4.出発
前回の北方樹海の調査時とはウィルの態度が正反対だ。この前はいまこちらに疑いの目を向けている者達のように、手を振るなんてする気配さえなかった。
疑いの視線を浴びたからと言ってエルフを連れていることに後ろめたい事もないので、ゆっくりと自信を持ってウィルの元に向かって行く。
「ウィルか」
「私の集めた者達は全員いますよ。準備完了です」
ウィルの後ろには9人の男たちがいる。後ろの者達はその他大勢と同じ疑いの目を送っている分、ウィルのみが自分に信頼と親愛の視線を送っているのが際立って分かる。
「ありがとう」
「自己紹介させますか?」
「いや、いい。流石にこの人数は覚えられないからな」
集合地点一番乗りは半刻前にはいたというウィルだった。その後は集合時間が近づくにつれて、徐々に人数が集まって来る。50人もの人間が集まると、それぞれが小声で話していても随分と騒がしく感じるが、自分の声が届く範囲には部隊員の選抜を依頼した8人がいた。
「うん、これで全員いるか」
「はい、います」
エドガーにウィル、森の手のサルキ、クレス、ラフ、ラナー、カンブリー大して時間が経っていないが懐かしい顔ぶれだ。そして新顔の筈のカールはその貫禄と態度で、あたかも一番古株かという態度だ。
ふとここにフレディとアントンが居ないのは自分の責任でもあるなと考え、少し心に暗い影が落ちるが表情には出さないように努めた。
「じゃあまず最初に。断らないでくれてありがとう、メンバー集めも助かった。今回の任務は聞いていると思う。」
全員が頷きながら、自分の話を真剣な眼差しで傾注している。
「命がけの任務になるが、必ず皆を連れて帰って来る。その為に私が信頼している君たちにそれぞれの部隊の隊長を頼みたい」
「お任せください」
エドガーが予想通りという顔で返事をした。頼んだ時点で予想できていた事なのかもしれない。
「各部隊の人数はこのまま変えるつもりはない。動き方については適宜指示する」
「了解しました……あの~隣のエルフが噂の?」
「あぁ、紹介していなかったな。今回の先導をしてくれるパウラだ」
「久しぶりだな。よろしく嬢ちゃん」
カールは思い起こせばパウラを保護した時に一緒だった。自分は完全に忘れていたが、カールもよく覚えていたものだ。
「久しぶりね、熊みたいな坊や。多分、私の方が年上よ」
ぎょっとした表情をしたのは自分だけではなかった。カールも他の部隊長たちも一様に驚いた表情で彼女を見た。明らかに子供……といっても15~6の見た目だが、まさか30過ぎのカールより年上とは……
言葉が繋げずにいる自分達に、先程までのお姉さま口調からラフな感じに戻って話し始めた。
「安心してよ、別に取って食う訳じゃない。それにエルフが男として見れるのは、風魔法が使える弓が上手い男だけだよ」
そう言ってこちらを見つめるパウラは年上の余裕を見せているが、自分の目からは子供が精一杯大人ぶっているようにしか見えない。それでもこの容姿の少女に言われると動揺してしまう。
「そうなのか……それじゃあ騎士団長に報告に行ってくるから、皆で隊列を決めておいてくれ」
うまく歩けているか分からない程パウラのさっきの言葉に頭が回らないが、騎士団長がいる居室には気が付かない内に着いていた。
「リデルです」
「入れ」
鎧を脱いだ姿も筋骨隆々の騎士団長が、窓際でスープを飲んでいる。
「欠員なく50名揃いました。今から出ます」
「そうか、私からは一つだけ部隊を率いるアドバイスを……優先順位の一番上に、味方の命が来ない事もある。という事だけ覚えておいた方が良い」
普段150人の人間を率いる騎士団長の、いつになく真剣な表情で語る貴重なアドバイスだ。
「しかと心に留めておきます」
「うむ、行ってこい。カーマイン辺境伯領の未来、ひいては王国の未来は君の双肩にかかっていると言ってもいい」
「必ずや、成功させて見せます」
騎士団長からの激励の言葉は自分の責任を自覚させるが、それを重荷には感じない。それが前回よりも自分が成長したことを感じさせた。
騎士団長の居室を辞して第四門に戻った時には、綺麗な隊列を組んだ部隊が見えた。そして一人一組用意されたコルテス家の鎧も。
「リデル隊長、いつでも」
「よし、行こう。出発だ」
第四門を出発した50人は、綺麗な2列縦隊で道を進んでいった。先導はいつも通り森の手の部隊が担当する。ラフとラナー、それにサルキとクレスの歩兵隊が続いて、5人組のカールに守られる形で自分とパウラ、その後ろは10人組のエドガーとウィルがいて、最後尾はカンブリーの弓兵隊が務める。
前の部隊規模の5倍だ。近衛騎士団から追放されて1年も経たずに、自分が部隊を率いる立場になると思わなかった。
「リデル隊長、間もなく北方樹海です」
「森の手は話した通り、索敵の為に先行してくれ。パウラ曰く、第二哨戒ポイントまで行って良いそうだ」
「了解」
10人の森の手の男達が、樹海の中へと駆け出していく。その後ろに着いて40人が北方樹海へと入って行った。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




