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10.登山


 朝食が終わり出発した50人は登山を始めた。

 段々と木々の密度と高さが下がり、植生も高い山の物に変わってきた。ゆったりとした傾斜から急峻な地形へと変化し、そこらで露出した岩肌には雪がこびりつき滑りやすい。時々足を滑らせた騎士団の男達が驚く声が、そこらに響いていた。

 山を登り続けていると、息が切れることが多くなった。自分は体力がある方だと思っていたので困惑していたら、高い山では体力が落ちるという事をサルキに教えて貰った。とうのサルキは獣人の恵まれた心肺機能で、全く疲れている様子を見せていない。


「嵐が来そうですね」


 隣を歩いていたラフが立ち止まり、空を見上げて呟いた。


「そうなのか?確かに少し雪の降りも強い気がするな」

「おそらく、直ぐにひどくなりますよ。少し急ぐかビバークできる場所を探さなければ」

「ビバーク?」

「風雪を避ける事です」

「そういう言葉があるのか」


 聞いたこともない言葉だった。北方樹海に住まう者達にとっては当たり前の言葉なのだろうか。


「ハァハァハァ……リデル隊長よぉ、ハァ…どこまで登ればいいんだ?このままだと山を登り切っちまうぜ」


 大きい体をやっとの思いで運んでいるカールが追い付き、息を落ち着かせている。カールが息を上げながら見上げる先には、雲と雪で見えないが遥か高くに山の頂があるのだろう。


「パウラの話だともう少しらしいんだけどな……話を聞こうにもあそこまで行くのは……」


 雲と自分達の隊列の間に、サルキと部下5人を従えたパウラが歩いているのが見える。自分は表情まで見えているが、他の者達は見えていないかもしれない距離だ。後ろを振り向くと、遅れ気味だった騎士団員たちがやっと追いつき、最後尾のカンブリーが見えた。


「全員追いつきましたね。すぐ出ますか?」

「いや、少しだけ休む。その間に、全員にロープを渡して掴ませるんだ」


 徐々に強くなってきた風雪が顔に打ち付け始め、冬の高山は荒れ模様になりそうだった。このまま出発すると必ず遭難する者が出て来ることは、火を見るよりも明らかだ。その対策として全員にロープを掴ませるしかない。

 それぞれが持っているロープを持ち寄り結び付けて、長い1本を作った。それを全員がつかめる事を確認して出発だ。最後尾のカンブリーは体に縛り付けているから、これで誰も置いて行かれることはない。


 鼻より下をマスクのように隠していた布は、雪が固着して息がしづらい上に、自分の吐いた息の水分でまつ毛に氷ができて非常に前が見づらい。先頭を歩くラナーが、上で待っていたサルキとパウラの一団に追いつき、なんとか進んでいる。だが、この何も見えない状況で自分達の位置を把握できているのはパウラくらいなものだった。

 

 どれくらい歩いたかもわからない、今が何時なのかもわからないほど、ただひたすら歩き続けたある時、前を歩いていたラフの背中にぶつかった。


「ん?どうした?」

「到着だそうです」


 顔中に付いた雪を振り落とし前の方を覗いてみると、岩肌に走った大きな亀裂が見えた。人がひとり何とか通る事が出来そうなその隙間の前に、パウラが立っている。


「パウラ、これか?」

「そう、これ」

「ここに入っていいのか?」

「大丈夫だよ、私が先に入るね。少し歩くことになるから、松明貰えたりする?」


 松明を受け取ったパウラが岩の切れ間に入るのを見届けて、一人ずつ後に続いた。自分の前を歩くカールがいつその体の大きさで引っかかるか不安だったが、ギリギリ通れている様で最後まで引っかかる事はなかった。


「おぉ」


 感嘆の声を漏らしたのは自分だけではなかった。後ろから続く者達も、岩の切れ間を抜けた先にあったものに思わず声が漏れている。

 人が4~5人並んで歩ける空間の両側から岩肌が迫り、上を見上げると層になった雪が完全に上の方を蓋している。中は光が通っておらず、松明の光が無ければ見えないほど暗い。


「暖かいですね」

「でも、風は通っているんだな」


 風雪に晒される外とは大違いの環境に思わず一番上の外套を脱ぎたくなるほど暖かかった。だがしっかり入口から出口まで風は通っているようで、手に持っている松明が時々揺れている。


「この渓谷をしばらく歩きます、付いて来て下さい」


 パウラはそう言い残すと、少し急ぎ目の足取りで渓谷の中を進み始めた。

 自分達以外誰もいない渓谷に、50人の地面を踏みしめる足音と松明の揺れる音、装備と荷物が擦れる音が響いている。少し体力は落ちたままだが道が平坦なぶん、洞窟の中で遅れるものはいなかった。

 静かな洞窟を進み続けると、時折天井となっている雪の層に空いた隙間から、そとの雪が降り注いでいる。天井を照らしても雪と暗闇しか見えないのは外が嵐だからなのか、それとも日没の時間を過ぎて光が入って来ていないのかは、既に時間感覚を失った自分には分からない事だった。


「ここが洞窟の入り口」

「結構遠かったな」

「洞窟はもっと長いんだ……少し入ったら広がっている場所があるから、そこまで止まらずに行こう」


 漆黒の暗闇が口を開ける洞窟に、松明を持ったパウラが慣れた様子で入って行く。

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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