分瀕死まで追い込んでも引かないよ。あいつら飢えているからここにいるし」


 これは困った問題だ。先程サルキに騎士団だけで追い払うと見栄を切った以上、絶対に死なせてしまう事だけは避けたかった。

 ちょっとでもいい案がないかと、皆で意見を出し合うがいいものは無かった。最後にはカールが「知らない振りして倒しちまおう」とかいう始末だ。


「……パウラさんは、雪山に詳しいんですよね?」


 口を開いたのはウィルだ。


「まぁ、ここにいる人たちよりは?多分ね」

「さっきから崩落しそうな場所を避けるように誘導してくれてますよね?」

「そりゃ、雪庇は避けないとね。この人数で踏み抜いたら崖下まで落ちちゃうよ」

「その雪庇とやら、使えませんか?」


 ウィルの言いたいことが理解できた。

 雪庇の上にあの巨体の樹海熊が乗れば、直ぐに重さで崩落して真っ逆さまだろう。


「……使える、かも?」

「いい案だ、ウィル。今の所一番いい」

「ありがとうございます」


 横を見るとパウラは、樹海熊との間で使えそうな雪庇を探すように、目を遠くにやっている。


「パウラ、ありそうか?」

「まってね……いや……あれかな。ありそうだよ。ここから2,000フィートくらいのあそこ、尾根が少し盛り上がっている所が怪しい。多分探せば他にもあると思うよ」

「出来る場所はある、あとはどう誘導するかだな」


 難しい表情で上を見て考えるカールの言う通りだった。

 雪庇の先に誘導するには、必ず囮が必要になる。そしてその囮は、雪庇の崩落で樹海熊と一緒に崖下まで真っ逆さまに落ちていくことになり、必ずその囮は助からない。


「登って来たときに皆を繋いだロープはあるか?」


 カールがウィルに聞くと、頷きが返って来る。


「そいつで囮役を繋ぎとめて、俺と何人かで踏ん張ればなんとかなるかもしれない」


 怖いが、カールの巨体なら囮の一人や二人くらい余裕で持てそうだ。

 あとは肝心の囮を誰がするかだが……




 

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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