9.森の手
次の日の朝、起きた時の暗さはまだ夜かと錯覚させるものだった。
天幕の上に積もった雪が光を遮っていたのだ。潰されないよう天幕の上に積もった雪をパンチで振り落とし、膝と足首の間程まで積もった雪をラッセルしながら天幕から苦労して出ると、空は雪がちらついているが、まだ大人しいものだった。
まだ誰も起きている様子はなく、火の番をしている所に森の手の数人がいて、その中には見知った顔の者もいる。
「おはよう、ラナー」
「おはようございます。早いですね」
「昨日は嵐みたいなもので、皆寝る時間も早かったからな。見張りは大変だっただろう?」
「いや、自分が交代した時には降り止んでましたよ。前の番だったカンブリーが雪だるまになっていた位です」
真面目で小柄なカンブリーが、厚手の外套の上に雪を積もらせて顔だけ出ている場面が容易に出てきた。
「ハハッ、それは見てみたかったな」
「でしょう?鼻水垂らして面白い顔してましたよ。話は変わりますが…自分が今日の最初の先導なんですが、道についてはパウラに聞けばよろしいですか?」
「いや、昨日聞いたらもう少しで目的地だそうだ。今日は先導隊は出さずまとまって行く」
「わかりました。あっ、失礼しました。朝食まだですよね?このスープどうぞ」
「ありがとう」
火種を貰って自分で調理しようと思っていたのが、用意していた朝飯を一緒に食べることになり、ラナーの事を聞く機会ができた。
そこで出てきた衝撃の事実が、ラフとラナーは双子ということだった。自分は獣人を目にする機会が少なかったこともあってか、あまり顔つきで見分けることが出来ないのだが、そもそも二人は毛色が違って黒と茶なので双子だとは驚いた。
双子の他にもう一人、年の離れた兄が居たそうだが、両親と共に部族間の争いによって死んでしまったらしい。そこで敵対部族に奴隷として売られたところを、買い取ったのがサルキだそうだ。
ラナーが曰く、コルソ団長の次に森の手の古参がサルキで、その次が副隊長という順番で、サルキは帳簿が嫌いだと副隊長に押し付けて、ずっと前線に出続けている老兵であり前線指揮官だと語った。だが、その言葉に馬鹿にするような意図は無く、むしろ自分を拾ってくれた、叩き上げのサルキを尊敬するような語り口だ。そして森の手は基本的に、ラフやラナーの例のように戦争などで身寄りの無くなってしまった者達が、多く在籍している。彼らの森の手に対する忠誠は篤い。
そもそも森の手は、元々冒険者集団として北方樹海の東の方で旗揚げした彼らは北方樹海周辺を移動しながら、魔物を狩り、賞金を稼ぎ、時には荒くれ者クランとの争いを制し、吸収しここまで大きくなった。今の規模に近い大きさのクランに成長した時、カーマイン辺境伯領で行われていた交易の護衛や魔獣の討伐に参加した事で先代の辺境伯の目に留まったそうだ。
カーマイン辺境伯家に付いた後は、幾度となく行われた王国と帝国の戦争で活躍し続けて、今の傭兵集団で冒険者集団の彼らがカーマイン辺境伯領の重要な会議に出席するに至った。最早、カーマイン辺境伯家にとっては、ベゴニア子爵家、マクナイト男爵家、バーミリオン家と並ぶ重要な家臣団のひとつと言ってもいいだろう。
王国の法にある、辺境伯以上の上級貴族の影響下における貴族の数を制限するものは、傭兵団に対して適用されない為、辺境伯は良い抜け穴をついて戦力を維持している。それを出来るのも、北方樹海との交易で十分な利益を得ているからという理由がある。そして辺境伯の城下町には、常に交易護衛の為にほかの傭兵団がいて、それも戦力になるのだ。計算され尽くした領地運営だ。
「すいません、長々と話してしまいましたね」
「いや、面白い話を聞けたよ」
段々と時間が経つにつれて、色々な天幕から物音が聞こえ始める。そして、自分達の天幕前を必死にラッセルし朝飯を作るためのスペースを作っていた。朝の食事も貰って、有益な話も聞けた。もうそろそろ自分の天幕の片づけに入ってもいいだろう。
「じゃあ、また後でな」
自分の天幕の片づけを始めると、まだ朝飯も食べれていない部隊員たちがすっ飛んできて、代わりにやろうとするが、さっさと自分の準備を終わらせるように伝えて、自分で最後まで片づけた。
いつも通り集まって食事を始めた部隊長たちに、食事をしてもらいながら今日の計画を聞かせて、傷が悪化した者も居ない事を確認できた。予定通り山越えできそうだ。
「今回は、遭遇したのがアーマードウルフだけなのは幸運ですね」
「そうですね、ここまで深く樹海に入って”デカブツ”共に会っていないのは珍しい」
サルキとクレスが話し始めると、パウラが得意気な顔で頷いている。
「当たり前でしょ?しっかりいないルート通ってるんだから」
「パウラは東側の樹海についても詳しいのか?」
「そこまで詳しくないけど、経験と知識を活かして避けることはできるよ。あいつらにも動きのパターンがあるからね」
「そうなのか」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




