11.山越え
入った洞窟は冬であるはずなのにどこか湿っていて、どこからか水の滴る音が響いていた。
「ちょ……っと、気味悪いな」
「そうですね、なんで冬に水音がするんでしょうか」
先に前に進んでいくパウラの代わりに、後ろから追いついたラナーが返事をした。確かにラナーの言う通りで、冬の真っ只中で極寒の世界のアイボリー山脈かつ、その上の方だというのに、水音がしているのは不思議な事だった。
「火山だからでしょう」
今度は後ろから来たサルキが、ラナーの代わりに答えをくれる。
「火山ってあれだよな?山が火を噴くっていう……ここがそうなのか?」
「はい。ここの火山が最後に噴火したのは、自分達が生まれるより大分昔の話だそうですが、今も生きているという噂が有ります」
「一回火を噴いてもまた噴くことがあるのか……」
今また火を噴くのでは?と少し怖くなって周りを見回しているとサルキが思い出したように目を開いた。
「そういえば、リデル隊長は王都付近出身でしたね。随分長い事こちらにいらっしゃるような気がしてました」
「王都付近は小高い山しかないからな、火を噴く山というのは初めて見る。外目には分からないものだな」
「外は普通の山と同じですよ「おーい、離れないでー、分からなくなるよー」」
「すまん!今行く!」
奥で揺れる松明の奥からパウラに催促された。
中に入って行くと、先程の渓谷より若干横幅が狭く天井が低い状態が続いていた。普通の身長であれば大丈夫だが、カールはずっと辛そうで時折頭をぶつけては、ヘルムを被りなおしている。わざわざヘルムを森の手に借りてつけていなければ、カールの額は今頃血だらけだったに違いない。
これまでの登山で疲れ切っているのか、いつもだったらもう寝るくらいの時間なのかは分からないが、時折眠気に襲われる。いつもだったらぼんやりとしながらでも歩けるのだが、洞窟の足元は水でつるつると滑るので油断ならず、無駄に神経を張らなければいけなかった。
「やっと着いた~……ここが今日の宿営地だよ」
「おぉ」
洞窟の中を歩き続け、やっとの思いでたどり着いた本日の宿営地は、これまでの洞窟より天井は2倍高く、広さは10人が横並びになっても大丈夫そうな場所だった。奥行きも入り口からだと松明の光が届かない程度には大きい。
足元が岩なので天幕は立てられず、洞窟なので火を使えないというなかなか不便な野営だった。そのまま食べる野菜の漬物と干し肉は、塩辛い上に歯応えがあり過ぎる。スープが無ければ体が温まらず、急に歩きやめた体は汗が冷えて少し肌寒かった。
冷えた体を温めるために天幕を取り出し、体に巻き付けて暖を取る。他の者達は寝る場所を少しでも柔らかくする為に天幕を地面に広げていた。バックパックを枕にして天幕を体に巻き付けて横になると、あっという間に意識はまどろみの中に消えて行った。
「おはようございます」
「……おはよう」
ラフから声を掛けられたが、周囲は昨日と同じく真っ暗でまだ夜かと錯覚させ、まだまだ寝たりない気分だ。だが、徐々に覚醒してきた意識が、ここは洞窟の中でどれほどの時間寝ようと、周囲の明るさは変わらない事を思い出させた。
「もう出発の時間なのか?」
「パウラさん曰くそうらしいです」
少し離れた場所で寝ていたパウラが、起き上がって自分の荷物をまとめていた。ここでパウラが出発の時間だというのであれば、起きなければいけない。自分の荷物もゆっくりと片付け始めて、昨日の夕飯と同様の不味い朝食を口に無理矢理入れた。
「全員いるな?」
「はい、確認しました」
「パウラ、それじゃあ先導を頼む」
「はーい」
宿泊した広い空間を出て行くと、昨日と同じくらいの広さしかない洞窟が続いていた。今日は後ろの方にいるカールが、天井にヘルムをぶつける甲高い音が時たま響き、思わず笑いそうになってしまう。
今日の道は昨日の一直線に近い道順と違って、右に行ったり左に行ったり、時折現れる分岐をパウラが先導し、立ち止まることなく進んでいった。ここまで複雑だと迷ってしまう場面も出てきそうだが、パウラはそんな様子は一切見せない。
「ここが出口だよ」
「えっ?」
パウラが指さす先には確かに洞窟の出口があるのだが、そこは雪と氷で壁が出来ていて、上の方に空いている隙間から流れ込む風が、外の空気を運んでくる。自分で少しその壁を蹴ってみるが、びくともしない。
後ろの方でヘルムを森の手に返していたカールを壁を壊すために呼び出し、数回戦鎚で壁を殴ってもらうと雪と氷の壁が崩れ、外の風景を拝むことが出来た。
「空気が美味しい気がしますね!」
「そうだな、晴れていて良かった」
一歩外に踏み出すと、テラスのように張り出した岩棚の下に出た。吹き込んでくる空気は冷たいが、岩棚の奥に見える空は淡い水色の快晴だ。
あの洞窟の中にいる時はいつこの山が火を噴くのかと、どこか不安なままずっと過ごしていた分、岩棚の奥の空から降り注ぐ陽の光が、これほど心地よいと思ったことはなかった。
「さぁ、進もうか」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




