6.アーマードウルフ
雪と木がひたすら続く同じ景色を眺め続けるのは、全く移動している感じがせず精神に堪えるものだ。これが前回のように”敵がいるかもしれない”とかの緊張感を持っていたらまた違うのかもしれないが、今回は完全に移動を目的にしている上に、魔獣の活動も弱まる冬。第二哨戒ポイントを過ぎてから変化のない日が続いた。
前回探索した支流を渡ったところで野営となった。前に帝国軍と遭遇した場所よりかなり山側で、川の浅いところを探さずとも、低い気温で結氷し渡ることが出来る場所だった。いくら川に分厚い氷が張って凍結していると言えど、荷物も合わせてかなり重くなっている自身の体が、氷の下の冷たい水に落下することを想像するだけで恐怖が心の底から出て来る。もしここにフレディが居たら前よりも大騒ぎする姿が想像できた。
「あすにはアイボリー山脈の麓か?」
「えぇ、木々に遮られ見えておりませんが、既に1日の距離ですし明日の昼過ぎには到着します」
「そうか、パウラどうする?4日目までは森の手の先導でいいのか?それとも君が先導するか?」
「そうだね、明日から先導しようか」
「となると、パウラは先導部隊に合流か」
「そうね、しっかり付いて来てよ?」
「それはもちろん。明日の先導隊は?」
「俺らです、昼前までラナー隊が担当します」
「パウラを頼んだ」
「もちろんで「報告!!報告が!」」
火を囲みながら部隊長と話し合いをしていると、サルキの横に暗闇から獣人が現れた。「報告!」と叫ぶ彼は焦りが隠せていない。
「なんだ、どうした?」
「魔獣の臭いがします、恐らくアーマードウルフ」
「数は?」
「3つのウルフパック(狼群)、大体30が川以外の方面全てから来ます」
「追い込み漁か……流石にあいつらは頭が良いな」
サルキの言う通りだ、アーマードウルフは頭部と胴体が硬い骨の様な物で覆われているオオカミだ。オオカミの例に漏れず、彼らは10頭弱の群れで行動し集団で狩りをする。だが、3つのウルフパックが同時に来ることがあるのは知らなかった。
「サルキ、北方樹海では3つのウルフパックが同時に来ることがあるのか?」
「これは、ここいらのアーマードウルフパックの習性です。北方樹海では冬の獲物が少なすぎて、飢えることが多いらしく、ウルフパックが3~4つ連合して狩りをすることがあるんです」
「なるほど、アーマードウルフが30となるとかなりきつい戦いになるな」
アーマードという言葉通りの固さを持つ体を貫くためには、弓の鏃は貫通せず接近戦をする必要が出て来る。もちろんアーマーの隙間を狙える力量があれば良いのだが、それを私以外には無理があり期待はできない。
「アーマードウルフは木を登れるか?」
「いえ、登れません」
「見張りを呼び寄せろ、アーチャーは木の上に登るぞ!3人以上の人数で組め。近接部隊は地上でシールドウォールだ陣形は方円陣」
周囲の手近な木の上に陣取った、同じ木の他の3人は森の手の者達。他の騎士団のアーチャーは慣れていない様で、まだ苦戦していた。下では盾を持つ騎士団が、小型の盾やそもそも盾を持たない森の手の者達を、守り囲むように方円陣を作っている。
「急げ!近いぞ!!」
まだ木の上に登れていない騎士団員を、カンブリーが無理矢理引っ張り上げた瞬間、そこに暗闇から大きな口が嚙みつこうとして空振りをする。長い鼻先と大きな口に、黒い毛並みを持ち頭から胴体の上を白い外殻が覆うそいつは、アーマードウルフだ。カンブリーの引き上げが少しでも遅かったら、騎士団員は不気味なオオカミに噛みつかれ、闇に引きずり込まれていたところだろう。
「撃て!撃て!!」
闇の中から次々湧き出て来るアーマードウルフに、手近な獲物な下にいる騎士団員と森の手はあっという間に囲まれた。援護の為に木の上から矢が次々に降り注ぐが、敵の外殻の間や足などの露出した場所を射抜けているのは、自分とパウラの矢のみで他は全て弾かれている。
「来るぞ!!備えろ!」
サルキが叫んだ声に騎士団員が身構えた瞬間、一斉にアーマードウルフが襲い掛かり始めた。盾を飛び越して来ようとするアーマードウルフたちを、方円陣の内側にいる者達が叩き返している。なかでも2つの戦鎚を持つカールは、片方の戦鎚にアーマードウルフの外殻を引っかけるとそのまま内側に引きずり込み、もう片方の戦鎚で外殻ごと頭を粉砕している。これが遠目に見ると、簡単な作業に見えるのだからカールはすごい。
シールドウォールを構成する騎士たちも、乗り越えようとするアーマードウルフたちの外殻のない腹部に下から剣を突き上げ倒している。これが近衛でのアーマードウルフの倒し方だった。この間違いがない堅実な方法で、着実にアーマードウルフを減らしていった。
「やっとか……」
戦闘が終わり地上に降り立ったのは1刻ほどたった後だった。
「まさか、コイツら全滅するまで戦うとは」
「見たことないぞ……」
「私もです」
「よっぽど空腹だったのか」
周囲の雪はアーマードウルフたちの鮮血に染まり、未だに燃えている焚火と自分達の松明によってキラキラと光っていた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




